AWC 出会い  2   永山&平野年男


        
#2981/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 3/19   8:57  (192)
出会い  2   永山&平野年男
★内容
 みんなでうなずく。
「だったら、なおのこと、お引き留めしたら悪いわね。私はもう平気だから」
 そう言ってから、彼女は名刺を取り出した。五人全員が受け取る。岡田牧子
とあった。化粧品のメーカーに勤めているみたい。
「念のため、渡しておくわね。もし、ロッジの方で会ったら、よろしく」
 こちらも自分達の名前と大学の名前だけ告げて、その場を辞去した。
 さっきの「事故現場」に戻ると、剣持が待ちくたびれたようにしていた。珍
しく、ふてくされている。
「どこ行ってたんですか! 戻って来たら、誰もいないなんて」
「放ったらかしにされたとは思わなかったの?」
 くすくす笑いながら、あたしは聞いた。
「そこにスティックが残ってましたから」
 なるほど、二本、雪に突き刺さっている。本山のだ。見れば、スキー板も離
れたところに立ててある。
 あたし達は、今度の旅行の幹事に、ことの次第を話して聞かせた。

 スキーロッジ「レオン」。トレードマークは、黒地に白く、獅子のたてがみ
が浮き彫りにされたもの。ロッジのあちらこちらに、そのマーク入りの板があ
る。
「疲れたけど、楽しかった」
 そんなことを言いながら、戻ったのが夕方の五時頃。ナイトスキーをやる予
定は、今のところない。
 フロントで鍵を受け取り、各自、部屋に行こうとしたとき−−。
<お客様のお呼び出しを申し上げます。流次郎様、いらっしゃいましたら、一
階のフロントまでお越しください。繰り返します……>
 館内放送。
 最初は何か分からなかったけれど、とにかく引っかかった。どこかで耳にし
た記憶のある名前……。
「あ」
 つい、声に出してしまう。でも、思い出した瞬間、本当にびっくりした。
「『不思議荘殺人事件』だわ!」
 言いながら、手近のミエをつかまえた。他のみんなは、もう姿が見えない。
「何を叫んでるのよ」
「聞こえなかった? 流次郎って言ってた」
「ナガレジロウ……って、前に、香代が巻き込まれた事件で、真相を見破った
という探偵がそんな名前だったかしら」
 ミエが口にした事件は、世間では、『不思議荘殺人事件』として知られる。
 香代というのは、少し前まで同じ推理研だった牧村香代。彼女は当時、とあ
るミステリーのファンクラブにも入っており、その会が所有する島で、事件は
起こった。どうしたいきさつか、香代が疑われたらしい。その容疑を晴らして
くれたのが、私立探偵をしている流次郎って人。あたし達はこの人に会ったこ
とはなく、香代も事件解決後、一度会っただけと聞いている。
 あたしに限らず、推理研のメンバーの多くは一度、会って話を聞いてみたい
と思っていたの。その探偵が、ここに来ている?
「待っていたら、顔が分かるかも。そうしたら、あとはどうとでもきっかけは
作れるわ」
「……確かに、流なんて名前は珍しいし、そういう偶然が起こったのかもしれ
ないわね」
 ミエは、慎重な口ぶりではあったが、興味を引かれているのはありありと表
情に出ている。
「では、待ちますか」
 決まった。ただ漫然と待っていても、フロントを訪ねる人は多い。誰が流次
郎なのか分からないから、フロント横の公衆電話に陣取った。今だけ、他の人
への迷惑も顧みず、話しているふりをさせてもらおう。
 やがて、待ち望んでいた言葉が耳に届いた。
「流ですが……」
 あたしは大げさに笑う素振りをしながら、身体の向きを変えた。端に立つミ
エも、さりげなく、フロントへ目を。
「流次郎様ですね」
「そうです」
 そこにいたのは、薄い色のサングラスをした、髪がやや長めの男の人だった。
香代から聞いた話にも重なる。背が高く、カウンター上で組んでいる手の指は、
少し黄色っぽく汚れていたけど、長くて器用そうに見える。
 呼び出しの用件は、落とし物だったらしい。万年筆か何かを受け取って、流
次郎は去って行く。
 あたしとミエは、顔を見合わせてからうなずいた。こうなれば、部屋も確認
しておこう。お喋りな女子大生を装い、階段を昇る。エレベーターでもあれば、
同じ箱に乗り合わせて、きっかけを作れるのだけど、このロッジではそうはい
かない。三階とロッジにしては大きいのに、階段しかないんだから。
 流の姿は、二階の奥から二つ目の部屋に消えた。あたし達は部屋番号を見て
から、自分達の部屋に小走りに向かった。二〇九−−それが流次郎のいる部屋。
さすが探偵が泊まるところ、一等室だった。

