AWC 中学校殺人事件 3   永山JH


        
#3271/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 5/16  10: 8  (180)
中学校殺人事件 3   永山JH
★内容
 各自の報告が出揃い、しばらく考えを交換していたところへ、探偵の刀根が
現れた。喜色満面とはこのことかと言えるぐらい、うれしそうな顔をしている。
かと思ったら、いきなり、
「体育館の密室の謎が解けたぞ!」
 と、大声で叫んでくれた。
「ほんとですかぁ?」
 みんな、信じられないという目つきで、刀根を見やった。
 刀根はそれを感じていないのか、平気な様子で続ける。
「犯人は、恐ろしく細長い棒を二本、用意したんだな。そいつを端のように使
って紙を挟み、ドアのすき間から差し込んだ。どうだ、これしかない」
 実に得意げであった。
 が、それを聞いた直後の探偵部七人の反応は、当然のごとく爆笑。
「何がおかしいんだ?」
 刀根が怒ったように怒鳴ると、七人を代表して、中谷がくすくす笑いをこら
えながら、ゆっくりと始めた。
「まあ、いくらでもけなせますが……そんな棒、持って歩いてたら、目立って
しまって、すぐに怪しまれますよ」
 それを聞いた刀根は、心底がっかりしたようだ。見た目にも明らかに、肩を
落としている。
「じゃ、じゃあ、一体、誰がどうやって……」
 刀根の弱々しい問いかけに、城源寺が応じた。
「私には密室の謎も、犯人が誰かも、見当は着いているの。多分、石原さんも
分かっていることでしょうね」
 石原副部長へ視線をよこす城源寺。
 石原の方も負けていない。
「そうね。きっと、同じことを考えているわ。今、ここで話してもいいんだけ
ど、玉置さんが家庭科クラブを終えてからの方がいいと思うの。どう?」
「なるほどね。いいわ、待ちましょ」
 城源寺が同意したので、玉置が部活を終えてこちらに来るのを待つことにな
った。
 −−三十分後。
「お待たせ。犯人、分かった?」
 姿を見せた玉置雪代の声は、意外と明るかった。
 部長の中谷は、にっこりと笑顔を作った。
「ちょうどよかった。今、謎解きを始めようとしていたんです。
 ところで、今度の事件は、探偵部の部員二人−−石原さんと城源寺さん−−
の勝負ともなっていますので、不謹慎だけれども、いつもとちょっと違って、
趣向を」
「趣向?」
「簡単なことです。二人同時に謎解きを始める訳にも行かないので、石原さん
の方にあらかじめ、推理を文章の形に書いてもらった。ただそれだけです。城
源寺さんは普通に、推理を披露する。そのあと、紙に書かれた石原さんの推理
と比べようということです。じゃあ、城源寺さん、始めよう」
 城源寺はせき払いするポーズをしてから、おもむろに話し始めた。
「まず、体育館の密室です。あれは、ボール入れのちょうど真上の天井に、例
の紙を貼り付けたんです。もちろん、糊なんかで接着しては剥がれなくなりま
す。バターかマーガリンで貼ったんでしょう。だから、あの紙には全体に油が
付着していた。鍵が閉められたあと、バターが溶けてボール入れの上に紙が落
ちた、それだけです。ボール入れに入ったのは偶然以外の何物でもありません。
犯人にとって、ボール入れに入らなくても別にかまわなかったんです。紙に、
すでにバスケ部を名指ししているのだから。
 次に、バスケ部部室の密室ですが、これは犯人が誰かということを先に言っ
た方が分かりやすいんです」
「じゃあ、犯人の名前を言って。誰?」
 玉置が言葉を差し挟む。城源寺は小さく微笑んで、続ける。
「犯人ですが、例の紙の文面には、『新聞部を通して、公表せよ』とありまし
たが、これは実は不自然です。何故なら、公表の起源が指定されていません。
こんないい加減なことってあるでしょうか。それともう一つ、加藤君の死後、
誰も殺されていません。この二点から、私は、犯人が加藤君に個人的恨みを持
