AWC Lの殺人 4   永山


        
#3087/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 5/28   9: 1  (195)
Lの殺人 4   永山
★内容
 それでも例外はある。数少ない例外の一つが、あの勝又康成だった。勝又は
男女の別なく話せるだけの話題を持っており、クラスでも人気者らしい。顔も
性格も三枚目に近い二枚目半といったところで、親しみやすい。それだけに、
他の女子の中にも彼となるべく接しようとするのが多い。ところが、勝又は転
校生である百合子を気遣ってかどうか、頻繁に話しかけてくるものだから、百
合子と一部の女子−−と言っても、潜在的なものを含めればクラスの女子の半
数以上か−−との間に、ぎくしゃくした気配ができつつあった。
 転校生の身である百合子は、女子の中で孤立することを極端に恐れていた。
五十嵐が頼りになるのだが、ずっと頼りっ放しではいけない。そういう意識を
持った百合子としては、勝又にいくらか引かれていても、できるだけ彼を遠ざ
けようとするしかなかった。
 勝又はずっと、優しくしてくれる。そんな彼を遠ざけるには、百合子は経験
も言葉も知らなさすぎた。
「あの、勝又君」
 ある放課後、二人きりになった機会に、百合子は切り出した。
「何?」
「かまってくれるのは嬉しいんだけれど、その……もういい」
「もういいって、どういう意味?」
 まだ、勝又の顔は笑っていた。
「親切にしてくれなくても、私、一人で大丈夫だから」
「どこが? 男はおろか、女子とだって、五十嵐とべったり、だけじゃないか。
強がらなくてもいいのに」
「そうじゃなくて……。勝又君がかまってくれるせいで、女子の大部分から反
感を買うの」
「何て? それが本当だとしても、僕のせいにする? はっきり言って、僕は
倉田さんのこと……気に入ってる」
 少し言い淀む勝又に、少し顔が赤らむ百合子。
「だから、僕が君に親切にするのは自由だろ? 他の女子がどうしようと、関
係ない。それは、君と女子達との問題じゃないか」
「……で、でも。程度というか」
「僕は君以外、特別扱いする相手を作る気はない」
「待って」
 頭が混乱。こんな状況になるなんて予想外。
「……だったら、せめて、私のことを考えて。私のことをそれだけ親切にして
くれるんだったら、もっと」
「冗談じゃない。一途に思うのがだめっての? 分からないよ」
「そ、そ、そうじゃ、ない……」
 もどかしい。泣きそうになる。
「やってられないよ! こっちは倉田さんのことを考えてやったのに。どうし
て大人しく、受け入れてくれないの?」
 大人しく、という言葉が、百合子を刺激した。そこまで言われる筋合いはな
い。私は人形じゃない−−。
「な、何よっ。ど、どうせ、転校生だからって、付け込んだんでしょ! 人気
ある勝又君のことだから、色々な子と付き合って、結局誰にも手を出せなくな
って。それで、私が何も知らないと思って、優しくしてみせたんでしょうが!」
 わめきたてる百合子。
 次の瞬間、大きな音が響き渡った。勝又が机を蹴飛ばしていた。
「分かった! もういい。そっちの言う通り、やめてやる。その代わり、二度
とかまってやらないからな。いいな!」
 百合子の金切り声をかき消すほどの怒鳴り声だった。勝又はやや息を荒くし
て、そのまま教室を出て行った。
 残された百合子は、しばらくぼんやりとする。それしかできないでいた。
 それから、横倒しになったままの机に目が行った。のろのろとそれに近寄り、
起こしていると、教室の後ろのドアが鳴った。
 振り返ると、そこには五十嵐恵美。
「……恵美」
 親友を名前で呼んだ百合子。
 すると、五十嵐は笑顔を作った。慈悲深く見える笑顔。
「悪いとは思ったけど、全部、見ていたわ」
 言いながら近付いてくる五十嵐に、百合子は戸惑いの視線を投げてよこす。
「え……」
「折角、うまく行ってるのかと思ってたのに、ね」
 ふふふと、微笑を絶やさない五十嵐。
 百合子は五十嵐の腕の中に身を委ねた。
「だめ……。私……男の子、嫌い。分からない」
「そうよ。私だって分からない」
 五十嵐は百合子の髪をなで上げた。
「ねえ、思わない? 男なんて乱暴で、不潔で、がきっぽくて、何を考えてい
るか分からない。私達女とは、全然違う生き物よ」
「う、うん」
「だからさ、そんなのを無理して好きになろうなんて、思わなくていいの。百
合子は女子校にいたんだから、なおさら。女の子が好きでいいじゃない。私、
女の子の方が好きよ」
「……」
「百合子もそうじゃない? きっとそうよね」
「……うん……私、女の子が好き」
 自然にその言葉が口をついた。
「女の子だけでいい」

           *            *

「あのときは、あのとき」
 百合子は吹っ切るように答えた。
「恵美も、本気で言ったんじゃないでしょう? 私を慰めるために……」
「そりゃあそうよ」
 いくらか懐かしそうに、恵美は応じた。
「あーあ。だけど、私の方はまだ結婚の経験がないのよね。百合子は二度も結
婚してるってのに」
 と、お手上げポーズの恵美を見て、百合子はくすっと笑った。
「どうやら、大丈夫そうね。それだけ話せて、笑えれば」
 頬に手を当て、肘をつく五十嵐。
「大丈夫よ。卓夫さんの親族とちょっともめてるからさ、悲しんでなんかられ
ないってとこ」
「お金が絡むと面倒よ。で、子供の証明、どうするの?」
「卓夫さんの弟さんの血液を調べて、卓夫さんの血液の構成を想像するってい
うやり方はどうかって、言われたんだけど……。所詮、想像だから、決め手に
はならないらしいの。それに、その弟ともめているから、あまり協力を期待で
きないのよね」
 ため息まじりに百合子はこぼした。
「……ねえ、百合子」
 五十嵐が不意に言った。彼女の目は、意味ありげに百合子を見つめている。
「何?」
「親子の証明をするよりも、手っ取り早い道があるかも」
「手っ取り早いって?」
「犯罪者は相続権がなくなるんじゃなかったかしら」
「さあ。そういう話、聞いた気はするけど……。それが何よ?」
「だから、二度目の旦那の弟が、犯罪者だとしたら……」
 恵美は言葉を切ったが、百合子の方は、相手の言いたいことがまだよく飲み
込めなかった。
「だからあ、その弟−−どういう名前だったかしら?」
「継雄、よ」
「そう、その継雄が寺西利郎さんを殺したんじゃないかってことよ」
「ま、まさか」
 笑おうとする百合子。でも、どこかひきつってしまっているのが、自分でも
分かった。
「分からないわよ」
 いささか無責任に、五十嵐恵美は続ける。
「継雄って人、要は、百合子に行く財産をなるべく減らしたくて、赤ん坊の親
が誰だか分からないなんて話を持ち出したんでしょう?」
「……ま、それは、そういう節が見え隠れしてるけど」
「だったら、理由はあるわよね。継雄が寺西利郎さんを邪魔に思う理由。殺し
てしまえば、当然、証言できなくなる。そうなると、法律に従うしかないって
ことになるじゃない」
「実は、警察も……継雄さんのこと、疑っているようなの」
「やっぱり」
 ほら見なさいとばかり、胸を反らす五十嵐。
「あ、でも、他にも容疑者はいっぱいいるみたい。寺西、性格が悪かったから」
「どうでもいいわ、そんなこと。とりあえず、継雄をさっさと締め上げて、白
状させたらいいんだわ。そうでもしないと、話が進まないんでしょう、百合子
の方も?」
「え?」
「遺産のことよ。犯人が捕まるまで長引いていたら、それだけ遅れるんじゃな
いの、手続きとか?」
「そうみたいなのよね」
「アリバイとかはあるのかしら?」
「……恵美ったら、探偵みたいね」
 くすくす笑ってやると、五十嵐は戸惑ったようにお喋りを止めた。そしてす
ぐに、再開する。
「あなたを心配して言ってるのよ、百合子」
「それは分かってるわ。ありがとう。だけど、久しぶりに昔の友達と会って、
こんな話ばかりなんて、私、嫌よ。恵美のこと、聞きたいわ」
「私のこと?」
「そう。こっちは主婦やってる−−やってたってことを言ったんだから、まず
は職業から。まさか、探偵じゃないんでしょ?」
「そのまさか−−なーんてのは冗談。肩書きがあってね、服飾デザイナーよ。
実際はまだ、見習いだけど」
 と言って、名刺を取り出す五十嵐。やたらとカタカナ文字が踊っている。そ
して、ある有名な女性服飾デザイナーの名を冠した事務所名があった。百合子
もよく知っている名前だった。最近、このデザイナーはインテリアプランナー
と結婚したことで週刊誌にも載ったから、記憶に残っているのだ。
「その先生に付いて、色々と勉強している訳よ」
「ふうん。何だか凄いって感じ」
「それほどでも。先生は有名だけど、気さくでいい人よ。優しくしてくれるし。
同僚とも気が合うから、仕事も勉強もし易くて気に入ってる。ただ一つ、難点
は、仕事柄、男の姿が側に見当たらないことかしら」
「あ、だから、まだ独身なのね」
 冗談を切り返す百合子。
 二人は声を立ててひとしきり笑ってからも、近況報告や昔話に花を咲かせて
いた。

 弁護士から朗報を得た百合子は、表情をほころばせた。
「血液での親子鑑定、できるんですか?」
「ん」
 もったいぶるようにうなずく弁護士先生。
「検死の際、寺西氏の身体から血液が採取されています。それを基に、鑑定可
能のはずですよ。これで、達也君はあなたと寺西氏との間の子ではないと証明
されます。完璧ではないでしょうが、法律から生じる『事実』を覆す材料にな
りますよ」
 それから鑑定の日を決定する。早ければ早いほどいいということで、二日後
に決まった。
「よかった……。ありがとうございます」
 改めて礼を述べる百合子。
「いや、結果が出ない内に感謝されてもね。それに、どうしてこのことに、す
ぐに思い当たらなかったか、お恥ずかしい」
 書類を手で繰りながら、弁護士はぼそぼそと低い声で言った。そして話題を
換える。
「それよりも、殺人事件の方はどうなっています? 八日ほど経ちましたが」
「ああ……私には関係のないことです」
「あなたが容疑者でないのは分かっていますが、色々と周囲がごたついている
でしょう。犯人が見つからないままだと、寝覚めも悪いでしょうに」
「別にそんなこと、ありません」
「……私、小耳に挟んだんですがね」
 言い方を変えてきた弁護士。
「卓夫氏の事故ですが……事故でない可能性があるかもしれないとかいう話を」
「事故でないって、どういうことなんです?」
 卓夫と聞いて、急に百合子は聞く耳を持った。
「今度の寺西氏の死で、警察も調べ直したようですよ。他殺じゃないかとね。
まあ、結果がどうなったかまでは、耳にしていませんが」
「そんなことって……。もし、事件だったら、誰がどうやって」
「さあ。予見を与えるようなことは言いたくありませんから」
 煙に巻く弁護士先生。それから、またも話題を転じる。
「そうそう、それから、興信所の人間が動いている節があります」
「? 何の話ですか?」

−−続く




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