#3095/5495 長編
★タイトル (QWH ) 95/ 6/ 8 5:14 (139)
ベストナイン(7/10)
★内容
<プレイボール>
待望の初試合まであと一週間。
<堀内BLUE SKY>の面々は、挨拶をかねた敵情視察のため鹿島ジャガーズの
練習試合を見に行った。
監督の青治は選手のタイプとピッチャーの球種をよく観察するようにと指示を出し、
唯一のネットであるバックネット裏に陣取った。
堀内のメンバーは最初のうちそれぞれ注意深く観察していたが、次第に試合が盛り上
がってくるにつれ、ほとんどのメンバーが応援に熱中しはじめた。
そんな中、監督というポジションがら青治は、文字どおり教科書どおりの分析をして
いる。
まったくの初心者の瑠璃は、どんな球が打てるのか打てないのかを観察していた。
ジャガーズが高い出塁率で打席を稼ぎ、6回の初めには4順目のバッターを迎えるこ
ろ、瑠璃はちょっと困った顔をしながら青治に話しかけた。
「しゅんちゃん、あのね、今までどんなボールで打ててどんなボールが打てないのか
見てたけど、どうやら十人十色みたいでわかんないね。」
「そりゃそうだよ、人それぞれストライクゾーンの範囲が違うって話だよ。」
青治は瑠璃は本当に初心者なんだなぁと、思いながらも、何か頭に引っかかった。
ある可能性が頭に浮かんだ。
まさかとは思うが、好奇心も手伝って、一応探りを入れてみる。
「ねね、瑠璃さん、でもどうしてそう感じたの?」
「うん、例えばね、あの一番打者は低いボールは打つの下手なんだけどね、高いボー
ルなら得意みたいだよ。」
ちょうどピッチャーが投げた。
低めの球だが真ん中のストレートなのでそれなりに甘い球だが
バッターは打ちそこない、ボテボテの内野ゴロだ。
青治はまぐれだと思いながらも、好奇心がそれを上まる。
「ねえ、次の打者は?」
「えっとね、この人はさっきの人とは違って低めが得意なの。あ、でも内側の低い球
は打ちにいかないよ。」
その通りの事が目の前で起る。
ピッチャーは低めの球に自信をもったのか低めに球を集めるみたいだ。
内角低めの球をバッターは微動だりせずに見逃す。
判定はストライクだ。
次の球はさっきの打者を打ち取ったと同じ真ん中低めだ。
打者はうまくミートしセンター前へ運ぶ。
青治は瑠璃の選球眼と、くせを覚えれる記憶力という可能性をほぼ確信し、好奇心も
手伝い瑠璃を質問責めにした。
試合はジャガーズの圧倒的な得点で最終回にはコールドゲームとなる10点まで広げ
ていた。
瑠璃と青治をのぞくブルースカイのメンバーたちは、単なる観戦で終わってしまった
が、チームにとってはものすごく大きな収穫になった。
青治はこれで来週の試合は、もしかしなくても勝てるかもしれない。と考えていた。
普段何気なく過している一週間だが、試合までの一週間は意識するとやたら長く感
じた。
そして試合当日。
堀内BLUE SKYのデビューにふさわしい青空!といきたいとこだが、曇り空で
今にも雨が降りだしそうだった。
TVのお天気のおねえさんは晴れると言ってたのに。
台所では桜、瑠璃、茜、藍香それと紅介が弁当を作ってる。
意外にも紅介は料理が好きなのだ。
理由は自分が好きな物を好きなだけ食べたいからということなのだが。
試合は昼過ぎからだが、練習もかねて午前中からグランドへ行って芝生の上でみんな
でお弁当を広げるのだ。
蛍一光一や藍香は遠足気分ではしゃぎ、お菓子まで買いに行ったほどだ。
みんな早起きしてそれぞれ準備をしたり、ユニフォームを着てみたり、グローブを磨
いたりしている。
チーム結成を決めてからここ一ヵ月は、親父の再婚話が持ち上がった時とうって変わっ
てみんな生き生きと楽しく過している。
会話も瑠璃を含めた一家で盛り上がってる。
無論、野球の話題でだが。
若葉も瑠璃も兄弟もみんな本当に野球が好きで試合を楽しみにしているのだが、再婚
の話を避けてることも事実であった。
用具と選手とお弁当。
そして、セピア色と原色、二つの夢を乗せてワゴンはグランドへ向かう…。
