#3269/5495 長編
★タイトル (AZA ) 96/ 5/16 10: 4 (189)
中学校殺人事件 1 永山JH
★内容
無事、私立広田中学に進学することができた中谷政行、石原順子、田中哲人、
中口美加、山本茂、三浦恵美の六人は、ここでも探偵部を結成した。
新一年生ばかりの部とあって、勧誘活動は思うように行かず、〇に終わるか
と思われていた。
その矢先、顧問となった神風来坊先生を通じ、一人の新入部員がやって来た。
「この子が今度、探偵部に入ることになった城源寺英子さんだ。城源寺さんは
中学入試を突破して入学してきたんだ。ぐずぐずしていると、君達も抜かれる
ぞ」
神風は勉強のことを口にする。部活でまで言われたくないことだ。
その横にいる城源寺なる女生徒は、髪を肩まで垂らした、大きな目の持ち主
だった。
「よろしくお願いします、先輩方」
彼女は六人に頭を深々と下げた。年齢は同じだが、ちゃんと礼儀をわきまえ
ている。
逆方向の紹介も終わると、神風は用事があるからと姿を消す。やっと緊張が
ほぐれる感じだ。
これといってすることもないので、この日は今までの事件について、城源寺
に話すことにした。
「……という訳なんだよ」
「へえ! その流次郎って人、凄いんですね。一度会ってみたい」
城源寺が言った。
「その内会えるよ。それより疲れたな。誰か代わってくれ」
「それじゃ、私が話すわ」
石原が部長の中谷に応えて話を継ごうとすると、城源寺は明らかに不満そう
な表情をした。
「あら、私は中谷君の方がいいな。部長って親切で面白いし、顔も私の好みだ
し。好きになっちゃいそう」
本心が知れないような言い方をする城源寺。彼女に向かって、副部長・石原
が言った。
「冗談じゃないわよ。政行は私の彼氏なんだから」
大胆な発言。
前々からのメンバー間では周知の事実だが、この新入部員にとっては素直に
受け入れるにはいかないようだ。
「あら、知らなかったわ。でも、選ぶのは中谷君だから、副部長サンが口を出
しても何もなりませんわ」
城源寺が言い返した。
当の中谷君は何とも言えない複雑な表情をしつつ、苦笑いしている。他の男
子は、田中は関係ないという表情、山本は俺の方がいい男なのになという顔を
している。
少し気まずい雰囲気になったところで、部室のドアがノックされた。
「あ、十川さん。どうかしたの?」
中口が応対に出ると、バスケ部の十川良子が立っていた。彼女も同じ一年生
だ。
「いい? 実はね、今日の練習を始めようと体育館に行って、ボール入れを出
そうとしたら、中にこんな物が入っていたの」
そう言いながら、彼女は紙片を中口の方に差し出してきた。
『小学校のとき、バスケットボール部は試合で不正をした。事実を新聞部を通
じて公表せよ。これを拒否すれば犠牲者が出ることになる』
ノートを切り取ったものらしいその紙には、そんな文章が殴り書きしてあっ
た。
「もちろん、私達は不正なんかしてないわ。嫌がらせだと思うけど、一応、知
らせとこうかなって」
「第一発見者はあなたなのね?」
いつの間にか話を聞いていた城源寺が、いきなり質問を飛ばした。十川の方
は、知らない顔なので驚いた様子だ。
「十川さんは知らないわね。こちら、我が探偵部の新入部員、城源寺英子さん
よ。城源寺さん、こちらはバスケ部の十川良子さん」
中口が紹介する。
「分かりましたから、早く質問に答えてくれません? あなたが第一発見者な
のかどうか」
「ええ、そうよ。それで、おかしな点があるの。昨日、練習が終わって私達一
年生が片付けをしたときには、こんな紙はなかったのよ。昨日は私達が最後に
体育館を使った部だったから、そのまま鍵をかけて帰ったんだけど……。今日
