AWC レイヴィリアン 1−2   室生薫子


        
#3231/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 3/15   3:19  (200)
レイヴィリアン 1−2   室生薫子
★内容
 その小柄な青年は、クリス=ロッドといった。
 彼は「黒の森」の前に立つと、じっと眺め上げた。青々とした葉が、嫌でも
目に入る。
 前々から、噂には聞いていた。よく行方不明になる者がいる森だと。しかし
近頃、行方不明者が多すぎる。森という闇の中で起こる、奇怪な出来事……。
故あって、クリスはそのような類の事件を追っている。
「闇の気術士の仕業かどうか……」
 考えていることを口に出したクリス。しばし待つ。
「反応はなし」
 やがて彼は、ため息をつく。
(まあ、分かっていたことだ。慌て者の敵ならば、今の言葉を聞いただけで姿
を現すんだが、そうそう間抜けな敵はいないってことさね)
 と、自分を納得させるためにうなずくクリス=ロッド。
「さあて!」
 一つ気合いを入れ、彼は森の一本道の上を歩き始めた。
 森の中に入ると、真昼だというのに、太陽光はほとんど射し込んでいなかっ
た。しかし、暗くて歩けないほどでもない。が、クリスは念のため、懐中電灯
で前方斜め下を照らしながら、歩き続けた。
 しばらく進んでクリスは足を止めた。そして周囲を見回し、適当な木を探す。
(一番最近の行方不明事件は、この辺で起こったはず)
 子供達二人が消えた場所は、だいたいのところを事前に聞いていた。
 万が一、自らが道に迷ってしまう場合も考え、クリスは準備をしていた。ま
ず彼がしたのは、一本道の脇に立つ低木にロープを結び、そのもう一端を自分
のベルトに結び付けることだ。次に、茂みに分け入るときに、小石大のプラス
チック片を一定の間隔で地面に落とすと決めていた。そして無論、方位磁石の
携帯。
 ここまで彼に用心させる原因。それは、クリスが『闇の気術士』という存在
を認識しているからに他ならない。
 刃渡りの長いナイフを取り出す。そのまま、道を外れる。
「なるべくなら、出てほしくないけどな」
 クリスは吐き捨てるように言って、一歩を踏み出した。足下にプラスチック
片を一つ、落とした。

 公園の時計は、昼の二時過ぎを示していた。今の時間帯、この公園を訪れる
者などほとんどいない。
 レイ=スティングは、そんな静かな公園が気に入っている。学校をふけて、
一人、公園でくつろいぐことは、彼にとってなかなかに気分のいいことであっ
た。
 ところが今日は、公園にもう一人の利用者が現れた。公園の内に入ってくる
なり、ベンチに座っているレイ=スティングの方に近づいてきたのは、金髪女
性だった。女性にしては背が高い。年齢はレイより上か。身体の線にぴったり
した赤系統の衣服を、目立ちすぎることなく着こなしている。
「君」
 真正面からそう声をかけられた。無視するわけにもいかないなと、レイは目
線を上げ、相手の顔に合わせた。
「何でしょうか」
「あらら、素っ気ないわね」
 金髪女性はレイの反応を予測していたみたいに、作ったように笑っている。
「初めての人に接するときは、声をかけた側−−そちらから名乗るのが礼儀だ
と思いますがね」
「リアよ。リア=ミズリイ」
 髪をかき上げるミズリイ。
「私が名乗ったんだから、あなたの名前、教えてくれない?」
「レイ=スティング」
「学生?」
「勉強しない学生」
 レイの愚にもつかない冗談を、相手の彼女は大げさに笑った。
「あなた、面白いわね。ますます気に入ったわ。一人でいるくらいだったら、
私と遊ばない?」
「声をかけてきた目的は、それだったんですかね」
「ん……まあ、そうね」
