#3090/5495 長編
★タイトル (QWH ) 95/ 6/ 8 5: 6 (167)
ベストナイン(2/10)
★内容
<新人入団>
すでに日は落ちかけ薄暗くなってきていて、ところどころ街灯が灯りはじめている。
部活動が終わり帰る途中なのか、数人の中学生達が白い息を吐き寒そうに耳を手で押
さえたりして歩いている。
もう2月だからか、ちょっと天気が崩れれば雪がまうぐらいの寒さであろう。
その中で、目立って妙に明るい三人組がいる。
堀内紅介と弟の蛍一と光一だ。
蛍一と光一は姿形がそっくりなので、見慣れていない者はどっちがどっちか区別する
のはほとんど無理に近い。
つまり、二人は一卵性双生児なのだ。
「へっへっへ、今日は久しぶりの外食だなぁ。」
「べんにぃはなに食べるー?」
その双子が頬を緩ませている。
べんにぃとは紅介のことで、普段「べにすけ」とか「ベン」と言われているので、弟
達はそれに「にいちゃん」が縮まった「にぃ」を付け加え「べんにぃ」と呼んでいる
のだ。
「ん、ああ、そうだなぁ、まあ固いところでサーロインステーキかな?」
と、ちょっと悩んでるふりはしているが、実は外食と知った時点で何にしようか決め
ていた紅介であった。
「おまえら二人は何にする?」
半分以上義理で紅介は聞き返した。
「うーんとね、ハンバーグっ・・・もいいけどステーキも・・・。」
「海老フライもいいよね。」
「うん、そうそう、シーフードもいいよねー。」
「グラタンやピラフもおいしいし。」
「「どれにするかきまんねー」」
蛍一と光一も外食と知った時点考えているんだが、決まっていないだけだった。
兄弟が多い堀内家では何も無い平日に家族で外食というのは最近では無かったのに、
昨日の晩ご飯の時に父親の若葉が
「たまには家族でメシ食いに行くぞ、6時には家にいろよ。」
と一方的な発言で外食に決まった。
主に家事を任されている長女の桜は家計が少し気になったが、楽できると喜びんだ。
長男の刈安は妹らがなにか賞でももらったかなぁ?と推測した。
次女の茜は茜で仕事で儲けたのかなぁと想像をめぐらす。
紅介、蛍一、光一は無条件に喜んで何を食べるのか悩んだ。
末っ子の藍香はちゃんと6時に帰れるかな?と考えていた。
次男の青治は心当たりがないのでちょっと気になったが、外食はいやじゃなかったの
で深く考えない事にした。
そんな訳で堀内家の今日の晩ご飯は外食なのである。
「たっだいまー」
「おかえり今日は寒かったね、ほら、さっさと戸しめて、寒いじゃない」
長女の桜がちょうど玄関の近くにいたらしく紅介たちを迎えてくれた。
見た感じは腰ぐらいまである長髪の面長で、なかなか美人である。
表情が柔らかく優しい感じがして、マンガならたんぽぽを背景に背負ってでてきそう
な雰囲気である。
高校を出てからは父親の仕事場で事務処理や電話番をしながら家事をして今ではすっ
かりお母さん役が板についているようだ。
紅介達が居間に入ると、ショートヘアーで童顔で少女らしさが抜け切っていない色白
な女性が紅茶を入れる支度をしている。
「おっかえりー、あったかい紅茶飲む?」
近所にすむ大学生、児玉瑠璃だ。
瑠璃は桜と保育園からの付き合いで桜達の母、すみれが亡き人となってからはよく家
事などの手伝いに来てくれて今では家族みたいな存在だ。
台所のどこに何があるかは紅介達よりも詳しい。
今日も多分遊びに来ているんだろう。
「うん、紅茶飲む。」
「でもおかしはいらないよ。」
双子は真面目な顔をしてお菓子を断り瑠璃を驚かせた。
「え!?食いしん坊のケイとコウがお菓子食べないなんて・・・お腹の調子でも悪い
の?大丈夫?」
そこですかさず紅介が、
「お菓子を食べない何ておかしい」
とくだらないダジャレをとばし、一瞬場をしらけさせてしまったが、何事も無かった
ように言葉を続ける。
「今晩は外食だから腹すかしていこうってことだろ。」
「ああ、そうなの、やっぱり食いしん坊だね。」
ようやく瑠璃が笑ってちょっと安心した紅介だった。
それから買い物に行っていた末っ子の藍香、それと同時ぐらいに次女の茜が、6時
ちょっと前に仕事から親父達が帰ってきて、家族全員揃った。
「もう6時だよ、ご飯食べに早くいこうよ。」
「ちぇっ、うるせーなー、着替えぐらいさせろって。」
蛍一は待ちきれなくて帰っていたばっかの父親達を催促したが、一緒に帰ってきた刈
安に足下にされてしまった。
昼間刈安は、父親と青治と一緒に小さな金型会社で働いているので結構体が疲れてい
るらしい。
それから10分ぐらいたって着替えが終わり若葉達が居間の方へ降りてきた。
「お、瑠璃ちゃんもいるのか、一緒にメシ食いにいくか?」
「ええ、じゃあ、ごちそうになります。」
父親の若葉は瑠璃を見るなりそう声をかけたら、瑠璃は少しも間を置かず答える。
いつもならこういうとき、ちょっと迷ったり、いったんは断ったりするのにどうした
んだろう?
