#3270/5495 長編
★タイトル (AZA ) 96/ 5/16 10: 6 (176)
中学校殺人事件 2 永山JH
★内容
「あんた、本当に探偵か?」
「そうですよ。名刺、お見せしましょうか?」
「そんなもんいらんよ。日本じゃね、誰でも探偵って名乗れば、それで探偵に
なれるんだよ。免許や資格じゃないんだ。だいたい、警察がいるのに、迷惑な
んだ、全く」
そんな会話を交わしている内に、探偵部の部員七人が、顧問と共にやって来
た。と言っても、現場内に入れる訳もいかないので、学校の空いている部屋を
提供してもらう。
「久しぶりだね。よくよく、殺人事件に縁のある子だ、君達は」
吉田は、ほんの少しの懐かしさと、少し見ぬ間に成長した子供らに対する驚
きを内に隠しながら、挨拶をした。
「僕らが、縁があるかどうか、分からないでしょ。この学校が、殺人事件に縁
があるのかもしれない」
ふてくされた風もなく、部長の中谷は答えた。
「まあ、それはどうでもいいんだ。この男が君らの知合いだと言ったんだが、
本当かね?」
「はい。昨日、道で会ったというだけのことですが」
「おいおい、それだけじゃないだろ」
刀根の方は、慌てたように口を差し挟んだ。
「今日、君達の部室に行って、少し話していたら、女の子が事件のことを言っ
て来て、僕はとりあえず、退散したんじゃないか」
「本当かね?」
刑事は刀根と中谷部長を見比べ、疑わしそうに言った。
「話自体は、本当です。ただ、この人が本当に探偵かどうか、確認をした訳じ
ゃありませんが」
「つまり、知り合ってはいるが、この男の素性は知らない……」
「そうです」
口を揃えて答える部員達。弱り顔になったのは、刀根。
「困ったなあ。しょうがない。この名刺の電話に連絡して下さい。そこが自分
の務めてる探偵社です。そこなら、自分のことを証明してくれます」
「分かった。それはやってやるよ。だがね、それとは別に、君がここを訪ねた
理由を明きらかにさせないとな。どうして来たんだ?」
刀根は、汗をかきながら、いきさつを話した。
聞き終わった吉田刑事は、まだ信じ切れない顔だ。
「広田小学校での殺人事件を新聞で知り、ここの探偵部の子らや流次郎という
私立探偵が活躍したことを知った。そのことに関する興味だけで、ここに来た
と言うのだな?」
「そ、そうです」
「……とりあえず、はっきりと確認が取れるまで、ちょっとつき合ってもらう
か」
「そんなあ!」
刀根は情けない声を上げたが、それを無視し、吉田は部下に刀根を連れて行
かせた。
「さて、ついでだから、君らに聞いておくか。事件を知らせた十川って女の子
と、どういう友達なのか。知らされてから、どうしたのか」
「どういう友達って、そんなの、説明する必要があるんでしょうか?」
石原が言った。不満そうである。
「いや、別にそんな深い意味はないんだ。ただ、君達のクラブの誰かが同じク
ラスだとか、そういうことを確認したくて……」
「私です。一緒のクラスです」
こう答えたのは中口。彼女が続けた。
「でも、小学校のときから知り合ってましたから、今じゃ探偵部の全員が十川
さんと知合いみたいなものです」
「あら、私は違うけど」
と言った少女に、吉田刑事は目を向けた。知らない顔だった。
「君は? 前の事件のときは見なかったと思うが……」
「彼女は−−」
神風顧問が説明したので、吉田刑事は状況を飲み込めた。話を戻す。
「それで、事件を知らされてからは?」
「十川さんには、部室に誰も近付かないようにしてと頼んで、自分達は神風先
生に知らせました」
と、中谷部長。
「神風さん。あなたはそれからどうしました?」
「校長先生に知らせましたところ、しばらく相談された上、警察の方に」
「なるほど。後は十川って生徒に聞くとするか」
「ねえ、吉田刑事。現場を見せてもらいたいんですけど」
唐突に、三浦が言った。中学生なりの甘えた声。
「部外者には見せられんよ」
「それは建前で、何とかなるでしょう、吉田さんの地位なら」
今度は部長。
「……君らには、前の事件で助言をもらったからな……。捜査が終わって、片
付けかけているところならいいだろ」
「やった!」
部員全員が声を上げた。ぞろぞろと、全員で現場の部室に移動することにな
った。探偵部員が現場を眺めている合間に、吉田刑事は質問を差し挟んだ。
「加藤君を恨んでいたような人は?」
「あ、忘れていた」
田中が問題の紙片を刑事に手渡しながら、話を続ける。
「これを見てもらえば分かる通り、今回の事件はバスケ部に対する恨みが動機
らしですよ」
「ふむ、こんな物がね」
吉田刑事が考え込んでいるところに、中口が横から言った。
「私は個人的恨みの方に賭けます。勘ですけど」
「まあ、その判断は、我々に任せてもらいたいね」
そう言って吉田刑事は、くわえていた煙草を窓の下に落とし、踏み消した。
土に灰が散った。
「あー、だめですよ、吉田刑事。煙草なんか落としたら。昨日、大掃除があっ
たばかりなんだから」
三浦が注意しながら吸殻を拾いに出、また戻って来たかと思うと、刑事に渡
した。苦笑しながら受け取る吉田。実は、鑑識が動いている間は現場周辺で煙
草の灰を散らすことはまずいので、我慢していたのだ。鑑識が終わり、やっと
煙草のありつけたところだったが、思わぬ注意を受けてしまった。
