AWC レイヴィリアン 1−6   室生薫子


        
#3235/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 3/15   3:29  (177)
レイヴィリアン 1−6   室生薫子
★内容

 レイ=スティングは夜道を歩いていた。風はないが、肌寒い夜だった。
 アダム=テイカーの都合がついたとかで、呼び出されたのである。
(こっちの都合はおかまいなしか)
 一人ごちながら、両側に外灯が並ぶ道を行く。まず、公園でミズリイと落ち
合い、それからアダム=テイカーにお目にかかれるという段取りだ。
 夜の公園には、人影はなかった。
 明かりの下で、腕時計で時刻を確かめるレイ。
「過ぎてるぜ、時間」
 やれやれ。ため息をつくと、レイは辺りを見渡した。
 頭を動かすと、一方向から物音が聞こえた。
「−−ミズリイ?」
 とっさに判断したレイは、公園を抜け、音のした方向へかけ出した。
(何かあったか?)
 走るにしたがい、どんどん暗くなっている。外灯から外灯までの距離が、相
当にある。
(こいつはやばそうだぜ)
 警戒心を強めたレイは、立ち止まると息を整えた。背中から遠く、一本の外
灯の明かりがわずかに射している。
 その一瞬、五本の光の筋を、視界にとらえた。
「ミズリイ!」
 ミズリイの光の爪だと確信し、レイは叫んだ。
「レイっ!」
 すぐに反応があった。呼吸が乱れているように聞こえた。
「どこだ? 何があった?」
 ぼんやりと見えるミズリイに向かって、足を踏み出そうとしたレイ。そこへ、
ミズリイの鋭い声。
「来ちゃだめ!」
 レイは足を止めた。
(俺は物分かりのはいい方だぜ。それにしても……ミズリイが苦戦している?)
 信じられぬ思いにとらわれながら、レイは目を凝らした。状況をより詳しく
知ろうとしたが、あまり変わらない。
「敵なのか」
「そう! 影を操る−−」
「うるさい女」
 第三の声は、甲高い。しかし、質は男のものである。
 ミズリイの声がしなくなった。
「ミズリイ?」
「黙らせて、自由を奪っただけ。先に、おまえ」
 暗がりの中から、殺気が届いた。
「ふん」
 上着を脱ぎ捨てたレイは、気に入らなかった。
「ミズリイを殺してから、俺とやってもいいんじゃないのか? それとも人質
のつもりか?」
「違う。新鮮なものを食したい。それだけ」
 敵の回答は明確だった。
(まじに、食う気でいやがる)
 レイは嫌悪感を覚えて仕方ない。さっさと片付けるに限ると判断した。
「行くぜ」
 一言、押し殺すように吐き捨てると、レイは、先ほどから考えていた作戦を
実行に移した。
 まず、街路樹から適当な一本を選び、太い枝に両手で飛びつく。その勢いを
維持したまま、一気に枝の上に立つ。そして両手を大きく開き、光を発した。
まるでスポットライトのように、眼下の敵を、ほぼ真上から照らし出す。
 ミズリイの姿が確認できた。黒い何か−−影?−−で猿ぐつわをされ、手は
後ろ手に、足首もしばられている。目は開いていたから、意識はあるようだ。
 敵の姿も確認はできた。ただし、黒ずくめの服を身にまとっているらしく、
小太りで背の高い奴、としか分からない。
「何の真似? この女や、私の姿を確認しただけ?」
「それだけじゃないさ」
 レイの手からは、光が放たれたままだ。
「影を操るのがおまえの気術力なら、上から照らすだけで何もできなくなるだ
ろう? 影ができなくなるんだからな。違うかい?」
 動揺したように、黒ずくめの男は後ずさった。
「ミズリイには不意をついて襲いかかったんだろうが、ゴングと同時にファイ
ト!なら、おまえに勝ち目はないぜ」
「さて、どうかしら」
 つぶやくと、相手は何を思ったのか、両手をいっぱいに広げ、万歳の格好を
作った。さらにその場で飛び跳ね始めた。その飛び跳ね方がまた奇妙で、片足
で地面を蹴り、むささびのようなポーズをするのだ。それを何度も繰り返して
いる。
「……」
 最初、あっけに取られたレイだったが、すぐに、敵の奇妙な行動の意味を考
え始める。
(ああやって飛び跳ねるってことは……地面との間に距離を作る。距離ができ
れば影はできる。何度も飛び跳ねる−−そうか!)
 察したものの、遅かった。
 太いひとがたをした黒い塊が、寸前まで迫っていた。敵は、何度も飛び跳ね
る内に、ょうどよい影を作った。それを操って、レイを襲わせたのだ。
「うぉっ?」
 どうにかかわしたレイを、黒い塊は蛇のような動きで続けて狙う。形は蛇と
は似てもにつかぬのに、動きは敏捷でくねくねしている。
 レイは再び光で照らし、影をかき消そうとする。
「無意味なこと」
 レイの背後方向から、甲高い声が教える。
「私の影は光に弱い。だが、一度、標的に触れれば、その弱点はなくなる。最
初の一撃で、おまえに触れることに成功した。いくら光を浴びせようとも、そ
いつは消えやしない」
 レイは地面を転がり、かわし続ける。
(また服が汚れたぜ。やれやれ)
 そしておもむろに態勢を立て直し、右手をかまえた。
「そういうことなら、正攻法で行くか!」

