AWC バイバイ〜世代(3/4)    らいと・ひる


        
#3054/5495 長編
★タイトル (NKG     )  95/ 4/30  22: 0  (192)
バイバイ〜世代(3/4)    らいと・ひる
★内容

       03  SMILE GIRL [アンコ]   【朝倉杏子】


 何か考えごとをしてたかのように、ぼんやり歩いていたミリィ。
「ほらほら、ぼんやりしてないでパーティ始めるよ。お祭り娘!」
 教室を目の前にして、ユミがびしっとミリィのお尻を叩く。ムードメーカー役の彼
女が落ち込んでいてはこちらまで滅入ってしまう、とそんな感じ。
「いったーい!なにすんのよ」
 すかさず悲鳴をあげ、もとのノーテンキ娘に戻るミリィ。
「ぼんやりしてる時間なんてないよ」
 ちょっときついが実感のこもったユミのお言葉。なんだか、胸にしみる。しみすぎ
て痛いよ。
「早く入ろう。この教室とも今日で最後なんだよぉ」
 ノンコも実感しているのだろう。刻々と過ぎていく時間を。
 わたしたちが共有したわずかな時間。四人で過ごした時間なんて、一生のうちのわ
ずかな瞬間。それでも、あとで振り返ってみればきっと光輝いているはず……そう思
いたい。
「あ!」
 教室と戸を開けたミリィが小さく叫んだ。
「うん、きれいだよねぇ」
 ノンコが見とれるように教室内を見渡す。
 わたしが二人の後から教室へと入ると、そこはセピア色の写真の中にでも迷い込ん
だかのような茜色の空間があった。
 西の窓から夕陽の朱が滑り込んで、教室全体を暖かく包み込んでいる。
 委員会や部活で遅くなった時、たまに見たこの色合い。卒業式の後ということもあ
ってか、朱色のフレームの中を詰め込まれた思い出たちが流れていくようだ。
「けっこうきれいでしょ、ミリィ。わたしも初めて見た時感動したもんだよ」
 と、ユミは得意げに言う。
 そういや、ミリィは帰宅部だったから夕方まで学校にいたことないもんね。
「あたし、なんかすごい感動……」
 ミリィが感動しすぎてそれ以上言葉にならないらしい。そういえば、この子は夕焼
けとか好きな青春娘でもあったんだっけ。
「ねえ、お腹空いちゃったぁ。アンコ、お菓子ちょうだい」
 茶化しているわけでもないノンコの素直なお願いに、誰もツッコミを入れる気はな
い。
「はいはい、袋の中にポテチとかチョコビとかあるから好きなだけお食べ」
 わたしは隣にいたユミと顔を合わせくすりと笑った。
「ミリィも食べる?」
 そうユミが聞く。が、そんな言葉もミリィには聞こえていないようで、窓辺にたた
ずみながら一人夕陽を仰いている。
「わたしらも浸ろうかぁねぇ」
 ユミの提案にノンコとわたしは頷く。
 この雰囲気、嫌いではない。時間が飽和したような空間……ミリィがそう言ってい
たのだが、そんな夕刻の中でぼんやりするのも悪くはない。

 時間がほんとに止まればな、と思いながらわたしは夕陽を身体いっぱいに浴びた。


        03  POKET GIRL [ノンコ]   【坂上紀子】


 夕陽の光でみんなの顔がセピア色に染まっている。
 まるで色あせた写真のよう。
 やだよ、みんな。写真みたいに色あせていくのは。
「アンコ」
「え?」
「ミリィ」
「へ?」
「ユミ」
「ん?」
「離ればなれになったって、みんなと出会えたことは忘れないよ」
「もう、ノンコったらなに言い出すと思ったら、めちゃいじらしいんだから。おもわ
ず抱きしめたくなっちゃう」
 アンコのちょっとした茶目っ気を含んだ言い方。
「ア・ン・コ。やっぱりあんた、ミリィに似てきたよ」
 目を細めてアンコを見るユミ。わたしもちょっとだけユミの意見に同意する。
「どういうことよあたしに似てるって?」
「そ、それはね……」
「でも、わたしノンコのこと好きよ」
 と、アンコに言われてわたしは素直に嬉しかった。それが恋愛感情ではなく、純粋
な友情であることを知っているから。
「みんなもね」
 予想通りアンコがそうつけ加える。
「きゃー、恥ずかしいアンコったら。……で?あたしに似てるってどういうこと?」
 ミリィのちょっと微妙な怒りのお言葉。
「そういや、わたしとミリィって似てないようでいて、実は似ているのかもしれない
ね」
 すかさずフォローのアンコ。さすがにごまかしがうまい。
「そうそう、ムードメーカーっていう意味じゃ一緒かもしれない。ま、ミリィはかな
り強引なムードメーカーだけど」
「びしっ!」
 ユミの言葉に、ミリィは少しふくれっ面をしながら彼女を叩くフリをする。
 みんないつもと同じように、いつもの自分をさらけ出す。まるで、このままずっと
一緒にいられる時間が続くかのように。
 そんな中に突然ピアノの音が響いてきた。
「あ、ピアノの音」
 思わず声をあげてしまうほど、激しく情熱の込められたメロディ。はっと驚くわた
しの心に響いた。