つ者と判断しました。中口さんの勘は当たっていた訳です」
 城源寺が中口を見やると、中口はウィンクを返した。
「恨みを持つ者。この条件で加藤君の周辺を調べますと、たった一人の人間し
か浮かんできません。それは……玉置さんです」
 少しためらった様子を見せた城源寺だったが、結局は言い切った。
 当の玉置は、呆気に取られた色を見せていた。
「私が犯人だっていうこと? 冗談なら面白いかもしれないけど……」
「反論はあとからお願いします。−−バスケ部部室の密室に戻ります。犯人の
方は、もう、嫌気がさしていたにも関わらず、加藤君から好意を持たれていた。
それを利用したんです、犯人は。『私のネックレスを受け取って、首にかけて。
その格好で部室に入り、中から鍵を閉めて、ジュースを飲むの。そうしてくれ
たら、今までのように付き合ってあげる』−−こんなところでしょうか。犯人
は加藤君に風変わりな要求をしました。
 加藤君は少しはおかしいと感じたでしょうが、犯人を引き留めたい一心で、
言う通りにしてしまったのよ。ネックレスをかけてもらうとき、見えない糸も
一緒にかけられたとも気づかずに。発覚の危険性を小さくするために、恐らく
部室前でこれらを頼んだんでしょうね。そして加藤君は鍵を締め、睡眠薬入り
のジュースを飲み、眠ってしまう。
 その後、犯人は手に残していた手術用の糸を力一杯引っ張って、加藤君を絞
殺。それから糸の輪をほどき、すき間から……」
「そんなこと、どうでもいい。私が犯人である証拠は?」
 城源寺の台詞をさえぎり、玉置は当然の主張をした。
「証拠は……体育館での密室作りに用いられたバターよ。家から持って来たら、
溶けてしまって使い物にならなくなるわ。その点、あなたは家庭科クラブだか
ら、冷蔵庫を自由に使える」
「面白いわね。でも、それだけで証拠になるかしら? 他の部員かもしれない。
家から持って来ても、ドライアイスか密着させておけば、溶けないんじゃない
の? それでも私を犯人扱いするのかしら」
 城源寺は黙り込んでしまった。切り札を出したつもりが、通じなかった。そ
んな感じだ。
 中谷が助け船を出した。
「すみません、玉置さん。もう少し、冷静に聞いてください。お願いします」
「冷静よ、私は」
「それならいいんですが……。ところで、さっき、石原さんの書いた推理を読
んでみたところ、城源寺さんが話した内容とほぼ同じだった。だから一応、引
き分けということに……」
 中谷が副部長に目を向ける。それを受けて、石原が口火を切った。
「待って。私、玉置さんが犯人と断定する証拠に心当たりがあるの」
「あらら。あなたまで私を犯人扱いする上に、証拠があるですって? 嘘よ。
あるはずないわ」
 呆れたとばかり、首を横に振る玉置。
「それじゃ、証拠を見付けに、バスケ部の部室前まで、全員で行きましょうか」
 石原は自信ありげな顔を玉置に向けた。

 バスケ部部室前に着いてから、石原は必死になって、何かを探し続けていた。
 さすがの城源寺も、彼女が何を探しているのか、見当もつかないという風に
している。その点、中谷の方は、副部長が何をしようとしているのか、おおよ
その察しが付いている様子で、安心した態度を貫いていた。
「早くしてよ」
 犯人だと名指しされた玉置だけが、ぶつぶつとこぼしている。
 そんな中、石原が何かを見つけ、それを拾わずに、上から指さした。
 全員が注目する。
「何よ、これ。ただの缶ジュースのふたじゃないの」
 玉置が裏返りかけの声で叫んだ。
「こんな物が証拠になるの?」
「そうよ。これは現場に残されたジュースのふた−−プルタブと同じ物よ。缶
自体には指紋がなかったわよね。犯人はきっと、手袋をしていたんでしょう。
だけど、手袋をしたままだと、缶ジュースのふたって開けにくいと思うのよね。
多分、犯人は手袋を脱いでいたと思うわ。まだ断言はできないけれど、このプ
ルタブには指紋が残っている可能性がある。そうじゃないかしら?」
 玉置の顔色が、劇的な変化を見せた。さーっと赤みが引いていく。