その直後、検視官が姿を見せ、吉田に大まかな鑑識結果を報告をした。それ
によると、死亡推定時刻は昨日の午後六時頃であった。さっき話に出た大掃除
が終わり、下校となってから二時間以上経っていたことになる。ただ、部活は
行われていたので、全校生徒の下校はいつか、はっきりしない。
その他、吉田らが現場に駆けつけたときに分かった死因や現場の状況等を、
改めて探偵部員に伝えた。
「十川って子にも若いのが聞いたんだが……。死んだ加藤豊は、スポーツをや
っているにしてはかなり内気な性格で、思い込むと突っ走ってしまうようなと
ころがあったと言っているんだな」
「そう言われても、僕らはまだ中学に入ったばかりの一年なので、何とも……」
「そうだったそうだった。いや、つい、この間の事件で君らに助けられたこと
を思い出してしまってね。意見を聞いてみたくなるんだよ。まあ、今回も頑張
ってくれたら、我々も助かるな」
本気なのかどうか、吉田は笑いながら言った。そして、
「さあ、現場の開示はこれまで」
と、皆を締め出した。
「俺達に期待しているんなら、もっとじっくり、現場を見せてくれてもいいの
になあ」
部室に戻る道すがら、山本がぶつぶつやってる。
ともかく、部室に戻って、中谷部長が第一声。
「吉田刑事がどう思っていても、この事件は十川さんから僕らに依頼されたも
のだ。だから、遠慮なく、解決に当たらせてもらうってことで。
さて、これからの方針だが、例のごとく多角的にやろう。哲人と山本はバス
ケ部に対する恨み、中口さんは加藤個人に対する恨みの線を調べてほしいな。
三浦さんは警察から漏れ出る情報その他の収集を」
それでおしまいという風に、中谷が口を閉じると、
「私の名前が出ませんでしたけど」
と、城源寺が不満そうに申し出た。
「それは、君が順……石原さんと勝負をしたいと言ったからね。推理合戦をす
る二人は、余計なことに手を煩わしたくないだろうし、片方がわざと情報を隠
すということもできないことはないだろ? ま、そんなことしないと思うけど、
勝負を公正にするためにって訳だよ」
「そういうことでしたら」
大人しく言ってから、城源寺は石原の方をちらりと見やった。
「勝負開始ってところね」
「のぞむところよ。ところで……」
と、石原副部長は、部長の方に向き直った。
「あなたは何をする気? 聞こえなかったのは、私の耳が悪くなったのかな?」
「僕は君達二人の勝負の審判役さ。それで充分だろ?」
しれっとした調子で、中谷は答えた。が、それにごまかされる石原ではない。
「だーめ。やることなら、いくらでもあるんだから。そうね、例えば、二つの
密室の謎を考えるとか。ひょっとしたら、私と城源寺さんの二人とも、解けな
い場合だってあるんだし」
指さして詰めよるように言う石原。それに気迫負けしたか、あっさりと部長
は前言を翻した。
「分かった分かった。そうしますよっ」
最初の「体育館密室事件」発生から一週間ほど経った頃、探偵部の面々は調
査結果を集め、放課後、部室に集まった。
「最初に断わっておくと、密室の謎は未解決のままなんだ。だから、哲人に山
本、調べた結果を言ってくれよ」
中谷部長は密室についてさほど考えた様子もなく、そう切り出した。石原と
城源寺の勝負のことを考え、あえて解こうとしなかったのかもしれない。
「バスケ部に対して恨みを持っていそうなのにあたってみた。不正をした試合
とされている南陵中との関係を調べてみたんだが、どうも不正の噂自体、曖昧
なもんなんだな。単に、うちと向こうのバスケ部に、小学校のときからの友達
がいたってだけの理由で」
山本がぶっきらぼうに言った。どうやら、空振りだったことをつまらなく思
っているらしい。
次に田中哲人が伝える。
「もしやと思って、新聞部による仕業とも考えてみたんだけど、新聞部は部員
全員が当日、火白中学ってところの新聞部と交流会をしに行っていたんだ。だ
から、まず、関係ないね。あと、何らかの理由でバスケ部を無理に辞めさせら
れたのがいるかどうか、調べてみたんだが、これも一人もいない。どうやら、
部に対する恨みじゃないね」
それにうなずいてから、部長は中口の方を見た。彼女は少しノートを見てか
ら、口を開いた。
「加藤っていう人の友人関係を当たってみたんだけど、男の子の友達は、いく
らでもいるわね。でも、恨みを持っていそうな人はゼロ。女友達は逆に、極端
に少ないわ。女子のバスケ部部員を除くと、たった一人しかいないようね」
「ちょっと。女子バスケの人達は、加藤って人とごたごたはない訳ね?」
石原副部長が質問をする。うなずく中口。
「そういうこと。で、その唯一のガールフレンド−−恋人までは行ってないよ
うだけど、その人ってのが玉置雪代さん。二年生で家庭科部。周りの人の話で
は、玉置さん、あんまり加藤豊が死んだこと、悲しんでいなかったっていう噂
よ。と言うのも、この頃、加藤豊の方が一方的に玉置さんを好きになっていた
らしいって。ただ、これらの話、何の確証もないのよね。噂の域を全く出てい
ないわ」
中口の話が終わって、最後に三浦。
「警察の捜査では、容疑者なしの状態で、困っていたようよ。それから、バス
ケ部の部室にあった缶ジュースと、加藤君の遺体の胃から睡眠薬が検出された
って」
−−続く