 少々、興奮気味に流次郎が来ていることを話していると、細山君達、男性陣
がやって来た。
「流次郎って誰だ?」
 途中、全く事情を知らない細山君が、口を挟んでくる。気になってしょうが
ないらしい。
「探偵としか言い様がないわ。あたしだって、これまで会ったことなかったん
だから」
「探偵か……それなら、自分も一人、知っている」
 意外な言葉。細山君が知っている探偵って?
「別に話すほどのことじゃないんだ。確かにあの人は、現実の、よくある興信
所の探偵とは違っていた。名探偵って雰囲気で、能力の方も名探偵だよ」
 気になることを言ってくれるじゃない。
「聞かせて、その『名』探偵の話」
「いや、この話はここまで。それより、そっちの続きを」
 ごまかされてしまった。ずるいなあ。ま、いいか。
「折角の機会なんだし、流次郎と会ってみたいなって思ってるんだけど」
「いきなり、ですか?」
 本山が不安そうに言った。
「向こうは、こっちのことを知らないんでしょ?」
「直接はね。でも、香代を通じて、推理研の名前は知っているはずなの。だか
ら、話に聞く限りじゃ、気難しい人でもなさそうだし……」
 流次郎の探偵譚は、作家の平野年男という人の手によって、いくつか紹介さ
れている。それを読んだ記憶を加味して言ってる訳。
「何かの事件の調査だったら、どうします?」
 今度は剣持。みんな、意外に後込みする質なのかしら。
「邪魔になるかもしれませんよ」
「そんな雰囲気じゃなかったけど。ねえ、ミエ」
「まあね」
 同意を求めると、ミエは肯定の意を表した。そのまま彼女が続ける。
「外からじゃ分からないだけかもしれないけれどね。でも、一つ言えるのは、
調査に取り組んでいたら、探偵ともあろう人が、万年筆を落とすなんてミスを
するか、疑問よね。しかも、万年筆には名前が入っていたようだし」
「つまり、調査で来ているんじゃないってこと?」
 これは真子。こっちの足は、もう完全に治った様子。
「多分ね」
「それにもう一つ。まだ確実じゃないんだけど」
 と、あたしは考えを述べる。
「事件のときはたいてい、二人で行動しているらしいのよね。流次郎の隣には
ワトソン役の平野年男の姿ありって具合に。でも、ここでは一人みたいなの。
フロントに一人で現れたし、部屋に戻ったときには、鍵を使っていたわ。つま
り、連れがいないってこと」
「一人で一部屋使っている場合を、お忘れなく」
 ミエが注意を促してきた。その可能性は認める。でも。
「とにかく、会ってみたいの」
「別に反対していないけど」
 みんな、口を揃える。
 拍子抜けするなあ。何のために話し合ったのだ、君らは?
「推理研らしくていいんじゃない。スキーに来てまで、こんなことに執着する
なんてね」
 部外者のきよちゃんが、お気楽に言った。
 いつ実行するかはおいて、あたし達は簡単に身仕度をした。夕食の時間は決
められており、その時刻が迫っていたのだ。

