AWC ベストナイン(6/10)


        
#3094/5495 長編
★タイトル (QWH     )  95/ 6/ 8   5:12  (132)
ベストナイン(6/10)
★内容
 昼前、藍香と蛍一光一の三人は、刈安と青治の部屋で、さっきのとびっきりの思い
つきを二人の兄に話し、同時に青治に監督になってくれるようにお願いしていた。
この思いつきは、青治が監督を快く引き受けてくれなければ、意味がないのである。
青治は突然の話しに戸惑いながら、少し考えている。
刈安はまんざらでもなさそうだが、やっぱり青治の事が気になるのか青治の返事を待っ
ているらしい。
その青治がゆっくりと喋りだした。
「死んじゃったお母さんの夢知ってる?」
突然の言葉に、藍香と蛍一光一は少し戸惑いながらも首を横に振った。
「親父とお母さんは高校の野球部で知り合ったって事は知ってるよね?」
青治は親父とお母さんの高校時代の話をはじめた。
内容は以下のような事である。

 親父の若葉はピッチャーでお母さんはマネージャーだった。
若葉達が行ってる高校はそれなりに強かったし、その年は若葉を含めていい選手が揃っ
ていたから甲子園にいけそうだったらしい。
しかし、若葉たちのチームは決勝で負けた。
エースの若葉が前日の準決勝で、肩を痛めてその日は、先発経験のない控え投手が投
げて打ち込まれたからだそうだ。
当時、若葉はプロを目指してたが、この時の故障で断念した。
それから若葉はすごく落ち込み、野球部にも行かなくなり、退部も当然という状態だっ
た。そんな時、いろいろ話しかけてはげましてくれたのが野球部のマネージャーで、
若葉と付き合ってた高根すみれ、つまり死んでしまったお母さんだった。
『プロ野球選手はすごいと思うけど、それだけがすべてじゃなよ。勝ち負けにあまり
 こだわらずに楽しく一生懸命やってる人も、すっごく素敵と思うよ。』
『私の夢はね、元気な子ども沢山生んで、家族で野球チームを作ること。
 休みの日になるとお弁当作ってね、みんなで試合にでかけるの。
 ね?素敵と思わない?』
『野球好きなんでしょ?ピッチャーできなくたって楽しめればいいじゃない。楽しく
 やろうよ。』

「というような話を、親父は僕があの事故の後入院してるときに、励ましのためか、
 悲しみにふけっているのか分からなかったけど、何度か話してくれた。
 この先の事は聞いてないけど、僕たち兄弟の人数を考えれば想像に難くないよね。」
青治が語り終えたときには、みんなしみじみと話に聞き入ったり、昔を思い出したり
していた。
「家族で野球をやるということは、そんなに軽々しくできるもんじゃないよ。
 物理的にも精神的にもね。
 軽い気持ちならやらない方がいい。」
青治が自分がした話で夢見心地になっている4人を、現実へ引きずり落す。
もう、さめた顔をしている刈。、困っておろおろしている蛍一光一の双子をしり目に、
藍香はまだやる気を失ってない。
「そんな軽い気持ちじゃないよ!あいかたちは!たしかに思いついてからそんなに時
 間たってないけど、中途半端な気持ちじゃないよ。ねっケイちゃんコウちゃん。」
突然話を振られて戸惑いながらも、何回も首を縦に振った二人を見て藍香は話を続け
る。
「お母さんも家族で野球するのが夢だったわけでしょ?瑠璃さんを家族として受け入
 れるチャンスだし、ちょうどいいじゃない。生きていたらお母さんも喜んで賛成し
 てくれるよ!」
悲しいことを思い出したからか、藍香の大きな瞳は潤んでいた。
青治はさっきからうつむいたまま藍香の話に耳を傾けているが、まだ首を縦に振らな
い。
青治はうつむいたまま喋りだした。
「あいか、それに、けいいち、こういち僕のサインをちゃんと守れよ。」
藍香と双子は、言葉の意味をちょっと考え、理解すると、ぱぁっと顔が明るくなった。
「うん、あったり前じゃん、監督のサインだもん。」
「それじゃぁ、OKなんだね。」
刈安は、
『ちょっと照れくさいけど、確かにいい案だ。
 長男としては、兄弟をまとめて親父の再婚を祝福したいし、
 自分も再婚に対しての気持ちをはっきりさせたい。』
と、考えていた。
ポーカーフェイスで平静を保っているようだが、目が喜んでいる。
青治までもさっきとは打って変わって、すごく嬉しそうだ。
刈安は知ってる。
家族で野球はできなくても、前々から青治は野球にかかわりたかった。
大好きだったお母さんのお気に入りの野球に。
そのために、前々から密かに野球に関しての知識を本などで勉強していたのだ。
家族で野球チーム。この事は青治が一番望んでいたのかも知れない。
そうと決まれば話は早い。
父親の若葉はちょっと照れて言葉を濁しながらも「そういうことなら」と言い、密か
によろこんだ。
親父の婚約者の瑠璃は大喜びしながらも、運動音痴の私ができるかなぁと、ちょっと
不安そうだった。
桜はお弁当作るときは手伝ってよ。という条件付きで賛成した。
茜は戸惑いながらも野球と聞いて体が我慢できないらしく、即座にOKをだした。
紅介は深く考えずに面白そうだし、気を紛らわせるかなぁと思った。
夜までにはそれぞれが進んで、藍香たちのチームを作る案を賛成してくれた。

