#3279/5495 長編
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真実の記憶 4 御乃字
★内容
「ホッフさん、クリスさん、絶対に、必ず取り返してみせるからなー!」
車のエンジン音が山の中を木霊していた。一本道である山道からは、
小屋は次第に小さく、そして見えなくなり、何時のまにか山を抜けてい
た。風景はあっという間に自然から都会へ変化し、見知らぬ町、いや、
記憶に無い町が早回しのように過ぎさっていった。ふと右の窓を覗いた
ミリアムは、あることに気づいた。
「じいさん、この壁は?」
右の窓にうつっていたのは、紛れもなく白く大きく、そして延々続いて
いる壁。後ろを振り返ったところで、先は見えなくなっている。無論、
前を見ても同じだった。コンラッドの顔が少々笑んでいた。
”キィッ”
ブレーキ音とともにゆっくりと車が停車した。白い壁に少しへこんだ場
所があり、そこには扉があった。人の3倍はあろうかという、大きな壁。
「ミリアム様、到着いたしました」
車を降りたミリアムは、それを見て呆然とした。壮大な門、水平線の彼
方まで伸びているような壁、その中にそびえている大きな屋敷。確かに
コンツェルンと呼んでいるだけはある。しかし、それはまるで刑務所の
ようでもあった。本当に自分の家なのかという葛藤が、自分を襲った。
「おかえりなさい、お兄様」
門のほうに振り返ると、微笑んでいる女の子が1人立っていた。
「妹の、シーナお嬢様でございます」
コンラッドはそう言った。見憶えがないのはしょうがないが、長く黒い
髪にすらっとしたスタイル、母親似なのだろうか、いかにも可愛いとい
う感覚に満ちた貌である。
ミリアムは辺りを見回して、何か足りないのに気づいた。
「なあ、父親と母親の姿がないんだけど・・・」
コンラッドは、スーツの内ポケットから手帳を取り出した。
「お父上様の名は、デリンガー・マッシュ・ベル。現在シベリア地方の
森林伐採交渉会議の為にロシアに出張しております」
ミリアムは、ふうん、といった表情で、建物を見た。
「・・・母親は?」
コンラッドの表情が強ばった。
「お母上様の名は、デリンガー・ルシー・マリネ。げ、現在アリカ支部
の懇談会に出席しております」
ミリアムは、聞いてか聞かずか門をくぐった。
屋敷に続く道の左右には、何百、何千にもなる使用人がつらなり、い
かにもといった具合である。しかし、それは卒業式のような感動ではな
く、まるで刑務所の13階段をのぼらされているような気分のようだっ
た。普通、車で門を通過するものだとばかり思っていたが、以前自分が
歩くと言ったらしく、ここからの長い道のりを歩かなければならなかっ
た。
@@@
自分の部屋に入ったミリアムは、全身の力が抜けたようにベッドに倒
れ込んだ。それは別にふかふかのベッドが嬉しかった訳ではなく、本当
の疲労からくる欲求だった。仰向けになったミリアムは、部屋の中を見
回した。意外に小じんまりとしている1ROOMの、ベッドに窓がある
だけのようだ。やはり刑務所みたいなものだ、と感じた。
”カチャッ”
ドアの方でなにやら音が聞こえた。
「ん・・なんだ?」
気になったミリアムはドアのノブに手を掛けた。しかし、どうだろう、
ノブはピクリともしないではないか。鍵がロックされたらしい・・・
「おい!どういうことなんだ?!開けろ!」
すると、左の壁からディスプレイが、その下からはキーボードが現れた。
さらにその隣にはTVのようなモニターがでてきて画面に明かりが灯っ
た。
「ミリアム様、お食事までには時間が有ますゆえ、隣の方にございま
すコンピュータに”帝王学”の全テキストを組み込んでおきました。
じっくりとお勉強下さい」
TVモニターは消え、壁へと戻っていった。
「なんだ、一体・・・」
コンピュータは自動的に動き始めた。ミリアムは、本当に自分はこんな
生活を営んでいたのだろうかと、疑問を持ち始めた。確かにこれだけの
家に住んでいれば、何一つ不自由なく暮らせるかもしれないが。
「もっと、大切なものが見当たらないんだよ・な・・・」
いつのまにか眠りについていた。
@@@
”ピーッピーッ”
耳ざわりな音が鳴り響いているのに気がついたミリアムは、発信源を
探した。それはTVモニターからであった。
「なんだよ、人が心地よく眠っていたのに」
「お食事の時間でございます。ドアをでて左の階段を上りますと、リビ
ングにつきます。決して違う方向へお進みにならないよう気をつけて
下さい」
そういうと、TVモニターの画像は消えた。ミリアムはドアの鍵がが開
くのを確認すると、そのまま右の階段を下り始めた。下りた正面に窓が
あるのが目についたミリアムは、その窓に鍵があるのを確認し、無理矢
理こじ開けてそこから庭に飛び下りた。
”ジリリリリリリ”
庭に無事降りたミリアムだが、何やら騒々しい音が鳴り響いているのに
気づいた。警音とともに、匂いを嗅ぎつけたドーベルマンが、ミリアム
に近づいてきた。その勇ましい目つきは、今にも飛かからんばかりの様
子だったが、コンラッドの一声でそれは収まった。
「困ります、ミリアム様。この様な場所にいては、危険過ぎますゆえ、
さあ部屋にお戻り下さい」
ミリアムは大きく両手を広げて、それを拒絶した。
「嫌だ!なぜ束縛されなければならない?!人間は全て平等だろう、な
らば外に出ても何ら問題ないはず!」
コンラッドは、頭を縦に振った。
「じゃあ、何故・・」
「お父上様のお言葉は、全てにおいて先に実行されるのが、デリンガー
家の掟でございます。私は雇われている身、御勘弁を」