#3091/5495 長編
★タイトル (QWH ) 95/ 6/ 8 5: 8 (192)
ベストナイン(3/10)
★内容
<オープン戦>
ピピピピッピピピピッピピピピッ
かわいい絵柄の入った目覚まし時計が、少々不快な電子音をならしている。
茜は無意識に目覚ましを止めふたたび眠りの縁へ落ちようとしたその時、部屋の扉が
あけられ、怒鳴り声が飛び込んできた。
「あかね、あいか、起きなさい。目覚ましもう鳴ってるわよ。」
いつものように朝食の支度を終え、みんなを起こしにかかってる桜だ。
「うーん、うるさいわね、おきてるよ。」
さっきまで寝直そうとしていた茜が、半分寝ながら反論する。
「はいはい、起きてるんならさっさと顔洗ってきなさい。ほらほら、藍香も起きる。」
茜と藍香が起きたと確認したら次は男性陣だ。
桜の一日の生活の中で一番忙しい時間帯が朝だろう。
みんなより30分ぐらい早起きして5人分の弁当と朝食を作るのである。
前日にある程度下ごしらえをしてるといってもなかなか大変だ。
茜は目をこすりながら、身を起こし、寝起きの頭でボーっとしながら
『お父さんが再婚するのはいいけど、あんなに歳が近い瑠璃さんがお母さんになるな
んて、信じられない。
瑠璃さんをお母さんなんて呼べないよぉ。ああ、あれが夢だったらいいなぁ。』
と、昨日のことを考えていた。
ふと、瑠璃と同い年のお姉ちゃんはどう思ってるんだろうと思い、藍香より先に台所
へ向かった。
台所には桜が一人で弁当を詰めていたる。
何だか言い出しづらく少し戸惑ったが少し勇気を出して話しかける。
「ねえ、お姉ちゃん、るりさんのことどう思う?」
桜は一瞬手を休め、動きやすいように束ねた髪のむこうに見える白くほっそりとして
綺麗な首をかしげて、話しだす。
「えっ、ああ、お父さんとの結婚のことね、そうねぇ2年前、るりがお父さんのこと
が好きだって言ったときは、本当にびっくりしたわ。最初は単なる憧れと思ってた
けど、どうやら本気らしかったの。
そのことに気づいてからはるりを応援するようになったわ。
けど、まさかお父さんが受け入れるとは、るりには悪いけど正直言って思わなかっ
た。」
ちょっとうつむきながら姉の言葉に聞き入ってる。
「そうなんだ。お姉ちゃん知ってたんだ、結婚のこと・・・。私はるりさんのこと好
きだけどお母さんとは呼べないし、それにお父さんと結婚するなんて信じられない。」
茜の声は半分涙声になっていた。
「でもね、二人は愛し合ってるんだから祝ってあげようよ。そりゃ私も、最初は信じ
られなかったよ、だけど瑠璃には本当に好きな人と一緒になってもらいたかったし、
お父さんも本気になっていたから、もう私には止められないなと思ったの。
それで、最近になってからだけどね、結婚の事を祝える気になったの。」
桜は手を休め、茜に優しくちょっと寂しげに微笑みながらそう言った。
「でも、お姉ちゃん、るりさんのことお母さんて呼べるの?」
茜の問いかけに桜は首を軽く横に二回振った。
「そりゃよべないわ、だって保育園の時からの友達だから・・・。でも、家族の一員
としてなら迎えれると思うの、だからねあかねちゃんもせめて家族とし認めてあげ
ましょう。」
茜はこくんとうなずいたが胸の中にまだもやもやした部分が残っていて何だか気分が
晴れない。
「めでたいことなのにね、どうしてこんなに辛いんだろうね。」
桜は悲しそうな顔をしてつぶやいた。
ちょうどその頃、刈安も心の中で葛藤を続けていた。
昨日、親父に対して言いすぎたと思っていたが・・・。
それでも、再婚に関しては賛成する気になれない。
いつものように青治の着替えを手伝いながら、なぜ賛成できないのかを自問自答して
みる。
『るりちゃんが嫌いなのか?
否、それどころか好感をもっているぐらいだ。
それでは俺はるりちゃんが好きだから反対なのか?