市街地郊外の公園に面するグランドは、休日の朝でも人影と言えば犬の散歩してる人
ぐらいだった。
ブルースカイのメンバーは、芝生の上にお弁当などを、ベンチに野球用具を置くとユ
ニフォームへ着替えた。
着替えたといっても、初めから着ていた人、上着の下に着ていた人、初めから着替え
る人など様々だ。
若葉が奮発して特注してくれたユニフォームだ。
空色を基本としたデザインに<HORIUCHIぶる〜すかい>と書かれた胸と肩。
背中の自分の名前や背番号は、各自フェルトを縫い付けたり、付けてもらったりして
いる。
下は紅介らの中学指定の黒いジャージのズボンだ。
兄弟が多いおかげで家族分はサイズと数が揃ってる。
中学のジャージと聞くとちょっとダサイが、ユニフォームと組み合わせてはくとまん
ざらでもない。
茜なんかは高校のソフト部のより愛着も手伝って気に入ってしまっている。
ポジションと打順が青治から発表された。
1.蛍一 セカンド
2.光一 ショート
3.藍香 サード
4.紅介 キャッチャー
5.若葉 レフト
6. 茜 ピッチャー
7.刈安 ファースト
8. 桜 センター
9.瑠璃 ライト
青治の考えで行くと、1,2番の二人でワンアウト二塁。
藍香は状況によって送るかヒッティング。
4,5番で返して、6〜8番はつなぎ、9番で何とか送って1番に返すと言う感じだ。
守備はショートとセカンドは塁に入るのを中心に動く。
これは極端な例だが、状況によっては三遊間に内野手が三人と言うシフトも考えてい
る。
全体的に守備を左方向へ固めるつもりだ。
それぞれが守備について、部活の関係上なれている茜がバットを構えノックがはじまっ
た。
打球は予告どおりの守備位置へ落ちるのだが、みんな面白いようにボールを落したり
トンネルする。
一時間ぐらいしてチームの比較的若い連中は、だいぶうまく取れるようになった。
その他のメンバーも落下点で待ちかまえて取るフライや平凡なゴロは、さばけるよう
にはなった。
それでもまだエラーは多いが。
休憩をはさみ、打撃練習を織り交ぜたりしているうちにお昼になった。
グランドの外野にあたる芝生の一画を陣取ってメンバーみんなでお弁当だ。
春とはいっても3月中旬だし曇っているので、ちょっと肌寒いが、やっぱり芝生の上
でごろごろすると気持ちがいい。
こうなってくると気分だけでなく本当に遠足にきてるみたいだ。
蛍一光一たちにとっての今日のメインイベントが終わる頃、対戦相手の鹿島ジャガー
ズのメンバーがグランドへやってきた。
先週、見たときはそんなに感じなかったが、今対戦相手としてみると日に焼けた色黒
の肌、しまっていてがたいの良い体がちょっと威圧を感じる。
そんな男たちの中に、一人ショートヘアでボーイッシュな可愛い女の子が混じってい
た。
若葉はジャガーズのキャプテンで高校以来の親友でもある浅野謙一を見つけ、親しげ
に声をかける。
「よぉ、けんちゃん、今日は娘を連れてきたのか。連れてくるなら勝てそうな試合を
みせにこればいいのに。はっはっは」
「よう、堀内。そうかもしれんな。大差でうちが勝つ試合を見せるより競り合う好ゲー
ムを見せるほうがいいかもしれんなぁ。」
二人はうれしそうに相手をののしりあっている。
お互いのチーム同士戦えることがこの二人のささやかな夢だったのかもしれない。
茜は青治と瑠璃から打者のくせについて聞きながら、相手チームを眺めると、一人意
外な少女を見つけた。
その少女も茜に気がついたらしく驚きながらもこちらに近づいてくる。
「浅野さん、どうしてここに?」
「堀内さんこそ。」
親父の親友の娘というのが茜と同じ高校のソフト部のエース浅野知子だったのだ。
親父たちはその事に気がついてないらしく、まだ陽気にののしりあっている。
いろいろ自分たちの状況を説明し合って、茜が今日登板すると言う旨を話すと知子は
純粋に「がんばってね。」と言ってくれた。
うれしかったけど、相手チームのキャプテンの娘だし、普段ライバル視しているので
ちょっと複雑な茜だった。
ジャガーズのウォーミングアップが一通り終わると試合開始だ。