AWC 出会い  4   永山&平野年男


        
#2983/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 3/19   9: 3  (200)
出会い  4   永山&平野年男
★内容
「もちろん、忘れていないけど」
 言い淀んでしまう。
「細山君はずっと側にいてくれるけど、流さんは今だけかもしれないし」
「どこまでもミステリー好きなんだから、もう」
 あらら、きよちゃんにも呆れられてしまった。
 ほとんど関係ないけど、こんな心理テストを思い出した。
 あなたのお屋敷に強盗が入り、宝物の詰まった箱が盗まれ、愛する人がさら
われました。もし、どちらかを無条件で返してもらえるとすれば、あなたはど
ちらを返してもらいますか−−っていう問い掛け。
 単純に言ったら、愛とお金のどちらを選ぶかということなんだけど……。あ
たしなら、迷わず宝物の箱を返してもらおう。理由? 愛する人には足がある
から、一人で帰ってこれるかもしれないじゃない。その点、宝には足がないか
ら、無条件で返してくれるんなら返してもらいましょ。いけないかしら? も
ちろん、冗談半分だけどね。
 さて、当人はどうかなと、細山君を見てみると、何にも気にしていない風の
態度。あたしとしては、喜んでいいのか悲しむべきか、複雑な心境になっちゃ
うじゃないの。
 そこへ、近寄ってきた女の人が一人。サングラスをしていたけど、すぐに岡
田さんと分かった。左足の動きが、少しだけおかしい。
「元気?」
 岡田さんは言いながら、サングラスを外した。
「もちろん! 岡田さんこそ、どうなんですか?」
「調子よくなってきてるわよ。さすがにスキーはできないけど」
 と、膝上の辺りを、手でぽんぽんと叩いてみせる。
「それもありますが、失恋の傷の方は? 癒えたんですか?」
 結構、ずけずけと聞いたのは、ミエ。
 岡田さんも気を悪くした風もなく、笑って答える。
「ああ、そっちの怪我もあったんだったわ。すっかり忘れてたのに、今、玉置
さんに言われて、思い出しちゃったじゃないの」
「それはどーも、失礼しました。いずれにしても、スキー場でスキーできない
となると、面白くないでしょう、岡田さん? こっちに、スキーするよりもそ
り遊びでもしていた方がいいっていうのが約三名いますから、つき合ってやっ
てくれませんか?」
 なるほど、そう持っていくか。見れば、どこから借りてきたのか、本山がプ
ラスチック製のオレンジ色のそりを引きずっている。
「いいわ。足のことがあるから、そりに乗るかどうかは分からないけど」
「足よりも、見た目を気にして、じゃないんですか?」
 剣持が口を挟んだ。このマジシャンも、なかなか言うわ。
「いい年して、そりに乗るのは勇気がいりますもんね」
「いい年はないでしょうが。これでも大学を卒業して……」
 指を折り始める岡田さん。じゃんけんの「石」ができそうになったところで
やめてしまった。
「……ん年目よ。……やっぱり、いい年かしら」
「気にしない気にしない。若いのから見たら、僕らだっていい年した年寄りで
すから」
 細山君まで加わって、にぎやかに談笑する。最初にミエが、岡田さんを元気
づけるために仕掛けた結果がこれだとしたら、効果てき面、凄いと思う。
 とまあ、こういう経緯で、きよちゃん、本山、真子の三人は、岡田さんと一
緒に、そり遊びができる場所に向かった。よくしたもので、ここには子供のた
めに雪遊び専用の広場が設けられているから、そこにでも行くのかしら。
「さてと、剣持君。君は、私と一緒だ」
 ストックを持ったままの手で、ミエがマジシャン剣持の肩を引き寄せた。
「わっ! ど、どういうことです?」
 いきなりのことにびっくりしたか、剣持の顔は、心なしか赤くなっている。
「君も二十歳を迎えるのなら、察しなさい。それとも何かな? 私と一緒じゃ
不満?」
 ミエの絡むような言い種に、剣持は一瞬、絶句。そして。
「−−いえいえ。いいですよ。喜んでお供しましょう」
 マジシャンの身のこなしで、右手を差し出す剣持。それを受けるミエは、ま
るで女王様気取り。こらこら、どこまでお芝居を続けるつもりよ。
 どこかに行こうとする二人を見送っていると、ミエが振り返った。小さな声
が聞こえた。多分、あたしだけに。
「うまくやりなさい」