否、好きといっても姉のような存在としてで、憧れはあっても恋愛感情はないと思
う。
なら一家を担う人として不安があるのか?
否、よく家事を手伝ってくれていて、それを見る限りでは文句のつけようがない。
ならなぜ、反対なのだ?』
冷静になって考えれば考えるほど分からなくなる。
なんとなく嫌なのだ。るりが母親になることが。
「かりにぃ起きてる?」
着替えが終わった青治は、さっきからぼーっとしている刈安に問いかける。
「あ、うん、起きてるよ。飯食いに行こう。」
と言うと刈安は青治と一緒に居間へ向かった。
廊下で妹の藍香と一緒になったが刈安の思いつめた空気を感じてか、三人とも無口だっ
た。
パタパタパタ、廊下の方から複数の足音が聞える。
「ほらっ、みんな来たわよ、はやくシャワー浴びなさい。」
桜はさっきまでとはとはうってかわって明るい表情になった。
茜も何事もなかったように風呂場へ向かう。
一人、二人と居間に集まってきたが、いつものにぎやかさはなく、気まずい空気が流
れていた。
茜はちょっと熱めのシャワーを浴びながら、涙を流していた。
瑠璃さんのことを認められないほど心が狭い自分が嫌だった。
優しくて、あたたかくて、大好きだったけど死んでしまったお母さんの事を思い出して
いた。
考えれば考えるほど胸の奥が苦しくなって、辛くて泣けてきた。
頬から流れ落ちる涙は、シャワーが洗い流してくれる。
心の涙もきれいさっぱり流せたらと思う。
茜はその後、家族と一言もかわすことなく、朝食を食べ終え支度をして学校へ向かっ
た。「いってきます」という言葉さえ、ちょっと言う気になれない。
何だかブルーな気分に浸りながら、自転車を飛ばし学校へ向かう。
学校の中の駐輪場で眼鏡をかけて、一見秀才タイプのおとなしそうな女の子が声をか
けてきた。クラスメイトの緑だ。
「おはよう、あかねちゃん。あれ?どうかしたの?元気ないね?」
心配そうに茜の顔を覗きこむ。
「あ、ミドリおはよう。ううん、何でもないよぉ、ただちょっと考え事してただけ。」
茜は意識的に微笑み、力こぶを作るまねをして元気だよというポーズをとる。
あとから考えると笑みが引きつっていたかも知れない。
家の事を学校で悩んでいてもしょうがないなと考えた。
もやもやを頭のすみに追いやりながら、緑と昨日のTVはどうのこうのとか、誰それ
のCDはいいのだのたわいない会話をしながら教室に向かった。
家の事を考えないようにと思っていた茜だが、やはり気になってしまって全然授業が
耳に入らなかった。
一回、数学の時間、先生にあてられたが、幸い理解している所だから何とか無難にこ
なせ、ほっと胸をなで下ろす。
何だかボーとしてるうちに、お昼休みがすぎ、午後の授業が終わってしまった。
次は部活の時間である。
茜は練習の邪魔にならないように、長い髪を後ろで束ねて、ジャージに着替え、白い
息を吐きながら準備運動をはじめた。
茜はソフトボール部に所属している。
やっぱり、ソフトは面白い。一生懸命汗かいてボールを投げたり、打ったりしている
最中は嫌なことなんかも気にならないし、多少のいらいらなら吹っ飛んでしまう。
ポジションはピッチャーである。自分ではエースになってもおかしくないと思ってる。
しかし、今のソフト部の背番号1は同じ2年生の浅野知子だ。
茜は10番、控えの番号である。
知子の方が球の速度は速く、変化球も多彩だ。
自分は確かに知子よりわずかだが球は遅いし、変化球の球種も少ない。
だが、その分それなりに速い球と遅い球を使い分けれる。
それに、コントロールではこっちの方がはるかにいい、私の方が少ない点で抑えれる。
と考えていて、エースの知子をライバル視している。
一通りの準備運動も終わり、身体もあったまってきたとき、エースの知子とその友達
がやってきた。
二人は茜と軽く二、三言挨拶変わりの言葉を交すと、準備運動を始めた。
知子は健康そうな小麦色の肌に、すらっとした長身、短くさっぱりとした髪形、ちょっ
と少年ぽいが笑った顔がなかなか可愛い。
確かにかわいいけど、私の方がちょっと美人かな。と密かに思う茜であった。
茜の知子に対しての態度が他の部員に対してよりそっけなく感じる。
いい人とは思うんだが、何となく親しくできない空気を感じるのは、気にしすぎなん
だろうか?
