AWC 新入生 4   永山


        
#3265/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 4/30  19: 5  (140)
新入生 4   永山
★内容
「何をですか」
 察したのだろう、露骨に嫌そうな顔をする剣持。
「幸村さんが推理研に入ることが吉か凶か、をよ。あなたならいくつも知って
いるでしょう、いい占い方を?」
 「いい占い方」を強調する。剣持の腕前をもってすれば、滅多にない偶然に
見せかけて、よい結果を演出するのは簡単。
「……仕方がないですね」
 意外とすぐに受け入れた。
 と、そこへ邪魔が入った。再び、ノックの音。さっきと同様、ミエが返事を
すると、新入生にしては少しだけ老け顔の男子学生。
「あ、君」
 本山が反応した。ということは、入って来た彼が赤来進なんだろう。
「取り込み中みたいですけど、いいですか」
「赤来君ね。ちょうどよかったわ」
 ミエが招き入れる。
「剣持君がこれから『カード占い』をするところよ。見てみたいでしょ」
「は、はあ」
 知らないおねえさんに名を呼ばれたせいか、どぎまぎしているのがありあり。
異性になれていないのかもしれない。
「君が赤来君か」
 手元のカードに落としていた視線を上げた剣持。
「じゃあ、君に調べてもらおう。このカード、何もおかしなところはないね」
 カード一組を赤来に手渡す。赤来は最初、戸惑いを見せていたが、やがて状
況を飲み込んだらしく、丁寧にカードを調べた。
「確かに普通のカードです。並び方にもおかしな点は見当たりません」
 赤来から剣持へ、カードが戻る。その様を、幸村と増田さんは不思議そうに
眺めていた。
「幸村さん。ここから一枚、選んでほしいんだけど」
 裏向きのまま、カードを机の上に広げる剣持。幸村の前、カードは扇形に開
いた。赤を基調とした裏の絵柄が寸分違わぬずれにより、模様めいて見える。
「ど、どこから取ってもいいんですよね」
「もちろん」
 剣持が手で促すと、幸村は長い髪を一度かき上げ、少し思案する表情を見せ
てから、手を伸ばした。彼女の指先が触れたのは、中央よりわずかに左寄りの
カード。
「僕に見えないようにカードの表を見て、記憶して。他の人には見えてもいい
から」
「はい」
 幸村の小さな手の中、表向きにされたカードはハートの3。
「覚えました」
「それじゃ、そのカードを戻して。どこに差し込んでもいい。当然、裏向きに
ね」
 言われたままにする幸村。ハートの3は、今度は真ん中よりかなり右寄りに
差し込まれた。
「入れたら、幸村さん、カードをひとまとめにして、よく切ってください。ど
こに入れたのか、完全に分からなくなるまで」
「おい、散々期待させといて、だめってことないやろな」
 高野君が横合いから言った。ちょっと関西弁が混じってる。
「大丈夫ですよ」
 剣持は甲を下に右手を差し出した。幸村からカード一組を受け取る。
「ありがとう。選んだカードがどこに行ったのか、誰にも分からないですね。
さて、もしも僕があなたの選ぶカードをあらかじめ知っていたとしたら、これ
は運命的な出会いだと思えないかな。僕ら推理小説研究会と知り合ったのは、
偶然ではなく、必然だったと」
「はあ……もしそうなったら、凄いと思います」
「結構。では、ここからが肝心だ」
 剣持は、今度は表向きにカードを机の上に広げた。そして右手の人差し指を
カードの上すれすれのところに走らせ、次の瞬間には適当なところで二つに分
け、リフルシャッフルを済ませていた。両手に半分ずつカードを持ち、ぱらぱ
らと弾いて交互に重ねて行くあの切り方よ。
 カードの山を整えると、剣持は幸村をじっと見つめた。そしてカードの山を
彼女の前に、すっと置いた。
「はは、ちょっと不安だな。先に少し、確かめさせてもらおう。えっと、あな