「わ……私は、今まで、何度もこの部屋に来ているわ。だから、ここに落ちて
いるジュースのふたに私の指紋が着いていても、当然よ」
 最後の抵抗だろうか、声は震えている。
 石原は、玉置から目線を外し、冷静な口調で告げた。
「覚えていますか? 事件の前日、大掃除があったことを。プルタブは全部、
集められ、捨てられた。きれいさっぱりとね。でも、一日経ってみると、この
プルタブ一個だけが落ちていた。殺人現場にはそれと同じ種類のジュースの空
き缶。だったら、これは犯人が触った物としか考えられない……」
 しばらく、沈黙が支配した。
 玉置の声が、それを破った。観念したかのように喋り始める。
「ばれちゃったのね。仕方ないわ。でもね、これだけは聞いて。動悸は、あな
た達が言ったものとは違う。嫌気がさしていたのは私じゃなくて、彼の方なの
よっ。人の性格なんて分からないものね。私、加藤君の性格は一途だとばかり
思っていた。でも、付き合い始めてみると全く違ってて、ころころと心変わり
しようとするのよ。今度なんか、新しく入ってきた一年生にまで、手を出そう
としていた。それでいて、私との関係は続けたいと思っているのよ。ひどいで
しょう?」
 どんな反応をしていいか分からず、探偵部のみんなは口をつぐむしかなかっ
た。玉置はそのまま続けた。
「それとね、密室殺人なんて、するつもりなかったのよ。彼に、あなた達が言
うところの『変な注文』をしたら、勝手に鍵をかけちゃったの。私があんな注
文をしたのは、男の力で反撃されたらかなわないと思って、それを防ごうと考
えただけ。
 さあ、これでおしまい。私の言いたいことはこれだけ。警察に連絡しなさい」
「いいえ、連絡はしません。自分の足で出向いてください。認められるものじ
ゃないけれど、それだけの信念を持ってやったことなら、警察にも自分で行く
べきです」
 石原はまくし立てるように早口で言った。
 困った色を見せた玉置だったが、やがて決心できたのか、
「ありがとう」
 という一言を残してその場を去って行った。
 見えなくなるまでその後ろ姿を見送る。また沈黙が訪れていた。
 そんな雰囲気を救うように、小さな笑い声が上がった。城源寺だった。
「あはは。私の負けね、石原さん。負けたから言うんじゃないけど、殺人事件
を勝負に使うなんて、馬鹿げたことしてたと思うわ。とにかく、プルタブに気
がつかなかった私の負け。彼はあなたのものね」
「あなたの推理も、なかなか堂に入ってたわよ。それにね、今、『あなたのも
のね』って言ったけど、こういうことで決められる話じゃないよ。一番初めに、
あなた自身が言ってるじゃない。『選ぶのは、中谷君だ』って」
 その声が届いたか、中谷が「ん?」と振り返った。
 彼に笑顔を向ける石原と城源寺。
「ようし。それなら、何としてでも振り向かせてみせるからっ。覚悟してね」
「頼もしいこと。でも、そう簡単にはいかないからね」
 そうして二人で含み笑い。
「やれやれ。聞こえないところでやってくれよな」
 肩をすくめるしかない中谷部長であった。
 そんなとき、忘れられた存在の刀根光雄が発言した。
「あの子が犯人だなんて、想像もしなかったなあ。……ところで、部長さん。
例のパズルの答……」
「ああ、忘れかけてた。えっと、普通、白熊は北極、ペンギンは南極にしかな
いからですよ。刀根さんが名探偵になる日は、まだまだ先みたいですね。『迷
う』方のメイ探偵なら、今すぐにでもなれるんですけどねえ」
「あっ、ずいぶんとひどいことを、軽々しく言ってくれちゃって。よろしい。
それなら君達が尊敬している流次郎に勝負を挑むよ。そして、勝ってやろうじ
ゃないの」
「あははは、無理ですってば!」
 このやり取りが、新たな犯罪を生み出そうとは、このとき、誰も思っていな
かった。……当たり前ではあるが。

−−終




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