 別れの曲にしては激しすぎるよ。何か挑戦のようなものが込められたメロディだ。


        03  MELODY GIRL [ユミ]   【三浦有魅】


 嵐のような激しさの中に、計算しつくされたかのような技巧が込められた左手パー
ト、そして情熱的な感情の流れが表現された右手主旋律。一度聞いたら忘れるはずが
ない。
「ショパンの練習曲<エチュード>。たしか『革命』ってやつかな」
 わたしは心の震えを抑えながら、わざと笑みを浮かべてひとりごちた。
「よくわかるよね。あたしなんかなんも考えず唄うだけだから、クラシックとか疎い
し」
「わたしだってそれほど詳しいわけじゃないよ。これけっこう有名な曲だよ」
 ミリィの問いに、わたしはわざとさらりとそう答えた。
「ユミ。ピアノ弾いてるの園生さんでしょ?」
 勘のいいアンコがわたしを見る。
「まったく、最後まで自己主張の強い人だよ。ま、彼女らしいお別れの仕方なのかも
しれないけど」
「どういうこと?」
「『優れた技巧を持たない音楽家の手には届かないし、たとえ優れた技巧の持ち主で
も、優れた音楽性を持たなければ到達できない世界。』ショパンの曲によくいわれる
言葉よ。この練習曲<エチュード>はね、ピアニストの技巧を極限まで要求する曲なの。だ
けど、その技巧にばかり目を奪われて音楽の流れそのものが霞んでしまうこともない
の。つまり最高の技巧と最高の音楽性は両立するってこと。どちらかが欠けた音楽な
んて二流でしかないの」
「つまり、ユミへの最後の『忠告』ってわけ?」
 ミリィの疑問の眼差しにわたしは思わず顔をそらす。
「そういうことになるね」
 忠告なんて、そんな大げさなものではないだろうが、わたしのことをそれだけ意識
してくれているのだろう。
「ふーん、それは厳しいねぇ」
 ノンコがほんわりと呟く。
「わたし自身の音楽が二流以下になるのもわたし次第ってこと。埋もれた才能を伸ば
せるか、それともはじめっから才能なんてないのか」
「ユミ。『迷い』はなくなったんじゃなかったの?」
 無邪気にノンコが問う。
「完全には無理だってば。とりあえず、できることは全部やってみるんだからさ」
「ユミはいいよね。やりたい事がちゃんとあるから、大人になるのも楽でしょ。あた
しなんか、考えちゃうよ」
 ミリィが頬に手をあててちらりとわたしを見る。
「そんなに大人になるのが嫌なもんかな?」
「できればこのままでいたいよ」
 ミリィはほっとため息をもらす。
 そんな彼女を見てアンコが優しく口をだした。
「お姉ちゃんが言ってたんだけどね。大人になってみれば、子供の時の方が大変だっ
たんだって。知らないだけに怖いことの方がたくさんあったって。だから、そういう
無知の怖さを知るのが一番の大人への近道なんじゃないかって」
「知ることのほうが怖い場合もあるよ」
 と、やや不満げなミリィ。
「知っていた方が楽な場合の方が多いってば」
 わたしもアンコのお姉ちゃんの意見に賛成。
「そうかなぁ」
「憶病すぎるのも考えものよ」
 と、わたしとミリィが深刻な議論をしてるものだから、やや悲しげな表情でノンコ
がこちらを見る。
「せっかくのお別れパーティなんだから、もっと楽しくやろうよ。」
「いやぁ、悪い悪い。園生さんの挑発に刺激されたわたしが悪うございました」
 そう言ったところで、曲が変わっているのに気づく。もともと『革命』は短い曲。
 今度はがらりと変わって、軽やかなテンポの曲がながれてくる。さっきとは対照的
な穏やかな感じ。これはたしか『幻想即興曲』。
 あくまでも園生さん流のお別れの仕方を貫くみたい。ま、あの人にセンチメンタル
は似合わないもんね。素直に『別れ』の曲なんて弾かないだろう。
 そんなふうに考えていてふと、自分の中に熱く沸き上がってくる思いに気がつく。
「ね、みんな」
 思ったことを、そのまま口にだすことにした。今さら仲間内で照れもあるまい。い
まなら、素直になれそうな気がする。
「わたしは、もしかしたらこのまま成長してその過程で変わっちゃうかもしれない。
でもね、いつかまたみんなとどこかで出会ったとしても、今の瞬間の輝きみたいなも
のだけは失わないでいたいと思うの」
「ユミったらいつになくおセンチになっちゃってさ」
 ミリィのいつもの茶化しかたにも、少しだけ悲しみをひきずっている気がする。
「さっきまで浸ってたのは誰だったかな」
 ミリィとの付き合いはアンコやノンコよりも長い。彼女のお天気的性格にも振り回
され続けていたが、やはりしばらく会えなくなるのはさびしいものだ。お互いにそん
な部分を、今しみじみと感じ取っているのだ。
「あのさ、そろそろ暗くなってきたし、二次会行こう。『えんじぇる・べる』のパー
ティー・コースにしたから」
 アンコが雰囲気を一転しようと、明るい口調でみんなを見る。
「さっすがぁ!名幹事」
「そうだね、行こっか」
「よーし、お楽しみはこれからよ!」
 再び元気ハツラツになったミリィのかけ声で、わたしたちは教室に別れを告げる。

 薄暗くなった校舎に残されたのは、シャーペンの先で文字が刻まれたわたしたちの
机と、新学期が始まったら消されるであろうたくさんの悪戯書きのされた黒板と、校
舎に残響する園生さんの未来への挑戦が込められたピアノの音と、そしてミリィとノ
ンコとアンコと四人で過ごした放課後の匂いの残る空間だった。
 わたしたち四人の永遠に続くかと思われた時間は、時の流れに逆らえずひっそりと
忘れ物としてこの場所に置き去りにされる。


                『Bye-Bye!』

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   ☆                               ☆
   ☆   『たのしい時間なんて一瞬だね』:美鈴          ☆
   ☆   『でも、たのしかったじゃない』:杏子          ☆
   ☆   『そうそう、楽しめたことに感謝しなくちゃ』:有魅    ☆
   ☆   『楽しんだことは一生忘れないよ、わたし』:紀子     ☆
   ☆                               ☆
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