 昼前、「レオン」の食堂に、岡田さんも含めて集合。まだ、流さんの姿は見
えない。天気の方は晴れ間がなくなり、かなり怪しい雲行き。
 食べ始めるなり、あたしの隣に陣取ったミエが聞いてくる。
「リマ隊員、成果は? 君には報告の義務がある」
「あのね」
 あたしは笑ってごまかそうと試みる。だって、報告するような進展はなかっ
たんだもの。
「まさか、あれだけ気を利かせて状況設定をしたのに、何もなかったとか?」
 細山君の方を見ながら、ミエは鋭いことを言う。こっちとしては、黙るしか
ない。
「当たり、なのね。仕方ないなあ」
「期待外れで、ごめんね。でも、どこへ行っても人ばっかりで、とてもムード
を醸す余地なんてないわよ」
「謝らなくてもいいけれど。……そうか、やっぱり、人が多いんだ」
 何だか知らないけど、一人で納得するミエ。
「あれは、人目を気にしていたのね」
「何のこと?」
「試しに剣持君を誘惑してみたんだけど、道理で網に掛からないと思った」
 うっ。
 食べ物が喉に詰まりそうになった。派手にせき込むと、みんなが注目してる
じゃないの。
「何でもない」
 心配してくれる声にそう答えてから、あたしはミエをにらんだ。
「変なこと言わないでよ。冗談きついわ」
「そんなにおかしかった?」
 笑いをこらえるミエは、肩を震わせていた。
「もちろん、冗談だけど。でもね、剣持君って、同じ回生にはかなりもてるみ
たいなのよ。ちょっと話を聞いたんだけど、複数の子と清い交際をしているよ
うよ。清いってとこがポイント」
 何となく分かる。微妙なニュアンス。
「それにしても、あなた達は清すぎる! 高校の頃と変わってないじゃない。
見守り甲斐のないカップルね、全く」
「カップルなのかしらね……」
 心配になってくる。
 ぼーっとしかけたところに、起爆剤。そう、流さんの登場だ。
 その姿を見つけて、腰を浮かしかけると、向こうから声が。
「待った待った。僕もまだ食べていないんだ。席は向こうだから、食べてから
寄せてもらうとするよ」
「分かりました」
 あたしは座り直すと、目の前の皿を片付けるのに没頭し始めた。
「さっきの方は、どなたなの?」
 誰とはなしに、岡田さんが聞いてきた。知らないのだから、当然ね。
「まさか同じ学生じゃないでしょうから、顧問の先生とか?」
 つい、失笑。
「体育会系ならともかく、今どき、文化系のクラブに顧問の先生なんて、いま
せん。いても、たいていが名前だけなんです」
 ミエが説明する。
「そうか。そう言えば、私が学生のときも、そうだったような気がするわ。だ
ったら、どういう関係なの?」
「探偵さんです」
 剣持がおどけた口ぶりで、しかもさらりと答えた。目を白黒させんばかりの
岡田さん。
「探偵? 推理小説研究会ともなると、変わった人とつながりがあるんだ?」
 素直に感心してくれる岡田さんに、あたしから本当のところを話しておいた。
 こちらが説明し終わると、岡田さんは安心したように、顔つきを緩めた。
「じゃあ、ここに来るまでは顔も見たことがなかったのね」
「はい、名前を知っていただけで」
「それなら、私も似たようなものね。いてもいいかしら?」
 異存があるはずもない。
「どうぞ。でも、ひょっとしたら、流さんが嫌がるかも」
 脅かすような口を利いたのは真子。
「あら、どうして?」
「女学生以外の女性はだめだって」
「もう、ひどいわねえ」
 むくれる岡田さんに、真子はすぐに頭を下げた。第三者が見れば、奇妙な光
景なんだろうなあ。年齢差も身長差も、漫才師かコメディ映画に出てくる組み
合わせみたいだわ。
 午後一時まであと十分ほどになったとき、流さんがこちらに来た。相変わら
ず、サングラスをかけている。本では、初期の頃、鋭い目つきを持っている、
となっていたけど、実際はどうなのかしら。レンズ越しでははっきりしない。
「食堂を占領しておく訳にもいかないから、どこか他に」
 ということで、あたし達九人は移動。でも、適当な場所がない。困った末に、
あたし達が取った部屋に入った。
 岡田さんも含めてこちらの自己紹介をしておいてから、流さんは始めた。
「まさか、君達みたいな推理小説研究会から、インタビューを申し込まれると
は思っても見なかったな」
「場所も場所ですしね」
 あたし達にとっても予想外なのは、言うまでもない。スキー場でこんなこと
になるなんて!