 レイが正攻法に出ようとしたのを目にして、ミズリイは心中、叫んでいた。
(ばか! あんたの技じゃあ、通用しないっ。言ったでしょうが!)
 しかし猿ぐつわのせいで、心の叫びは音にならない。当然、レイに伝わるは
ずもない。
 レイが最初の一撃を放った。
 いかにも力任せに放たれたという感じの光の球は、確かに秘める威力は凄そ
うだ。いや、ミズリイ自身、その威力を知っている。
 しかし、いくら破壊力があっても、当たらなければ意味がない。
 ミズリイの危惧した通り、レイの攻撃は見事に外れてしまった。動きの鈍そ
うな黒い塊だが、悠々とした風情でかわしている。
「まるで蛇使いだな」
 焦りをごまかすためか、レイが半ば叫ぶようにつぶやくのが、ミズリイの耳
にも届いた。
(何やってんのよ、もう!)
 ミズリイは足をばたつかせた。両足が一度に動いてしまって、踵から地面に
がつんとぶつかる。
「ミズリイ、教えろ!」
 レイが聞いてきた。
(こんな格好の私に、何をどうやって教えろって言うのよ?)
「このひとがたの影を倒さなくとも、気術士のそいつをぶっ倒せば、それで終
わるのか?」
 適当に光球を放って応戦しながら、ミズリイの方を見やってくるレイ。
(そうよ)
 ミズリイは、大きくうなずいた。
(でも、そういうことは他人に聞く前に、黙って試すもんじゃない! 敵の隙
をつくのが普通なのに、逆に、聞かれちゃって。あんたの腕じゃあ、絶対に当
たりっこないわよ! ばか!)
 ミズリイが精一杯、毒づいているところへ、レイは笑みをよこした。冷笑。
「分かった」
(え?)
 レイは、右手をすっと、横に突き出した。手の先は黒ずくめの男へと向いて
いるが、まったく光っていない。
「かわしてあげるよ」
 敵の男はせせら笑っていた。
「かわしてみな」
 レイが叫ぶと同時に、彼の右手には光る長方形が突然現れ、それは一気に飛
び立つと、敵の喉元を切り裂いていた。
「な、な」
 口をぱくぱくさせているような呼吸音が聞こえた。しかし、それも長くは続
かず、黒ずくめの男はひざを折って、その場にくずれた。そしてさらに上半身
も地に伏し、そのまま動かなくなった。頭の下の地面に、血のしみが広がって
いく。
「あっけなかったぜ」
 猿ぐつわも手かせ足かせも消え、自由になっていたミズリイだったが、レイ
に腕を引かれ、助け起こしてもらった。
「さっきの技は……」
 夢でも見ている気分のミズリイ。
(いつの間に身につけたの……)
「それより先に」
 倒れたままの男を、親指を突き立て、肩越しに示すレイ。
「血を採るんじゃないのか」
「そうだけど」
 ショルダーバッグから道具を取り出すと、ミズリイは男の遺体に近づき、作
業を始めた。ものの三分ほどで、それは完了した。
「闇の気術士でも、血は赤色なんだな」
 凝固防止剤と共に小瓶に入った血液を、外灯の明かりで透かし見るレイ。
「当たり前よ。基本的には人間なんだから。それよりも、さっきの続き。あの
技、いつの間に、どうやって−−」
「あれはカードマジックの応用だ」
「……手品?」
 首を傾げるミズリイ。どう考えても、無縁に思えて仕方がない。
 レイは、やや投げやりな口調で説明を始める。
「カードマジックに限らないんだが、物を手に隠し持つという技法−−パーム
というものがある。それを使ってみただけだ。相手を油断させる効果もあった
ようだし、何より、正確に飛んで行くぜ」
「訓練……したの?」
 ミズリイが見上げると、レイはとぼけた口調で答えた。
「さあな」
「何よ、その言い方は」
「ミズリイ、あんたは俺に散々、偉そうなことを言ってくれてるが、自分の方
もまだまだ甘いところあるんじゃないか」
「……」
 今夜のところは、そう言われると、何も言い返せないミズリイである。
「あの男が襲ってきたのだって、あんたを光の気術士だと知ってのことだと思
うぜ。すでに敵さんが群れているとしたら、正体がばれてるのは、相当にまず
いことだろう」
「分かってるわ」
 強がってみせるミズリイ。
「そのことの話し合いも含めて、これからアダムと会うのよ」
「−−なるほど」
 レイはゆっくりとうなずいた。あまり見せない、笑った表情をかすかに浮か
べていた。

−−第一話.終




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE