#2957/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 95/ 2/ 6 1: 6 (198)
ダルガの心臓(15) 青木無常
★内容
援軍を呼びにいくつもりなのかもしれない。
「追う」
短く告げて、鏑丸が後を走りだした。あれほどの巨体のくせして、驚異的なほど敏
捷な動きだった。
「は、たいしたもんだ」
つぶやいたおれに、かぶせるようにして、
「あんたもね、峠達彦」と、心底感心したような口調で尚美が云った。「ちょっと―
―いえ、かなり見直したわよ。篭女を撃退した時と同じ技ね? 中国拳法の、奥義か
なにか?」
しめた。かなり都合のいい勘ちがいをしてくれたものだ。
「おおよ」とおれは力強くうなずいてみせた。「ありゃ気功の技でよ。峠昇竜拳てん
だ。すごいだろうが」
「ええ、たいしたものだわ」
目がきらきらしている。こりゃいいぞ。
「さ、それじゃ」と調子にのって尚美の肩に腕をまわした。「あとは鏑丸にまかせて、
さきを急ごうか」
「そうもいかないわ」するりとぬけ出て、尚美は化物と鏑丸の消えた闇に歩を踏みだ
した。「あたし一人で篭女と対決するのは心細いもの。いくわよ」
ときた。ちくしょう、やっぱり今いちおれは信用されてねえってこった。
しかたなく、かろやかに走る尚美を追ってどたどたと、堂奥へ踏みこんだ。
またあの底なしの闇がぽっかり口を開いているんじゃないかと、ためらいなく先行
する尚美をひやひやしながら見ていたが、どうやらこの堂はふつうの建物らしい。吹
き抜けになった外部は完璧な暗黒に閉ざされているものの、すくなくとも建物内部は
ふつうの大寺院を思わせる構造を維持しつづけていた。
「それにしても、最初に出てきた田舎家屋といいこの寺院といい、超古代王朝の名残
とは思えんな」
ひとりつぶやくと、油断なく視線を四囲に走らせながら尚美が応えた。
「タイムラグはかなりあるらしいけど、外部の建築様式の推移にあわせて建てかえを
しているみたいね。案外、流行にはうるさいのかもしれないわ。もっとも、あの容貌
のせいかしらないけど、ここみたいな寺院建築がイヒカたちにはいちばん居心地がい
いようだけれどね」
「流行に、ね」おれは思わず肩をすくめる。「二世帯住宅かなんかもあるんじゃねえ
の、どっかに」
笑いを期待したが、聞こえなかったのか聞き流したのか尚美は真剣な表情で前方を
油断なくさぐりまわっているだけだ。
が、廊下の曲がり角からむこう側に顔をのぞかせるや、
「とまって」
ささやくような声で鋭くいいざま、おれの胸を手でおさえた。
なんだ? と、肩ごしにのぞこうとすると尚美は、
「見ないで」
強い調子でささやきながらおれの顔を、手のひらでおおっておしかえす。
「おい、なんなんだ」
妙な態度に不信感をあおられつつ、尚美の手をもぎ離して強引に顔をのぞかせ――
納得すると同時に、唖然とした。
十何畳ほどもありそうなだだっ広い板の間の奥に、暗黒を背景にした巨大な仏間が
あった。
その仏間に、丈三メートルにもおよぶ大仏にも似た異様な仏像が鎮座していた。青
銅色の、ややくすみさびれた質感からして、妖怪人間イヒカではなく本物の像なのだ
ろう。が、どことなく不気味な微笑を口もとに刻んでいる点は、あの仏像人間どもと
同じだった。
が、そのような大仏の像などどうでもいいことだった。
問題は、その大仏像を前にしてより集い、無言で対面しあうイヒカどもの群れだっ
た。
最初は、禅問答か囲碁の試合でもしているのかと思った。
それほど静かで、おごそかな表情をしていたからだ。
が――まるでちがっていた。
そこに集まった妖怪どもはまず、だれひとりとして、あの薄ものの衣服を身につけ
てはいなかった。
つまり全裸だ。
そして、全裸で、むかいあって、なにをしているのかというと――うそだろう?
