#3232/5495 長編
★タイトル (AZA ) 96/ 3/15 3:22 (190)
レイヴィリアン 1−3 室生薫子
★内容
ホルスは、服の汚れを払っているミズリイを気遣いながら、話を始めた。
「当然、気づいているだろうが、我々や君には共通点がある。『光』を何らか
の形で武器として使える能力−−気術力を有している点だ」
「ああ。少し前に、この変な光に気がついたんだ。喧嘩している最中に、思い
切り殴ろうとすると、手が光るんだよ。光を飛ばせるのは、ごく最近になって
分かった。この光のことを他の奴に話しても信じてもらえないのは、どうやら
光が見える人間と見えない人間がいるようだが。当然、あんたらには見えるよ
な。ホルス、あんたは何か知っているのかい?」
「この能力は、光の気術士としての血が流れている者にのみ発現する。簡単に
言えば、君も私も光の気術士なる一族であるということだ」
「説明が簡単すぎるぜ。そんな荒唐無稽な話をいきなりされてもな」
「信じられないか」
「……こうして三人もいるんだから、いくら馬鹿々々しくても信じなきゃいけ
ないようだな。続きを聞きたい」
立っているのがかったるくなってきたレイは、元いたベンチに腰を下ろした。
その右隣にホルス=シカティックが、さらにその隣にミズリイが気まずそうに、
それぞれ座った。
「我らのような光の気術士は、かつてから存在していた。少なくとも五百年前
からだ。その辺のことは私は詳しくない。聞き知っているのは、やや時代を下
り、三百年ほど前の話からだ。レイ、君は永久機関という言葉を知っているだ
ろうか?」
「聞いたことはあるぜ。一度動き出せば、外部から一切の力を加えずとも、そ
の機関だけで永久に仕事をし続けるって代物だろう」
「その通り。永久機関の『発明』が盛んだったのが、今から三百年ほど前のこ
となんだ」
「発明だって? 永久機関は実現不可能のはずだぜ。物理学の第一とか第二と
かの法則−−」
「よく知っているな。無論、どれも怪しげな物ばかりさ」
苦笑を浮かべるホルス。
「まあ、中にはいんちきを暴かれなかった例もあるが、そのほとんどは詐欺紛
いの物だった。それでだ、永久機関に類似した言葉に、フリーエネルギーとい
う語がある。知っているだろうか?」
「それも聞いたことある。空気だか……空中だったかな。空中に存在するかも
しれない無尽蔵のエネルギーを何らか方法で取り出し、エネルギー問題を解決
しようってことだったかな。空中の無尽蔵のエネルギーってのが実在するかど
うか分からないのに、こんな議論は無意味だと思うね。見方によれば、永久機
関よりも質が悪い」
「本当によく知っているな」
驚いた様子のホルス。対して、にやりとレイは笑った。
「俺の趣味はマジックでね。その仕掛けや装飾に使えそうな物事を始終、探し
ている。永久機関やフリーエネルギーも、それでね。で、これが関係している
のか」
「大いにある。我ら気術士の力は、フリーエネルギーそのものなのだ」
「……本当なのか」
疑いを隠そうとしないレイ。
「君は気術力を行使したあと、疲労感を覚えるかな?」
ホルスは、じっと見返してきた。
「……いや。筋が張っているような感覚はときどきあるが、体力自体は」
「そうだろうな。我々も同じだ。つまり、気術力を行使するときに出る光こそ、
空中に無尽蔵にあるエネルギーの結晶した一形態なのだ。そして我々の肉体が、
空中からエネルギーを抽出する道具というわけだ。道具は疲弊することもたま
にある」
「まだ話が見えてこないぜ」
レイは足を組みかえた。
「俺の力が何かは聞いた。それなら、あんた達が俺に接してきたのは何故だ」
「故あって、我々は仲間を捜している。光の気術士としての仲間だ。私は持っ
て回った言い方はできん。レイ=スティング、我らに協力してくれぬか?」
「故ってのを聞かないと、返事できないね」
「それは……協力を約してくれたとき、話そう」
「−−そういうことなら」
無造作に立ち上がるレイ。
「俺の返事はノー、だ」
「待ってくれ」
ホルスも立ち上がり、レイの肩に手をかける。
「やめろよ」
その手を払うレイ。
「理由ってのを、最初に話すのが筋だ。もし、俺が信用できないというなら、
最初から接してくるな。他を当たれ」
「信用はしている。しかし」
「さよならだ」
相手の言葉に覆いかぶせるようにして吐き捨てると、レイはこんな騒がしい
ところにいられるかとばかり、悠然と大股歩きで公園の外に出た。
クリス=ロッドは、びりびりとその気配を感じていた。それも、ただ漫然と
感じていては飲み込まれてしまいそうな、強烈なもの。
「凄い殺気だな」
見上げるクリス。一見、上には木々の葉による『天井』しかない。
「よくこれまで何人も犠牲者を出してきたもんだ。いくら子供ばかり相手にし
てたとは言え、驚くね」
「気づいていたのか」
不意に、別の声がした。どこか木の上から届いているものらしい。
「気づくさ」
受け答えしながら、全身の神経を働かせるクリス。いつ、どのように襲いか
かってくるかもしれぬ敵に対処するには、これしかない。
「ふはははは」
相手は笑い出していた。
「分かったぞ。おまえは光の気術士の一味だな? こういうにおい、嗅いだこ
とがある」
顔は見えないが、声の質は大人のそれである。一方、話している内容は未熟