「あいにく、一人でいることがこの上なく楽しい性分でしてね」
「断るつもり?」
 これも演技みたいに、頬を膨らませているミズリイ。
「つもり、じゃない。断ったんですよ、たった今」
 レイの口調が強くなった。
「一人でいるのって、そんなに楽しいかなあ。私と二人で遊んだ方が、ずっと
楽しいと思うけど」
「根拠ゼロの言い種、やめてくれ」
「な」
 さすがに驚いたらしく、あとに続く言葉のないミズリイ。
「全部とは言わないが、自分のことはだいたい自分で分かっている。いいか、
それ以上、話しかけるな、リア=ミズリイさん」
 レイは立ち上がると、金髪女性から距離を取った。
「しっ、失礼ね!」
 レイの背中に向かって、金切り声を上げるミズリイ。
「ふん、素直になりなさいよ。こんな美人が声をかけているのよ。普通の男だ
ったら、放っておかないわ。それともあなた、男の方がいいとか?」
「うるせえ、黙ってろ、ぶすが!」
「何ですって? もう、頭に来たっ!」
 頭に来たらどうするってんだと思いつつ、レイは自分の肩越しにミズリイを
見やった。
「大人しく聞かせてあげようと思ったのに、君が悪いんだからね!」
 ミズリイは持っていたショルダーバッグを放り出した。
「まさか、やるつもりなのか」
 あきれているレイを無視するかのように、ミズリイは奇妙な動きをする。目
をつむり、胸の前辺りで手を交差させている。続いて一度、大きく身体を反ら
せた。長い金髪がさらさら流れる。
 その格好のまま、ミズリイは目を開くと、こう言った。
「ふふ。幸い、他人の目もないようだし」
「やめとけよ。俺は手加減しない質なんだ」
「結構!」
 ミズリイは次の瞬間、交差させていた手を広げた。大型の鳥が羽ばたく様子
にも似て、彼女の両腕は一気に振り上げられた。
「何を−−」
 レイの言葉が終わらぬ内に、ミズリイは地を蹴り、放物線を描いて、高く舞
った。その頂点で、彼女は両腕を再び前に振りかぶった。
 届くわけないと、見守っていたレイだが、次に慌てることになる。
「何ぃ?」
 ミズリイの指先から、白く輝く何かが長く伸びてきたのだ。とっさにかわし
たからよかったものの、レイがさっきまで立っていた地面には、十の傷が五本
ずつ、ほぼ並行に残されていた。
「おまえは……」
「ふうん」
 何に感心しているのか、ミズリイは何度も小さくうなずいている。
「さすがに気術士だけのことはある。よくよけたわね」
「気術士? 分からんな。それよりもおまえの指だか爪だか知らないが……」
「これかい?」
 レイの言葉を遮り、ミズリイは右手をひと振りした。五本の光の矢が、レイ
めがけて飛んでくる。今度は地面に伏せてかわしたレイ。その上空を通過した
光の矢は、公園の木々に当たる前に消えた。
「またかわされちゃった。本当、凄いわ」
「……てめえ」
 レイは慎重に身体を起こすと、ゆっくりと土を払った。
「質問の途中で、ふざけた真似をするミズリイさん。あんたの服も土で汚して
やろう」
「ふ……その方が手っ取り早いかもね」
「何をわけの分からないことを−−。くらってみろ!」
 レイは相手との距離を保ったまま、右拳を引くと、一気に前に突き出した。
 すると、右の拳全体が光の球に包まれた。かと思うと、その球体は拳を離れ、
相当のスピードを持って、ミズリイめがけて飛ぶ。
「−−きゃっ!」
 ミズリイは一瞬、ためらったようだ。自慢の光の爪で応戦するか、それとも
素直によけるか。そのため、間一髪のところで辛くもかわす結果になってしま
ったらしい。
「今なら、しりもちぐらいで許してやる。きれいな服に土も付いたことだしな。
まだやるつもりなら、それでもいい。あんたのその爪に興味がわいてきた」
 じりじりと相手に近づくレイ。
「ふん!」
 ミズリイの方も負けん気が強いようだ。