「……うそだろう?」
思ったままに、おれは呆然と口にしていた。
「うそじゃないみたいよ」
なぜか憮然とした口調で、尚美が応えた。
むかいあった化物どもの、昆虫に似た下腹部が――その先端部分でつながりあって
いたのだ。
つまり連中は――どうやら、セックスをしているらしい。
あまりにも冷静に、あまりにも静かに、身動きひとつするでもなくなされているた
めに、どうにもそうとは理解しがたいのだが、かといってほかに解釈のしようもない。
そう思ってよく見てみると、どことなく艶っぽい雰囲気がその一帯に流れているよ
うな気もしないでもなかった。
尚美がおれをおしとどめようとしたのも、そんな雰囲気を感じとってのことだった
のかもしれない。
なるほど、あの慈愛にみちた無数の微笑もまた、どことなく恍惚としているように
も見えてくる。
おれは大きく息を吸い、音を立てて吐き出していた。
音を立てるのはヤバいかな、と思ったが、仏像人間どもはふりむく気配ひとつ見せ
ない。
夢中になってやがるのだ。
なんとなく、おかしくなってきた。
同時に、むずむずしたものが、はっきりと首をもたげはじめていた。
「すげえな……」
なにがすげえのかよくわからぬまま、ため息まじりにつぶやいた。
尚美の耳にむかって。
13
「よしてよ」
ささやく尚美の抗議も、どこか弱々しい。
「荘厳じゃねえかよ」
なおもささやきかけながら、おれは尚美の肩に手をかけていた。
よしてってば、といいながら跳ねのける。が、その動作にもいつもの力が感じられ
なかった。
こりゃいける――とも思わなかった。
ただただ、いきなり昂揚をはじめた性感にみちびかれるようにして、後ろから尚美
を抱きしめていた。
「やめて」
と、ささやきだけで叱責しながら、身をもがかせた。
断固としたいつもの態度は、まるで欠落していた。
「尚美」
無視して抱きしめる腕に力をこめ、衣服の上から胸をもみしだいた。
熱い吐息が、尚美の口からもれ出た。
「尚美」
ささやきながら、うなじに唇をおしつけた。
髪の生え際にそって唇をすべらせる。
「あ、あ」
と短くあえぎ、弱々しくからだを左右にふった。
着衣の下から手をつっこみ、ブラジャーをおしあげてじかに乳房をつかんだ。
内側からおしかえしてくるような、弾力に富んだ感触がおれの手のひらに広がった。
乳首はすでに勃っている。それをつまんで、もてあそんだ。
尚美の全身が痙攣した。
至上の幸福感に満たされつつ、黒革のミニスカートをたくしあげ、内腿に指を這わ
せた。
「あ、く、ダメ……」
弱々しい抗議の言葉はもはや抗議の響きはいささかも内包せず、上むかせた顎と頬、
そしてさし上げた腕で抱えこむようにして、首すじに愛撫を這わせるおれの頭を抱え
こんだ。あいた右手は、乳房をもみしだくおれの右腕と股間の間とを、さまようよう
にして往還する。
その手を左手でとらえて、そのまま尚美自身にむけて導いた。
その華奢な指が、自分自身の深い部分にむけて無意識にうごめくのを、おれの指先
が感じていた。
はりきった尚美の尻の双球に密着して、おれの陽根は怒張しきっていた。
狂おしく尚美の肉体に手を這わせながら、おれは尻の割れ目にそって逸物をリズミ
カルに上下させた。
「と……うげ……」
この期におよんでひとをフルネームで呼びたがる。
苦笑しつつ、唇をおしあてた肩口を、深く、強く吸った。
あああ、とうめきながらおれの顔を抱えこんだ手に強く力を入れた。股間にあてた
華奢な手は淫靡に上下に動き、おれの肩におかれた手にもわずかに力がこめられた。
「尚美」
熱くささやき、抱きしめる腕に力をこめた。
そのとき、朦朧とした声音で、それでも尚美は「見……て……」といった。
なにやらわからないがちらりと視線を上げ――