 次の日には親父が仕事関係の知り合いから、草野球についての情報をかき集めてき
た。
親父は数年前独立して今では電気会社の下請けの金形製作所の社長だ。
まあ、社長といっても社員は子供の刈安と青治、それとパートタイムみたいな形で桜
が勤めているぐらいだが。
その会社の親会社や関連会社が集まって、草野球のリーグを作ってるそうだ。
リーグといっても、普段は練習試合の連絡を取り合ったり、年に一回初夏にトーナメ
ントを親会社主催でやるぐらいだ。
電気会社が主催だけあって、景品は電気製品が必要な人にとっては、豪華で実用的な
物が用意されている。
そのリーグに参加して、いきなり優勝を狙おうということだ。
この堀内家は根っからの野球好きだったらしい、突然の話がハイペースですすんでい
るのに誰も戸惑ってはいない。
やると決めたからには、次の休日からでもやりたいという思いがひしひしと伝わって
くる。
稼ぎのある刈安たちはもちろんの事、小遣いが収入源の紅介や藍香、双子たちは自分
たちの貯金や、小遣いの前借りでグローブやボールなどを揃え、暇さえあったらキャッ
チボールをしている。
そんなわくわくしている家族を青治は冷静に観察して、ポジションを考えていた。
ピッチャーはボールを投げるのが一番うまい茜。
左利きで長身の刈安はセオリーどおり一塁手。
息がバッチリ合ってる蛍一と光一は二塁手と遊撃手。
草野球で、打球が多そうな左方向の内野の要に運動神経がいい藍香は三塁手。
強肩で、投手としても活躍できる親父は外野手兼控え投手。
足が早い桜は瑠璃をフォローするのを期待して外野手。
体格がよく肩もいい紅介は盗塁阻止と本塁ブロックを期待して捕手。
瑠璃は結果的に残ってしまった外野手。
という具合に。
そして話が持ち上がって3日目、堀内家初の家族会議が行われた。
議題はチーム名について。
夜の8時頃からはじまった会議は大層盛り上がり、日をまたぐかまたがないかの所で
一番最初に親父が提案した<堀内BLUE SKY>に決まった。
5日目には対戦相手が決まった。
記念すべき初試合の相手は、親父の親友が所属してる鹿島ジャガーズというチームだ。
鹿島ジャガーズは、堀内BLUE SKYが所属しようとしている初芝リーグで、毎
年優勝候補に上がる強豪らしい。
監督の青治いわく、ちょっとぐらい強いチームと当たったほうがいい面も悪い面も分
かって面白い。
それに優勝を狙うんだしね。ということだ。
その他のメンバーも、強いチームと試合できることを何だか楽しみにしている気配が
ある。試合の日は一ヵ月後と言うことだ。
なぜそんなに日があくのかという藍香たちの問いかけに、親父の若葉はちょっと恥ず
かしそうに笑ってこう答えた。
「ユニホームをきて試合したいから。」
その言葉を聞いた瞬間、藍香や紅介などの小中学生たちは納得し大喜びした。
若葉は本当は秘密にしておきたかったが、ごまかしようがないのでばらしてしまった。
本物のユニフォーム上下は金銭的に辛かったので、ユニフォームもどきのシャツとT
シャツの印刷を頼んであり、それの完成が3、4週間後というのだ。
下は紅介達が通っている中学校指定のジャージがデザイン的にも機能的にもぴったり
と言うことだ。
試合の日を心待ちにしながら、キャッチボールをしたり、バッティングセンターへ行っ
たりして日は刻々と過ぎていった。





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