#3093/5495 長編
★タイトル (QWH ) 95/ 6/ 8 5:11 ( 87)
ベストナイン(5/10)
★内容
<スターティングメンバー提出>
よく晴れた日曜日。
空は薄い雲がかかっているぐらいで、なかなかよい空だ。
冬場のこういう日は、多少寒くても気分は柔らかくなるものだ。
だが、紅介の胸の中は空に例えると、どしゃ降りか、吹雪をもたらす雨雲といったと
ころか。
紅介は蛍一、光一の二人の弟と共有する部屋にあるベッドの中で、うずくまっていた。
別に、寝ている訳ではない。
目は数時間前に冷めていた。
いつもなら、友達の家に遊びに行っているか、弟達とファミコンで遊んでいる頃であ
る。
例の瑠璃さんが親父と結婚する話を聞いてから、何もする気がおきなく、食欲もなかっ
た。
家族が心配るといけないので、食事は胃袋へ押し込んでいた。
食べていたでなく、文字どおり押し込んでいたのである。
頭もあまり働かなかった。
ただ、瑠璃さんは親父と結婚してほしくないと思っていた。
だけど、瑠璃さんが悲しむのは見たくなかった。
瑠璃さんが幸せになるのなら、自分以外の誰かと結婚してもいいと思っていた。
だが、自分以外の家族と結婚してほしくない。
あきらめるなら、あきらめるで他人になりたかった。
というような思いが、頭の中で渦巻く。
起きる気力もなく、かといって眠気もない。
部屋では蛍一、光一がマンガか何かを読みながら、馬鹿笑いをしている。
今日ほど、紅介は自分一人の部屋がほしいと思ったときはなかった。
「おーい、ケイちゃん、コウちゃん」
一階の居間の方から元気のいい声が双子を呼んでいる。末っ子の藍香だ。
二人は部屋からひょこっと顔をだす。
「なに?」
「べんにぃもいる?ファミコンやろうよ。」
双子の片方が顔を引っ込めたかと思うとちょっとしてからまた顔をだして。
「べんにぃいるけど、ファミコンやりたくないって〜」
と答えかと思うと二人は階段をかけ下りてきた。
最近、堀内家の小中学生、つまり、蛍一光一と紅介、藍香の間でファミコンのゲーム
がはやっていて、その4人でしょっちゅう対戦してる。
今は日曜日の午前、昼ぐらいまで寝ている人が多いので、テレビをファミコンで独占
できるのだ。
「それっ!ファイヤー!!」とか、
「やったなぁ」とか言い合いながら、代わる代わる対戦している。
勝敗は五分五分というところか。
いつもなら紅介が頭一つ分ぐらい抜きにでているが、この三人は実力が伯仲している。
猿のようにぶっ続けで一時間ぐらいやったころ気分転換か、再放送の野球アニメにチャ
ンネルを変える。
主題歌が終わりCMに入ったとき、藍香が独り言のように、
「るりさんがお母さんになるんだね。」
と、つぶやいた。
「うん、前からるりさんみたいなお姉さん欲しいと思っていたし。ちょっと違うけど。」
「そうだよねー。おかし作るのうまいから、うれしいよねー。」
双子は口もとをほころばせながら喜んでいる。
「あいかも、るりさんがお母さんになることはうれしいけど、あかねちゃんとお兄ちゃ
ん達があんまりうれしそうじゃないから、心配だなぁ。」
末っ子は末っ子ながら家族の事を心配している。
「やっぱり、みんな仲良く暮らしていきたいもね。」
「うんうん。」
双子はタイミングを図ったようにうなずく。
「なんとかなんないかなぁ。」
「ふぅ。」
今度は三人同時にため息をついた。
TVではCMが終わりアニメが始まっていて、三人ともボーっとTVを眺める。
真ん中のCMに差しかかったころ、藍香がまたつぶやいた。
「家族みんなでなんかやったら、雰囲気がよくなるかなぁ?」
「う〜ん。」
蛍一と光一は珍しく難しい顔をして考え込んでいる。
TVではCMがおわったところだ。
ちょうどアニメでは、ピッチャーとキャッチャーがいがみ合っていて、あまりいい雰
囲気じゃない。
だけど、藍香たちはこのアニメの再放送を最初から最終回まで見たことがあり、今回
見るのはもう2回目だったので、この後の話を知っている。
このピッチャーとキャッチャーは、お互いになくてはならない存在になっていくのだ。
その事を思い出した瞬間、あっ、と思い三人は顔を見合わせた。
「野球やってみよう!」
「うん、でも、しゅんにぃはどうするの?」
しゅんにぃとは子どものころの事故で、下半身不随になった青治のことである。
「そーだよねぇ、どうしよう・・・。」
さっきまでいいことを思いついて、明るかった三人だが、新たな問題に直面してまた
しかめっ面になってしまう。
また、何かいいことを思いついたのか、光一がぱっと明るい顔に戻り、
「しゅんにぃには監督やってもらったら?草野球でも監督は選手ぐらいに大事なポジ
ションだと思うよぉ。」
「うん、そうだね。えっと兄弟が8人にお父さん、あとるりさん入れて10人、監督
一人に選手9人でぴったしじゃん。」
「みんなに提案してみようよっ。」
藍香は目をきらきらさせて、もうやる気である。
「そうだね、まずしゅんにぃに監督やってくれるかどうか聞きにいこう!」
双子も藍香に一瞬遅れてやる気になり、青治を説得するために立ち上がった。