「君の気術力じゃ、私に勝てるかしら? 確かに速い。それだけ。命中率はか
なり低いと見たけれど、いかが? 距離さえ保てば、私の勝ちよ」
「だから、こうやって近づいているんだよ、おねえさん」
 低く言い切ると、一気に間合いを詰めたレイ。そのまま、半身の態勢のミズ
リイを押さえにかかる。
「ご、強姦に間違われるわよ!」
「面白いね。他人の目がないことを確かめたのは、あんただ。いくぜ。ここか
らなら外しはしない。例えその爪に切り裂かれても、一発、顔にお見舞いして
やるっ」
 右手の拳をかまえるレイ。拳に光が宿る。
「さあ、もう一度聞く。負けを認めて、謝るならそれでよし。それができない
なら」
「……やってみなさいよっ」
「いいだろう」
 レイは躊躇なく、拳を振りかぶり−−。
 しかしそのとき、急に腕の動きを封じられた。輪をかけられたような感覚。
そのまま、後ろの方に引っ張られている。そう、実際に投げ輪ようの物で引っ
張られているのだ。
 レイはちらと振り返ってみた。
 右手首には光の輪がかけられ、それにつながるこれも光のロープが伸びてい
る。そのロープの端を持つ、大柄な男の姿が目に入る。前髪の隙間から、鋭い
眼光が見返している。
「ここまでにしようじゃないか、レイ=スティング」
 黒髪の男が言った。落ち着きの感じられる口ぶりだ。
「俺はやめてもいいんだが、このおねえさんがね」
 男とミズリイは知り合いなんだと察したレイは、警戒しながらもそう切り返
した。
「ミズリイ、言ったこととやっていることが支離滅裂だぞ」
 たしなめるように言う黒髪の男。
 ミズリイは顔だけ起こすと、腹立たしげに唇を尖らせていた。
「この坊やが、私のことを侮辱したから」
「侮辱しただって? 知らないね」
 視線をミズリイに戻すレイ。
「言ったじゃないの、ぶすって!」
 つばきを飛ばして、言い返すミズリイ。もちろん、横たわっているのだから、
そのつばきのほとんどは自分に返ってくるのだが、そんなことは気にしていな
いようだ。
「あれはあんたが、俺の邪魔をしたからだ」
「話ぐらい聞けってのよ!」
「よさないか、ミズリイ」
 黒髪の男の鋭い声。その口調にはしかしながら、若干のあきれた響きも感じ
られる。
「とにかく、事を荒立てるな。今でも充分、荒立てているが……これ以上はな。
本当に人が集まりかねん。すまないが、レイ=スティング。ミズリイから離れ
てもらえないか。私もマインドバインド−−この光の輪を君の手から外すとし
よう」
「……そうだな」
 レイがミズリイから離れると、光の輪も手首から消えた。
「……私が悪いのは分かっているわ」
 ゆっくりと起き上がりながら、急に素直なミズリイ。彼女はレイの方を向き
ながら、続けた。
「だから謝るのはかまわない。でも、負けを認めるのだけはできないわよっ」
「それなら、正式に決着を」
「待て待て」
 レイが言い出したのを、止めに入る黒髪の男。
「まったく、アダムの水晶で覗いていたら、おかしな雰囲気になったので来て
みたが……。ミズリイ、何も説明できていないんだな?」
「……そうよ」
 そっぽを向くミズリイ。
 黒髪の男は、やれやれという具合に肩をすくめた。
「どうでもいいが、話があるなら早くしてくれないかな」
 レイはしびれを切らしそうになっていた。
「そうだな。まず、私も名乗ろう。ホルス=シカティックだ」
 黒髪の男はそう言って、レイに手を差し出してきた。レイも右手を出し、と
りあえずは握手で始まる。
「自分はレイ=スティング。だが……あんたは俺のことを最初から知っていた
みたいだな」
「それを説明するには……うむ、気術士のことから始めなければならない」

−−続く




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