AWC 真実の記憶 5          御乃字


        
#3280/5495 長編
★タイトル (MPN     )  96/ 5/23  22: 1  ( 94)
真実の記憶 5          御乃字
★内容
 食事は確かに旨かったが、精神的には、とてもじゃないが食べれるよ
うな代物ではなかった。しかし、どうしてあの時逃げるような真似をし
たのか・・・。
 強制的に部屋に戻されたミリアムは、窓の外をじっと眺めていた。見
える風景は、唯々住宅が立ち並び、所々に生息している木々。味けない
というか、とにかく詰まらない物であることに間違いはなかった。
 TVが点いた。
「ミリアム様、お父上のベル様がシベリアより御帰宅になられました。
 1階の方に降りてきて下さい」
確かにヘリの音が微かに聞こえる。チャンスはあっという間におとづれ
たのである。ミリアムは急いで部屋をて下へと降りていった。

@@@

「おお、ミリアム!帰っていたか!」
 正に、自分に歳をとらせたかの風貌。間違いなく父親のベルであるこ
とに親近感をいだいた。普通にしてればいいのだ、そうミリアムは思っ
た。
「おかえりなさい、お父様」
シーナが先手を取った。ミリアムは、どう言えばいいのか見当もつかな
い。とりあえず真似をすれば何とかなる、そうミリアムは思った。
「お、おかえり、お父様・・」
オウムの様な気分で続けて言った。どんな答えが返ってくるのか・・
そっとベルの目を見たミリアムは、その険しい顔に耐えられず、目を反
らした。
「・・・やっとお父様と呼んでくれるようになったのか。それでこそあ
 の土地を手にいれた甲斐があったというものだ」
そう言ったベルは、奥のほうに歩いていった。旨くいったらしい。まず
は機嫌をとらなければと思ったミリアムは、ベルに追い付くと鞄に手に
取った。
「私が持つよ、お父様」
しかし、ベルの足が止まった。歩いてきた廊下をゆっくりと振り返り、
顔つきはさっきにも増して険しく変化した。
「コンラッド!コンラッドはいるか?!」
コンラッドは、ゆっくりとベルの方に寄っていった。
「何でございましょう?」
その時である。
”バシッ!”
ベルの右腕が弧をえがいてコンラッドの頬をはたいた。その勢いは、コ
ンラッドの身体を後づさりさせる程度のものではあったが、精神的な威
力として申し分のない平手だった。コンラッドは、はたかれた頬を押さ
えながらベルの方を見た。
「ばかもの!何かあったら連絡をしろと言っただろう!私に嘘をつける
 とでも思ったか?!」

@@@

 夕飯は以外と早く、日が繰れる前に始まった。豪華であるが、これが
デリンガー家の通常の食事内容なのだろう。家族、とはいっても、ベル、
ミリアム、コンラッド、シーナの4人が一緒に食事をするだけのこと。
使用人はまた違ったものを食べているのだろうか、そうミリアムは思っ
た。
「そうか、記憶喪失とは厄介だな。ミリアム、本当になにも憶えていな
 いのか?ほら、3年前の世界一周など、ミリアムが特に喜んでいたで
 はないか」
「全く憶えてないよ。あの土地に関する事ならいくらか・・・」
「それはそうだろう。あの土地はお前が欲しいとねだった物だからな」
コンラッドは黙々と食事していた。
「コンラッド、あの土地はどうなった?!」
「!・・むぐっ」
いきなりの言葉に喉を詰まらせたコンラッドは、急いで水を口に流し込
んだ。ほっとため息をつくと、土地に関する詳細をまとめた話をし始め
た。そう、朝の出来事と一緒に・・・
ベルは椅子を倒して立ち上がり、無言でその場から出ていった。
「お兄様、あれほど喜んでいたのではないのですか?」
そう言ってシーナは食事をそのままにしてベルの跡を走っていった。父
親を慕っているのだろうか。食堂には、2人だけが残った。このままで
はだめだ、そう感じたミリアムは、更にベルの跡を追った。
「どうしたものか・・・マリネ様が生きていられた頃は、食事を中断す
る事すらなかった、こんな生活ではなかった・・」
食堂には、コンラッドが一人、黙々と食事を続けていた・・・。

@@@

「なんで、話が終わる前に聞くのをやめるんですか?!私はあの家で、
 一季節お世話になった。それを恩でないとするならば、あなたは邪道
 だ!」
ミリアムはベルの腕を掴んでその動きを止めた。
「お母様だって、こんな時にアメリカへいって・・」
その時、ベルの体はミリアムの方に振り返り、弧を描くように平手が飛
んだ。
”ゴッ!”
ミリアムの体は宙に浮き、頭は柱に激打した。
「うっ・・・・」
瞬時にミリアムは頭を押さえたが既に遅く、目の前はチラチラとしなが
らそのまま目の前が暗やみと化していった。
「・・・・・コンラッド!」
ベルは、何気ない顔つきでその状況を見下していた。コンラッドは、
あまりに何事も無かったような雰囲気に、いつも通りのペースで歩いて
いた。その状況を把握したのは、辿りついてから・・・。
「ミ、ミリアム様・・・!一体、何があったというのですか?!」
コンラッドは、いつになく静かなベルの目を見つめた。しかしベルは、
しらん、と言うばかり。とにかく救急車を呼ばなければと、コンラッド
は全速力で電話へ向かった。




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