仏像人間どものカップルの何組かが、慈悲の微笑をうかべたおだやかな表情のまま、
口端からよだれをたらしているのを見つけた。
むこうも絶頂に達してやがる、と苦笑しつつ思い――愕然とした。
ずるりと、戯画化された陰裂からひきずりだされた退化した陽根の先端が、粘液に
どろどろとぬれ光っている。
それ自体は、そほど異様な光景でもない。充分に予測の範囲内だ。
問題は、陽根のぬき出された陰裂の方にあった。
輝いているのだ。
青白く。
「……まさか……」
荒れ狂う官能の嵐も寸時忘れはてて、おれは呆然とつぶやいていた。
「たぶん……そうよ……」
尚美もまた、いまだ熱い余韻を声にとどめたまま云った。
まさにそのとおりだった。
ぶよぶよとした下腹部の先端部分から現れ出た青白い光は、まるでひり出されるよ
うにして楕円と化し――そのまま、生まれでた海棲動物が水中にただよい浮かぶよう
にして、ゆらりと宙に浮遊したのである。
あれが精霊か、とおれは思った。
さいしょに、あの仏像人間どもと遭遇した時、ヤツらは、招いたはずの精霊はどこ
だと問うた。
あの、直径二十メートルの青白い光を放つUFOこそが、その精霊だったのだろう。
そしてその精霊は、まさにヤツらが生み出したものであったというわけだ。
「不老長生種の子ども、というわけだ」
と背後で鏑丸が云った。
まさにそのとおりだな、とおれもうなずきかけ――
「なに?」
「きゃっ!」
同じようなまぬけな一拍をおいて、おれと尚美は同時に叫びつつふりむいていた。
おれの肩口に、その武骨な手をそっとやさしくおいた鏑丸が、うっそりとそこにた
たずんでいた。
「お、お、お、お、おまえいつのまに」
どもりながらうろたえるおれを眺めおろす鏑丸の小さな瞳が、心なしかうるんでい
るような気がする。ちょっと待て。おまえ、この状況でなんで尚美でなくおれの肩に
手をかけていた。
嵐のように渦巻く疑問は極度の狼狽にさえぎられて言葉にはならず――その間に鏑
丸はちらりとおれたちの背後に視線をやり、やや紅潮した顔に残念そうな表情をうか
べながら口にした。
「逃げた方がよさそうだ」
あん? とうろたえまくったまま目をむき――背後をふりかえり――目を丸くしな
がら、尚美と見かわした。
夢中になってわめきまくり焦りまくった代償に――イヒカの大群に、存在をさとら
れてしまっていたのだ。
全裸の青白い皮膚に、うっすらと汗のような膜をはった仏像人間どもの大半が、異
様なセックスを中断しておれたちの方を凝視していた。
慈顔の微笑がこころなしか、怒りにひきつっているような気がしないでもない。
「こりゃ、かなりヤバいぞ」
蒼然となりつつ、おれは云った。
「あんたタイミング悪いわよ」
すばやく乱れた着衣を直しつつ、尚美が鏑丸に云った。くやしいことに、恥じらい
のひとつも見せない無表情。そして、まるでおれとの間に起こったできごとなど、な
にほどのことでもないとでもいいたげな冷静な口調だった。
「責任とってね」
つづけて、とりようによっては不気味きわまりないセリフを口にした。
鏑丸にむけて、だ。
なんのことやらとっさには理解できず、まぬけ面さらしつつおれは尚美と鏑丸とを
交互に見やった。
鏑丸の顔に一瞬、困ったような色がうかんだのを見てぎょっとした。
が、すぐにいつもの無表情に戻ると、巨漢はグローブみたいな手をつき出し、おれ
と尚美とを静かに後方にさがらせた。
そして、いまや蝟集しつつある仏像人間の群れと相対した。
腰からさげた水筒の中身をぶちまけまくるのか、と予想した。
みごとにはずれた。
鏑丸は、腰をややさげた姿勢で仁王立ちになるや――その巨大な手をスピーカ型に
して、口もとにあてたのだ。
一瞬、大声でわめき出すのかと想像した。