まるで最初からいくつもりだったみたい。
お腹がすいてるのかな。と紅介はちょっと疑問に思ったけど深くは考えなかった。
出かけるためにみんな11人乗りのワゴンに乗り込む。
運転は行きは若葉、帰りは酒が入っているのでいつも桜である。
紅介や蛍一、光一達はファミリーレストランかなぁと期待していたが、行き先はどう
やらめん類や丼ものを扱ってる食堂の「若竹」らしかった。
まぁ、量が多くて美味しいのでいっかぁと紅介たちはおもった。
堀内家+1は食堂の奥の座敷に2テーブル陣取り、思い思いの物を注文している。
「とうちゃん、ジュースたのんでいい?」
「海老天たのんでいい?」
蛍一、光一が少し遠慮しながら若葉に話しかけた。
「おお、好きなものたのんでいいぞ。」
この食堂では一番高いのでも海老天定食の1200円なのでたかが知れている。
料理と飲み物が行き渡った時点で若葉が乾杯の音頭を取った。
「今日は外食って事で乾杯!」
今日はたいしたことはなかったのに外食だったらしい。もうすでにその事が頭にある
人はいなかったが。
みんな食べ終わり一段落したころ、若葉が改まり、
「ちょっと、みんな聞いてくれ。」
と周囲の注意を引き付け、
「えっとだな、その、あのだなぁ、お母さんが死んじまってから10年たったし、
なぁ、お前達もだなぁ、お母さん欲しいだろ?」
子供達の前ではめったに見せない真っ赤な顔をしてしどろもどろになっている。
一瞬の沈黙が流れる。
「つまりだなぁ、父さんなぁ・・・。」
そこまで言ったとき、誰かが、
「さ、再婚するの?」
と誰もが頭に浮かんでた言葉を声にした。
「うん、そうだ・・・。だが、お前達がいやだっていうなら考え直す。」
言うべきことは言って、あとは子供達の返事をまっている若葉は、耳まで赤くして緊
張しているようだ。
「・・・、えっと、す、すごいじゃん、親父、おめでとう!」
一番最初に口を開いたのは刈安だった。
さすがにおどろいているものの日ごろから再婚しろよと言っていたし、反対する理由
も無かった。
少し間をおいて子供達は次々と賛成の意を現し、そして祝いの言葉をのべた。
「うん、再婚しなよー。いい人見つかったの?おめでとう。」
「とうちゃんまだ若いね。」
「再婚するのはいいけど、もうそんなに若くないんだから体気をつけてよ。」
どうやら再婚は全員一致で賛成らしい。
「で、再婚する相手っていうのは美人か?親父。」
刈安は父親にビールを注ぎながら、今一番興味がある質問をする。
「まあな、美人だ。よし、みんな、再婚は賛成なんだな?」
ちょっと照れながら念をおす。
「うん。」
みんなうなずいたり、笑顔を見せたりとそれぞれの形で賛成の意を表した。
「お前らの、新しい母さんは、お前達もよく知ってる人で・・・。」
「・・・・。」
沈黙が流れる・・・。
若葉がとなりに座っていた瑠璃の肩にそっと優しく手を回し自分のそばへ引き寄せ、
「この瑠璃さんだ。」
と、新しい結婚相手の名を告げた・・・。
よく見ると瑠璃の頬も綺麗な桜色に染まっている。
またもや沈黙・・・。
「お、親父まじかてー?」
刈安がどなると形容したほうがいいぐらいの大きな声で、若葉に突っかかった。
「ああ、本気だ。こんなとこでだましてもしょうがないだろう、なぁ瑠璃。」
若葉はちょっと戸惑いながらも瑠璃に同意を求めた。
「ええ、本気です。でもよかったわ、みんな喜んでくれて。もし反対されたら瑠璃ど
うしようかと思った。」
瑠璃は若葉に寄り添いながら、うれしそうに微笑んだ。目にはうれし涙さえ浮かべてる
。
そのちょっと早とちりな涙を見て、前言撤回しようとした茜は、何も言えなくなって
しまった。
「いくらお袋が死んでから数年たってるからといって、まさに親と子ほどの差もある
るりちゃんに手出してたなんて信じらねー、ロリコン親父!!」
対面に座っていた刈安は、中腰になって今にも飛びかからんというぐらいの勢いで若
葉に詰め寄った。何で怒れてくるのか分からなかったが、若葉に対して無性に怒れて
きた。
「かりやす君、そんなこと言わないで。最初は瑠璃の片思いなの、若葉さんは私の愛
に答えてくれただけなの!」
瑠璃はさっきのうれし涙で瞳を潤したまま、若葉をかばった。
刈安は男の例にもれず女の涙には弱いらしく、もうそれ以上言葉がでなくなってしまっ
た。
瑠璃が若葉をかばっている最中にとりわけ大きくよわよわしいため息がひとつもれた。
さっきから下を見ている紅介だ。
目には涙がたまっていてひざの上で強く握った拳が震えてる。
どう見ても、親父の再婚を喜んでのうれし涙ではなさそうだ。
紅介は密かに瑠璃に憧れていたのだ。
物心ついたときから。
皆の前で泣かないようにうつむきながら、一生懸命耐える姿はちょっと痛々しい。
祝福ムードから一転してみんな口数が少なくなってしまい、なんだか気まずい空気が
流れていた。
その気まずさは家に帰ってからも続いた。