 まず、トレイを持つ。用意してあるお皿を順次、取っていく。最後に割り箸。
 N大学推理小説研究会御一行様。
 そんな札が置かれた長テーブルに、並んで座る。
 名目は合宿なので、まずは副部長からお言葉。それから形ばかりの「いただ
きます」をやって、食事開始。
「さっきの、見た?」
 きよちゃんが話しかけてきた。彼女、よくお喋りして、食べるのが遅い。喋
るときは、絶対に食べ物を口にしないから、当然。行儀がいいのも問題がある
なと思う。
「食べながら話してよ。ここには知っている人しかいないんだから」
「うん」
 案外、素直にうなずいた。けれど、箸の動きは遅い。
「さっき、酔っ払いがいたでしょう?」
 ああ、あのことを言っているのか。あたしはご飯を飲み込むのに合わせて、
こくりとうなずいた。食堂に移動するまでに、へべれけになったおじさんを見
かけたっけ。
「あの人、従業員の女の人に、手を出そうとしていたのよ。最低よね」
「手を出すというのは、物理的に触ろうとしてたのよね」
 日本語は難しいので、確認しておく。
「そうよ。腰の辺りに手を回そうとしてた。あんなのがいると、嫌になっちゃ
う。どうかもう顔を合わせませんように」
 お願いしてる間に、もっと食事を片付けるように、きよちゃん。
「やっぱり、あなた達だったのね」
 急に声をかけられる。そちらの方を向くと、例の捻挫した女の人。えっと、
岡田……牧子さんだったかしら。
「席に着く前、そこの札が見えたから、多分そうじゃないかと思っていたのよ。
昼間は本当に、ありがとうね」
「岡田さん、もう足は?」
 気になることを聞いてみる。
「ええ、ほとんど平気。まだ痛みはあるけど、歩く分には支障ないわ。ほら」
 と、駆け足の格好までしてくれる。最初のイメージとちょっと違って、割と
明るく陽気な人らしい。
 改めてみると、やっぱり背が高い。一七〇くらいあるかしら。もう少し細身
なら、モデルが勤まるんじゃ……と、これは余計なお世話ね。
「ただ、包帯と腫れのおかげで、持って来たブーツが履けなくなっちゃってね。
ここのスニーカーを買わされちゃったわ」
 ふむ。見れば、あまり似合わない白のスニーカーを履いている。サイズも普
通の状態ではぶかぶかになるだろうから、ほとんど無駄な買い物じゃないの。
「あ、あの、食事はもう、お済みですか?」
 比較的人見知りする質のきよちゃんが聞く。不思議だったけど、どうやら、
自分が食べるのが遅いのをカバーしてくれないかと考えてのことらしい。
「残念だけど、終わっちゃった。でも、一人でいても退屈するだけだろうから、
ここに少しお邪魔してもいいかしら」
「どうぞどうぞ」
 いち早く歓迎したのは、言うまでもない、男性陣。全く、よくやる。
「昼間、見てない顔の子がいる」
 ということで、剣持と真子が簡単に自己紹介。
「まさか、卒業旅行じゃないわよね。みんな若いし」
 こういうときの話し役は、やはりミエ。
「ええ、合宿なんです。全員、三回生と二回生で。会には四回生もいるんです
けど、その人が卒業旅行なんです。そのため、こちらはパスされて」
「ふうん。ねえ、推理小説研究会って、どんなことをするの? まさか、人殺
しのことばかり考えているんじゃないでしょう」
「それはそうですよ」
 と、ミエが言ったところに重ねて、本山が余計なことを。
「ヒトゴロシのこと、考えることもありますけど」
 そんなこと言っちゃったら、先に進まないじゃないの。
「つまり、トリックを考えるということです」
 すかさず剣持がフォロー。さすがに機転が利く。
「僕ら、推理小説を読むだけじゃなく、書くこともやっているんです。と言っ
ても、僕自身はまだ、書いたことはないんですが」
「へえ! 誰と誰が書いているのかしら?」
 興味を持ってくれたらしい岡田さん。とりあえず、ヒトゴロシの話にならな
くて、ほっ。まだ食べてる最中なんだからね。

−−続く




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