は逆に最初に体育館を使うから、一番に鍵を開けたんです。どうやって紙が置
けたのか、不思議で……」
「密室だったのね。体育館の鍵は当然、職員室にあったんでしょう?」
城源寺への対抗意識か、石原が聞いた。
「そのはずよ」
十川の答を確認するために、三浦が職員室に向かう。
「ドアの隙間から差入れられないの?」
城源寺が十川に聞いたが、
「ううん。ボール入れは入口とは正反対の方向にあるから、とても無理」
という答が返ってきただけである。
その内、三浦が戻って来た。
「ずっと鍵は保管してあったそうよ、先生が言うにはね」
「当り前ね。先生が関係しているとは思えないし」
城源寺が言うと、石原が反発するように言った。
「分からないわよ。さっきの話、聞いてなかったの?」
収集がつかなくなりそうな場の雰囲気を静めるためか、田中が提案した。
「とにかく、二人とも単に意地を張ってないで、協力した方がいい。部の団結
ってこともあるし」
「いえ、私は一人でやってみたいわ。その代わり、石原さんも一人でやってく
れないかしら? 自信がないのならいいですけど」
城源寺の挑戦的な口調に、石原も応戦。
「本意じゃないけど、いいわ。でも、一人でなんて、どうしたって無理じゃな
い? 私達を除く部員に情報を集めてもらって、公平な条件の下、推理合戦を
するのはどう?」
「それでいいわ」
二人の少女が勝手に話を進めている間に、山本が部長に耳打ちした。
「いいのか、止めなくて」
「やらしとけばいいさ。『女の闘い』は端から見てる分には面白いもんじゃな
いか。特に美少女同士となれば」
あながち第三者でもない中谷は、無責任な言い方をしていた。
状況がなんとなく飲み込めたらしい十川は、
「じゃあ、お願いするわね」
とだけ言って、そそくさと部室を去って行った。
おかしな方向に話が進んで、内心穏やかでないはずの石原は、十川の残した
紙を手に取ると、
「あら、この紙、何か手にくっつくと思ったら、うっすらと全体に油のしみみ
たいなのがあるわ」
とつぶやいた。
もう暗くなりかけており、下校時刻が迫っていた。いつもは部長と副部長は
二人だけで帰るのだが、今夕は違った。新入部員もついて来たのだ。
「本当にこっちの道なの?」
「そうですっ」
そんな会話を交わした後、二人の少女は共に中谷と話そうとするものだから、
会話が成立しないか、しても中谷は相手をするのに忙しいだけである。
そんなとき、三人の前に、一人の男が現れた。暗くてよく見えないが、三十
代半ばぐらいの、極平凡ななりの男だ。
「君達、広田中学の探偵部の生徒さんでしょ?」
男が言ってきたので、中谷は
「そうだよ。何か用?」
と、語気を荒くして応じた。
「そんな恐い言い方、よしてくれよ。自分は私立探偵をやっている、刀根光雄
という者だ。君達、あの流次郎と互角の勝負をしたんだって? 自分より若い
君達や流さんが、どうしてあれだけの推理をできるのか知りたくて、こうして
近付いた訳だ」
何ともとぼけた言い方をする男だった。探偵の見習いなんて聞いたこともな
い。警戒心を解いた中谷は、笑いながら言った。
「それなら、あなたの力量を見るために、僕がテストしてあげますよ。このパ
ズルが解けたら、えっと刀根さん? あなたは名探偵になれるかもしれません
ね。『魚を捕まえるときには素早く動く白熊でも、ペンギンだけは捕まえられ
ない。どうしてでしょう?』って問題です。分かります?」
中学生にテストされ、刀根は馬鹿にするなという感じで考え始めたが、やが
て訳が分からない様子になった。
「ペンギンは飛べないだろう? 白熊は絶対に捕まえられると思うがなあ」