「それでは始めさせてもらいます。まず、今度の旅行の目的は?」
 ミエが聞いた。
「事件の調査……と言えれば格好いいんだが、違うんだ。純粋に休暇だよ。リ
フレッシュってやつさ」
「ご友人で作家の平野年男さんは、今回、一緒じゃないんですね?」
「ああ。最初は、彼も来る予定だったんだが、例によって締め切りの調整がつ
かなくなってね。結局、僕一人になってしまった」
「平野さんと常に一緒ということはないんですよね」
 と、ウインクするミエ。
「ひどいなあ。君らの考えていることぐらい、分かるぞ。ホモだの何だのって、
そっちに想像が行ってるんだろう。誤解もはなはだしいね」
 流さんは一笑に付した。真っ白とは言えないが、健康そうな並びの歯が覗く。
「僕にはちゃんと、彼女がいるよ。この年になって、まだ結婚していないんだ
が」
 へえ、いいこと聞けた。
「どんな人です?」
 思わず、口を挟んでしまう。
「と……ある事件で知り合ったとだけ言っておくよ。これで勘弁してもらいた
いね」
 ますます興味を引かれる。もっと聞きたいけど、ストップがかかったのなら、
どうしようもないか。
「平野さんの方は?」
 再び、ミエ。
「結婚してるかどうか? 実は……している」
「え? 全然、話に出てきませんよね」
「それは、彼が家族について書こうとしないだけ。万が一、彼の家族が何らか
の形で事件に関わってくれば、書かざるを得ないんだろうけど、残念ながら、
そんな事件は起こっていないね。今のところは」
「断言されるからには、平野さんの家族とお会いしたことがあると」
「もちろん。きれいな奥さんでね。何度か、平野君の家に泊めてもらったとき、
お世話になっている。子供はまだない」
「そういえば、平野さんの年齢はおいくつなんでしょう? 流さんのは分かり
ましたけど」
「小説を読んだ感じでは、僕と彼とで、どっちが年上に思える?」
 流さんは逆に聞いてきた。面白がってるみたい。探偵という人種は、これだ
から……。
 どっちが年上かに関して、あまり流さんの出てくる小説を読んでいない岡田
さんや細山君、きよちゃんを除いた推理研内部の意見は、ほぼ五分。流さんが
年上と思うのは、剣持と真子の二人。理由は、流さんの方が賢く見えるから。
一方、その逆は、あたし、本山の二人。その理由、勝手気ままに推理を展開す
る流さんを、年上の平野さんが後ろから押さえているんじゃないかって思える
から。ミエだけ、二人は同い年じゃないかという。
「今の時点では、副部長さんが当たりだ」
 流さんは、まだおかしそうにしている。
 当のミエは、すぐに反応した。
「今の時点ではということは、どちらかが一つ、年上なんですね?」
「そうだよ。どっちが上かは、ご想像に任せよう」
 結局、はぐらかされちゃった。
「分かりました……。では次に、これまで手がけてきた事件について、お話を
聞かせてもらいたいんですが」
 話題の転換。これが本題でもある。
「そうだね。最初は……君達と出会うきっかけとなった事件について話そうか」
「お願いします。『不思議荘殺人事件』のことを」
 この事件については、新聞に発表された他に香代から聞いた部分もあってよ
く知っている。でも、とっかかりとしては適当だから、耳を傾けよう。

−−続く




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