な印象がある。
「自分から明かしたようなものだな。闇の気術士さんよ?」
「……どうでもいい。おまえをここから出られなくすれば、それで終わるんだ
からな」
「それなら−−さっさと向かって来な!」
声のする方めがけ、クリスは手にしていたナイフを投げつけた。光の気を帯
びたナイフは、淡く輝きながら、森の闇を切り裂いていく。
「はっずれー、だ。ははははは!」
敵の嘲笑がとどろいた。その声は、これまでとまったく逆方向から聞こえる。
一瞬、ひやりとしたものを首筋に感じながら、振り返るクリス。わずかに遅
れて、二本目のナイフを取り出した。
(敵にはスピードがある)
クリスはさらにナイフを取り出し、両手に三本ずつ握った。
(あの速さで襲ってこられると厄介だ。どうしてそうしないのか分からんが、
今ならチャンスはこちらにある)
「どうしたあ?」
相手の声がした。
その瞬間、クリスは六本のナイフを放つ。一本は敵の居場所の中心へ、他の
五本は頭、右手、右足、左手、左足、いずれの方向へ逃げようとも仕留められ
るように投げた。
しかし。
「また外れだよ!」
「−−馬鹿な!」
思わず、口走ってしまう。
「下手くそだねえ、おにいさん」
「……うるさい奴だ。そっちからかかって来たらどうだ」
自らを落ち着かせ、相手を挑発しながら、クリスは頭上を睨みつけた。敵の
姿を探すが、見つけられない。
「嫌だね」
せせら笑いが聞こえた。だが、クリスも、今度はすぐに攻撃を行いはしなか
った。
「強いて言えば、今、この状態こそ、俺様の攻撃そのものよ。どうだい、逃れ
られるかい?」
相手の挑発に、唇をぐっと結ぶクリス=ロッド。
(仕方ない。ここは一旦、戻るのが良策のようだな)
そう判断して、クリスはベルトにつなげているロープを手繰った、が。
(ない?)
落ち葉に埋まる地面を見たが、やはりロープは見当たらない。先の戦闘で切
れたのではないらしい。
「けけけっ、おにいさん。これをお探しかあ!」
頭上からの声に、思わず見上げると、クリスの目の前にロープが落ちてきた。
(俺のロープだ。くそっ、いつの間に……。この調子だと、プラスチック片も
拾われているのか?)
素早く、周囲に目を走らせる。焦りもあるかもしれないが、目に見える範囲
に、クリスの落としたプラスチック片はない。
(磁石しか頼りにならないのか)
方位磁石を取り出したクリス。
「う!」
今度は、驚きを声にしてしまった。磁石の針は、ふらふら、ふらふらと決ま
った方向に定まらない。
「おまえの仕業か……」
方位磁石を握りしめ、再度、頭上を睨みつけるクリス。
「その通りだあ、あっはっはっは! おかしいぞ、間抜けだぞ。用意万全のつ
もりだったのになあ、こうもことごとくだめになるとは、思いもしなかったろ
う? その絶望に沈んだ暗い顔をもっとよく見たいなあ」
「誰が絶望に沈んでる、だ?」
「おまえがだよ。それとも何か? まだここを抜け出す方法があるとでもいう
のか」
「目の前にいる敵を倒せば、抜け出せるだろうな」
「目の前? どこにいるのか分からないのだろう。どうやって倒すね? 言っ
ておくが、こちらからは絶対に出て行きはしない。俺様はこうして上から、お
まえが餓死するのを待つだけだ。いくら食糧を用意していようと、永久にここ
で暮らせはしまい」
「どこにいるのか分からないときはな」
クリスは両手を組んだ。それを額の前に持っていく。
「何の真似だ、おい?」
「分からないときは−−見えるようにしてやるのさ!」
言い切ると同時に、クリスは組んでいた両手を急激に離した。
刹那、まばゆい光が彼の右手と左手の間に生まれ、それは一気に膨れ上がっ
た。
「ブリンクフラッシュ!」
白い光が、森の中を照らす。光の白さが、森の空間を白い世界へと変える。
「目がっ」
短い叫び声がした。それとほぼ同時に、クリスの頭上から、何やら人らしき
ものが丸まって落下してきた。
「おまえごときに、こんな技を使う羽目になるとは、腹立たしいぜ、まったく」
吐き捨てたクリスの目には、サングラスの代わりか、茶色っぽいコンタクト
レンズがはまっていた。
(目くらましだけで、ダメージはないはずだ。とどめをさしてやる)
ナイフを新たにかまえながら、敵が転落した地点を目差すクリス。
ところが、目的地点に到達したと思ったとき、すでに敵の姿は影も形もなか
った。
「……何だと……」
クリスが後ろを振り向こうとしたそのとき、目に何かを吹きかけられた。
「うわ!」
「そっちが目くらましなら、こっちもだ。へへへ」
敵の声が聞こえた。
「どううやって……後ろに回った……?」
「俺様の気術力だ。『XD(X−Dimensional)コンパス』は、相
手の方向感覚を狂わせるのさ。無論、それに関わる道具にも敏感に反応して、
教えてくれる。俺様がこの森を選んだ理由も分かるだろう」
「く……もう一度、『ブリンクフラッシュ』、くれてやる」
痛む目を手でこすりながら、クリスは虚勢を張った。
「おっと。もう二度と同じ手は食わない。視界をなくしたおまえは、すでに強
行突破しかない。そんなおまえを逃がすにようにするには、俺様だって目をや
られるわけにいかないからな。そこさえ押さえていれば、完璧だ。ははははは
は!」
敵は勝ち誇ったように笑い続けた。
−−続く