「観察力不足ですね。部室に来てみませんか。明日はいきなり過ぎるから、明
後日ぐらいに。答はそのときに教えますから」
中谷にそう言われても、刀根はまだ考えているらしい。
中谷らはソレをよけて、帰途を急いだ。二人の女生徒は気勢をそがれた感じ
で、なんとなく言葉少なになっていた。刀根の相手をしたのが、石原と城源寺
を黙らせるための中谷の作戦だと知ったら、二人ともどんな顔をしただろうか。
翌々日の放課後、部室で待っていると、刀根が来た。どうやら本気らしい。
とりあえず、まだ知らない部員に紹介する。
「まだ分からないんだよ。教えてくれ」
慣れなれしい言葉遣いで話しかける刀根。
「あ、悪いんですけど、今、依頼を受けていて忙しいんです。答は事件解決の
後で」
「事件? どんな事件だい?」
中谷部長に言われた刀根は、さっきまで気にしていたパズルも忘れたか、興
味深げに聞いてきた。
しまったという顔をした中谷だったが、ともかく事件の概略を話した。
「ふむ、面白そうだ。死体がないけど。譲ってくれないかな?」
「軽々しく言わないで下さい。だいたい、譲る訳には行きません。飽くまで、
探偵部が引き受けたんですから」
中谷が言ったとき、部室のドアが開けられた。また十川良子である。
「大変なの! 私達の部の先輩が部室で死んでる!」
「本当?」
全員が聞き返した。
「どうしたらいいか分からなくて……。あなた達なら何とかしてくれると思っ
て」
「じゃあ、先生にも知らせていないの?」
中口が聞くと、十川は首を縦に振った。
そこで、とにもかくにも先生に知らせ、現場となったバスケ部の部室には誰
も近付かせないようにした。
学校側はやや渋ったようだが、警察に通報しない訳には行かない。吉田刑事
を始めとする捜査班がやって来た。
被害者の名は加藤豊。広田中学の二年生だ。死因は窒息死で、首を紐状の物
で絞められたようだ。ところが、部室は内側から鍵がかかっており、いわゆる
密室であったのだ。
となると重要なのは部屋の様子だが、体育系の部は文化系の部とは違い、部
屋は運動場隅に建てられた専用の部室塔にある。ドアの構造も違い、横にスラ
イドさせるタイプで、外からも内からも鍵をかけられる。ドアは閉じたときに、
支柱との間にわずかに隙間ができる。
各部屋に一つある窓は、三日月型の錠で、中心のポッチを押さえながら回さ
ないと動かなくなる仕組み。これもしっかりと施錠されていた。
その他、何故か現場にはネックレスが一つに、飲みかけの缶ジュースがあっ
た。
「このネックレスで締め殺したんでしょうか?」
部下の一人が、吉田刑事に聞いた。
「いや、それは違うだろう。見たまえ、首にある痕跡とネックレスの太さがま
るで違う」
答えながら、吉田刑事は、不思議な縁みたいな物を感じていた。かつて、「
小学校殺人事件」で捜査にあたったとき、彼は探偵部と顔を合わせている。今
回、またも彼らのいる学校で、殺人事件の捜査をすることになるとは……。
「警部、学校の周囲を怪しい男がうろついていたので、連れてきました」
若い、刑事になりたてでやる気満々といった風の男が、吉田刑事の思考を中
断させた。見ると、若い刑事は男の腕を掴んで、引っ張って来たらしい。
「学校の人に聞いても、見知らぬ顔だと言っています」
「なるほど。君、何をしていたんだ?」
「い、いや、自分は探偵で、刀根光雄っていうもんです」
犯人扱いされてはたまらないとばかり、刀根はいきなり否定語を口にした。
「探偵だ? その探偵が、何をしていたんだ?」
「ここの探偵部の子らと知り合いなんです。昨日、知り合ったばかりなんです
が……」
「ふむ」
嘆息すると、吉田刑事は、探偵部の部員に来てもらうよう、部下に命じた。
−−続く