茜につられてソフト部に入った緑もやってきて、キャプテンに、
「今日、先生忙しいから各自自由練習だって。」
と伝えた。
キャプテンの藤野明子は時計を見、部員の顔を見てグランドの状況を見渡してから、
「久しぶりに紅白戦やろう。」
と言った。
見た目そのまんまの大きな声だ。
今、ソフト部は3年生が抜けて、部員は14,5人しかいなくなっている。
それに来てない部員も一人二人いるから、紅白戦やるには数が足りない。
それが最近あんまり紅白戦をやっていなかった理由でもあった。
どうするんだろうと茜達が思っていると、キャプテンはそこら辺を通りかかったバス
ケ部の顧問やら、暇そうにしているサッカー部の部員とか、帰りがけの男子生徒とか
を持ち前の強引さで引き込んできた。
これでちょうど18人になり紅白戦ができる。
キャプテンと知子がチーム決めのじゃんけんをはじめた。
チームが振り分けられているうちに、茜は今日の紅白戦の課題を考えていた。覚えた
ての変化球を試そうか、球の緩急と配球で三振をとりに行くか・・・。
結局、変化球を試しつつ、ピンチの時どれだけ三振をとれるかという目標をもち、紅
白戦に挑んだ。
時間は一時間ちょっと。4、5回まで行けばいい方だろう。
茜のチームはキャプテンと同じ白チームだった。
ぱっと見た目、こっちはレギュラーが多く、守備が固めだが、紅チームはクリーンアッ
プにバスケ部顧問を含む男性陣が構えていて長打力がありそうだ。
赤チーム先攻で試合がはじまった。
「しまっていこーぜ!」
「おー!」
キャプテンの掛け声に合わせみんな声を出す。レギュラーが多いせいか声が揃ってて
聞いていて気持ちがいい。
もちろん白組のピッチャーは茜である。
一回表、先頭バッターに肩がまだできてないせいか、初球を打たれ、三遊間を抜けそ
うになる。
しかし、キャプテンのいい守備と好送球に助けられ、打ち取り、二番三番も押さえ、
なんとか三者凡退におさえた。
紅白戦といっても久しぶりなので、みんな結構まじになっていて、公式戦さながらで
ある。
紅組のピッチャーはエースの知子だ。
一番二番を持ち前の速球で簡単に三振にしてしまう。
三番は茜である。
一球目、茜は様子を見ることにした。知子が大きく手を回しボールを投げる。かなり
のスピードだ。
ボールは外角高めでストライクゾーンからは外れてる。
手を出しそうになるが何とかこらえ、ボールを見送った。
審判もかねている緑が、ボールのジャッジをした。
二球目、今度はさっきよりも遅めの球だ、ストライクゾーンに入ってきた。
茜は思いっきりバットを振り、ボールを捕らえようとするが、ボールは変化球だった
らしく茜の予想したコースから外れていった。
ブゥン、バスッ。
バットは空をきり、ボールはキャッチャーのミットに収まった。
ヘルメットをかぶり直し、ピッチャーをにらむ。正直言って今のはやられたと思った。
三球目、今度は真ん中高めのボールだ。
思わず打ちに行ってしまい、しまったと思ったが、もうすでにバットは回っていて止
められなかった。
しまったと思ったとおり、ボールはホップしてバットから逃れようとする。
バットの上側でボールを叩く、ボールはスピンしながら後方へと飛んでいった。
歩いていた女子生徒が慌てて避ける。
2ストライク1ボール。嫌なカウントだ、バッターにとっては。
次は直球。今までの経験と勘でそう感じた。
四球目、予想したとおり直球だ。と思った瞬間にはボールはキャッチャーミットに収
まっていた。
「ストライク、バッターアウト、チェンジ。」
審判の緑の声が茜の頭の中でこだまする。
うっ、速い。冬休み前より球が速くなってる・・・。
茜は知らないうちに唇をかんでいた、次こそは絶対打つという思いを胸にひめマウン
ドへ上がった。