たが覚えているカードの色は……赤。そうだね?」
「あ、当たってます」
「そんなに感激したような声、出さないで。まだ確率は二分の一だ。……はっ
きり言いましょう。ハートだよね」
 自信満々に剣持は言い切った。
 驚いているのは幸村一人じゃない。あたしはもちろん、増田さんも赤来も、
推理研の他のメンバーもそうに違いないはずよ。
「当たってる?」
「え、ええ」
「よかった」
 ほっとしたような笑みを見せ、続ける剣持。
「次は数。奇数だ。十三の半分……よりは小さい。うん、面白いことに、この
場にいる推理研じゃない人の人数と同じだ」
 推理研の部員じゃない人は、増田さんと幸村、赤来の両新入生。間違いなく
三、である。
 室内がざわつく。それを制する形で、剣持が鋭く言った。
「一番上のカードをめくってみて、幸村さん」
「……はい」
 驚きをかくせない幸村は、反応が遅れてしまっている。ゆっくり、おずおず
という風に右手を伸ばし、目の前にあるカードの山、一番上を表に向けた。
「あ−−」
 ハートの3だった。
「これが推理研流の占い。どう?」
「は……。わ、私、入りたくなりましたっ」
 目を輝かせんばかり。これだけ素直だと、マジシャンも演じ甲斐があるって
ものかも。
「本当? うれしいな」
 何ともないみたいな態度で、マジシャンは軽く息を吐いた。演技を始める前
までとは、相当な変わりようね。ま、うまくまとめたんだから、あたしから言
うことは何もないけれどさ。
「さ、次は君だ」
 すっかりマジシャンになりきってる剣持は、きびきびした動きで赤来を指さ
した。
「どうやって勝負するのかな? 互いにマジックでもやって、それを見破るこ
とができるかどうか、競うかい?」
「……す、すみません」
 急に頭を垂れる赤来。どうしたってのかしら?
「ん?」
「勝つつもりで来たんですが……今のを見て、あきらめました」
「ほう」
 にやにやする剣持。決まりすぎていて、逆に嫌味が抜けている。
「おかしなことを言うなあ。さっきのは『占い』だよ。マジックなんかじゃな
い。運命で決まっていたことを、目に見える形で示してあげただけ。種も仕掛
けもございません」
 両手を広げる剣持。
 赤来は何か言いたそうだったけど、開きかけた口をつぐんだ。それからあき
らめた様子で、改めて言った。
「……参りました。これからよろしくお願いします」
「じゃ、入ってくれるのね。これで二人!」
 真子がその場で飛び跳ねてる。
「そうと決まったら、早速、名簿に名前を書いてもらおうかしらね」
 ミエがさっきの名簿を机の上に広げた。幸村と赤来の二人が、そちらの方に
寄って行く。
「剣持君、剣持君」
 あたしはそっと、副部長を呼ぶ。
「何でしょう?」
 剣持も小さな声で応じてきた。
「うまくやったわね。感心しちゃった」
「どうもどうも」
「それで……さっきの種明かし、してくれないかなあ。必死に考えてるんだけ
ど、さっぱり」
 悔しいけれど、気になってたまらないの。
「−−嫌だなあ、先輩まで」
 一瞬の間の後、剣持は意地悪くもとぼけた。そう、とぼけているに違いない。
「あれは占い、ですよ。種も仕掛けもないって言ったでしょう」
「嘘。何かあったでしょ」
「いいじゃないですか。おかげで部員を確保できたんだから」
 結局、「占い」ということで押し切られてしまった。
 あー、気になる!
 新入部員に改めて自己紹介する副部長を見やりながら、あたしは叫びたくな
っていた。

 その後、推理小説研究会には、さらに二名の新一回生が入って来た。ミエの
読み通りになったのも、剣持に言わせれば「運命」で済まされるに違いないわ
ね。全く。

−−終わり




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE