#3278/5495 長編
★タイトル (MPN ) 96/ 5/23 21:59 (113)
真実の記憶 3 御乃字
★内容
ホフマンは、すかさずミリアムを地下の食物庫に連れた。
「な、どうしたんだホッフさん?何かあったのか?!なんでここに居な
ければならないんだ?」
「いいから、ミリアム、絶対にここから出る!」
そう言うと、ホフマンは食物庫の鍵を掛けて上へと上がっていった。湿
気が多く、じめじめしているが結構良い環境のようで、食物を貯蔵して
いるのだろう。ただ、通風口が上にある為、外部の音がよく聞き取れた。
ホフマンが戻って来たときには、既にその3人はリビングの椅子に腰を
掛けて待っていた。
「ほう、デリンガーの・・・。何用でここへ?」
その内の、一人、歳の食った白髭の老人がカバンから、1枚のまだ新し
い写真を取り出し、ホフマンに見せた。
「・・・これは?」
「我々デリンガーコンツェルンの御長男、ミリアム様でございます。あ
なた方がミリアム様に似た人物をかくまっているという情報を仕入れ
まして」
後ろの男が言った。
「コンラッド殿、関わっていては時間の無駄では?」
「そうだな」
すると、残りの2人は合図を受けたの如く、小屋の中を荒探し始めた。
タンスや引き出しは全てひっかき回され、戸棚の物は何もかも下に落と
された。人を捜すのには少々違う気もする行動ではあるが、これも方法
の一つである。白髪の老人は、他の部屋を捜しに、この場所から離れて
いった。
「何の真似だ!止めろ、ここは私の家だ!」
ホフマンは、近くいた若い男に言った。しかし、男は聞く耳持たない
様子で作業に没頭していた。ホフマンは、その男の腕を掴んで止めよう
としたが、男はホフマンの頬に向かって拳を振るった。
”バキッ”
弧を描いた拳は、ホフマンの頬に吸い込まれていき、ホフマンはその場
にしゃがみ込んでしまった。
「お父さん!」
クリスがホフマンに近づこうとした時、殴った男はその腕を突かんだ。
クリスはそれを振り放そうとしたが、男の力には到底かなわない。あっ
という間に男の懐に寄せられてしまった。すでにクリスの力ではぴくり
とも動けない状態にあった。
「へえ、こんな親父にはもったいない女だぜ」
「や、やめろ!」
ホフマンは、勢いよく若い男の足を蹴り込んだ。弁慶部分に蹴りが直撃
し、男はよろめきながら壁に激突した。
「うぐっ・・・く」
男は相当の痛みを訴えながら、クリスを離した。折れてはいないようだ
が、当分起きあがれそうにないようである。。
隣の部屋を探しているコンラッドは、その物音に気づいたらしく、ホフ
マンの居るリビングルームに戻ってきた。
「何をしている。あなたにはそのような権利をお持ちになられていない
のでは?ここは既にコンツェルンの所有地そちらがその気ならば、
こちらにも考えがあります」
「しかし・・・」
ホフマンは立ちすくんでしまった。そう、この土地はすでにデリンガー
コンツェルンの所有地、立ち退きはすぐそこまで迫っていたのである。
「ど、どういう事だ!?」
一部始終聞いてしまったミリアムは、地下の食物庫から飛び出した。
「おお、ミリアム様!お久しぶりでございます、大きくなられて・・・」
「うるさい!あなたなど知らない!!」
「何をおっしゃいます?!コンラッドじいでございます、おふざけはこ
こまでになされて、ささ、車へ」
そう言って、コンラッドはミリアムの腕を掴もうとしたが、ミリアムは
それを大きく降りほどいて拒絶した。
「ミ、ミリアム様・・・?」
コンラッドはその言葉に、口を開いたまま呆然としていた。すると、近
くにいた男がコンラッドに、そっと小耳にかけた。
「コンラッド殿、もしや人違いではないかと」
「・・・いや、間違いなどではない」
しかし、コンラッドの目には疑いの文字が浮かび始めた。生まれてから
十数年、黒子の位置も髪の毛の癖も、起こると左の拳を握るのも・・・
「あの捜査通知に間違いはないはずだ・・・」
「捜査通知?そうか、それでここにいる事がわかったのか。あの探偵・・・」
ホフマンはゆっくり起きあがると、椅子を元の位置に戻し、それに腰を
掛けた。
「まあ、話は大体見当ついた・・・。そんな所に勇んでないで座ったら
どうだ?」
クリスはすうっと台所に戻ってお湯を沸かし始めた。コンラッドと他数
人は、残った椅子に腰を掛けた。
@@@
ミリアムはそんな話は聞いてはいなかったという表情だった。それも
そのはずである。実際には記憶喪失なのだから。しかし、雪の中で眠り
ついていたミリアムが、身体に異常をきたしていないのは奇跡と言える
だろう。凍傷すら無かったのは、ホフマンの介抱あっての賜物である。
一息ついたコンラッドに対し、ミリアムは獣のような目つきで睨んだ。
「さっきの話、一体どういうことなのんだ?!」
「・・・何をおっしゃるのですか、ここはミリアム様が望んでお買いに
なられたのでございましょう」
ミリアムには訳がわからないようである。本当に自分がここを買取った
のか、信じられないという言葉が頭を混乱させた。そんな折、クリスが
運んでくるコーヒーの香りが部屋にたちこめ始めた。クリスは、そっと
テーブルにカップを置き、一言いった。
「ミリアムは記憶喪失なんです」
シンシンと雪の舞う音だけが、何故か家の中に聞こえていた。静かな
部屋は、一段と冷え込みが早く感じられた。心まで冷え込むというのは
この事だというのが実感できる。ホフマンは、一息付くようにコーヒー
をすすった。
「私が望んだ・・・そんな、嘘だ!」
ミリアムはコンラッドの襟を掴んで言った。何食わぬ表情は変わらず、
目を反らそうともしなかったのが判ると、ミリアムは近くの椅子に崩れ
た。ミリアムは考えた。自分は何をし、どうしてここを買取ったのか、
なぜ記憶喪失になってしまったのか。自分が今考えている事すら、嘘に
感じる・・・。
「無効には、できないのか・・・?」
「それは無理なお願いでございます。お父上様の所有物となった今、
じいはどうしようもありません」
ミリアムは、早くこの状態から抜け出したかった。自分のわがままに
よってこの自然豊かな土地が、壊されてしまうかもしれないのだ。前の
記憶はこれを知っていたのか?知っていても、買取る真似をしたのだろ
うか、今の自分との違いは記憶だけなのか・・・。
ミリアムには、ふと思いつく事があった。自分が息子であるならば、
きっとこの出来事を無にすることもできるのではないか、説得の価値は
ある。可能性はわからないが、実行するにことい意義があるのだ。そう
思ったミリアムは、ある言葉を口にした。
「帰る!」
今の根拠のない発言は、全員に我を忘れさせた。