#2720/5495 長編
★タイトル (EXM ) 94/ 7/31 9:44 (140)
JETBOY第2話(6)
★内容
6
「双子って居るもんだな」
志村は呆気にとられている。
誠と渚の容姿は、全くの瓜二つ、鏡で自分をみたような感じである。ショート
カットのヘアスタイルに大きな瞳、ふっくらと発達した胸、一卵性双生児の双子
に間違いない。
といっても、性格が全体に表れるのか細部における違いはあった。雰囲気のせ
いだろうか、誠の目は少しつり上がっているように思える。
それに体格にしても、渚が女性独特のふんわりとした体格をしているのに対し
て誠はがっしりとした女性アスリート型、ジャッキー・ジョイナー・カーシーの
ような風貌を持っている。
アクセサリーにしても誠の凝りようはかなりのものだ。渚が何も目立つところ
がないのにたいして、誠は頭にヘアバンドを付け、手首にはリストバンドを巻い
ている。どちらもアディダス製だ。
「あっちの、誠って子、気が強そうだ」
田宮の分析は当たっている。
「あの、外国人のチーム相手にどんな事をやるんだろうね。あの10番は」
「そうだな」と志村は頷いて、
「おい、矢島」
矢島がクラブハウスから戻ってきていた。「はい、先輩」
「あの、外人さんのチーム、あれって何? 」
米軍の子弟のクラブか何かのチームかと志村は思っている。コスモポリタンな
編成だからそう考えられるのだが。
「あのチームは『セレソン』です」
「セレソン?」
「別に、ブラジル代表とかというわけじゃないんですけどね。ブラジルとか南
米からサッカーの上手な少年を現地で拾ってきまして、姫百合学園の留学生とし
てこちらの方に呼び寄せているんです」
「へえ」
「レベルも相当なものです。中にはフラメンゴやボカ・ジュニオルズのジュニ
アユースのイレブンメンバーだった子もいますからね」
フラメンゴとは、ブラジルの大都市のリォデジャネイロがあるリオ州の名門ク
ラブチームだし、ボカ・ジュニオルズはアルゼンチンのブェノスアイレスに本拠
を置いているマラドーナも在籍していたことのあるクラブチームである。
「そんな奴らとやって実際勝てるのかよ」
当然の疑問であった。
しかし、矢島は自信を持って答えた。
「五分五分です」
「嘘ぉ」
「渚ちゃんの実力を疑ってはいけません。それに、背番号10のまこちゃんの
実力も相当なモノです」
「うむ」
「Jリーグよりもハイレベルですよ、この練習試合は」
腕組みしながらフィールド全体を眺めている矢島の背後に沢山の観客が集まっ
てきた。姫百合学園の生徒たちにオクマの青年団の連中もちらほらといる。
口笛に交じってマコトーやナギサーの声が聞こえる。マコトーは姫百合の中等
部の数十人の女の子の声で、ナギサーは男子生徒の叫び声だ。時々ネーネーとい
う方言も耳にする。
「そうそう、田宮さんが来てるって加茂さんに言っておいたんですが」
「加茂監督! 」
朗報である。田宮にとって加茂はかつての師匠であった。
「クラブハウスの三階にいらっしゃいますから」
「ありがとう」
田宮は、かつての快速ウイングとも呼ばれた足を飛ばし、クラブハウスの方に
向かって走っていった。
「田宮さんって、意外とせっかちなんだな」
「そりゃねぇ、かつての師匠だから」
その田宮と入れ代わりに、日本サッカー協会の黒いユニホームを身につけたレ
フリー三人がグラウンドの中に入っていった。
監督の笛が鳴り響く。試合開始の合図だ。
シーサーズとセレソンのイレブンが持ち場に散らばる。コート左側のオレンジ
とブルーのユニホームがシーサーズで、純白のユニホームがセレソンである。
渚と誠はセンターサークルの左側に残った。キックオフはシーサーズである。
「響くなぁ」
志村は耳を塞いだ。沖縄名物の口笛の音が一層うるさくなり、「シーサー!
シーサー! 」の声も次第に高らかになってきた。
ピィィィィィィィィィッ!
キックオフの笛が、その口笛をかき消すように鳴り響いた。
誠が少し後ろに蹴って渚にパスする。
渚が半身で受け止めて、守備陣形を確認する。
真ん中… だ………
「いけぇ! 」
志村が叫ぶ!
その声と同時に、渚が動いた。相手の懐に飛び込み、いきなり二人を抜き去っ
た! ボールが渚の足首にまとわりつくように離れない。足首の一部分みたいだ。
あっと言う間にペナルティエリアの中央に侵攻した。同時に4人ものディフェ
ンダー達が渚を囲もうと、四方八方からの強烈な圧力を掛ける。
華奢な体は屈強な少年たちに囲まれる。しかし、渚はこれも突破してみせた。
ゴールへの扉が閉まる瞬間を巧妙にすり抜け、置き去りにしたのだ。
セレソンのディフェンダー達が振り向いた時、渚の姿は彼方に在った。
既に、ゴール前にはゴールキーパーしか居ない。一対一の対決。
渚は右足を軽く前に出す。
目線は前屈状態で左方向に向いていた。
しかし、これはトリックで、実際は左足でのシュートの布石であった。
「ゴーー!」
歓声と同時に、左足のシュートがゴール右隅に目掛けて飛んだ。
しかし、流石はセレソンである。
「惜しい! 」
ゴールキーパーが素早く反応を切り換え、左手の握り拳で前方遠くへはじき返
したのである。観客の叫びはざわめきへと変わった。
「コザの爆撃機みたいだな。前線が渚だけのワントップでも十分だ」
しかし志村が感心したのはスピードだけではない。ストライカーに必要なボー
ルコントロールの的確さを持っていた。
このボールコントロールに関しては、天性のものだと志村は思っている。ディ
フェンダーに囲まれつつも突破したあの妙技は、視覚に依存するだけでは全ての
動きをとらえることはかなわない。
あの時渚は突破の際に、守備の隙間を突いてボールを通したのだ。秒単位の時
間の流れの中で、最高の選択を連発したのである。
人間にしては素早すぎる反応だ。
渚には第六感以上の何かが備わっている、これが志村の見解であった。
「渚ちゃん、次があるっ! 」
手を振って、歓声に応えた。
ボールはセレソンのものになった。渚も守備をすることになった。次の自軍の
攻撃のためにフィールド中央まで戻る。
セレソンは、素早いパス回しでシーサーズの中盤に右へ左へと揺さぶりをかけ
て危険地帯に素早く入り込もうとする。
背番号3の玉城が目線で指示を出し、最終ラインを上げようとした。
しかしセレソンの指令塔のレオナルドは、主審が気づかない程の瞬発力でオフ
サイドトラップを軽く破ってみせたのである。
「楠木ぃ、レオにくっつけ! 」と誠。
しかし、誠の声が楠木に聞こえるわけがない。
センターバックの背番号5、楠木の背後をついて、ペナルティエリアの右へス
ルーパス。
慌てて失点を回避しようとするが、とっくにセレソンの9番エルジーニョはペ
ナルティエリアの右端へと攻め込んでいる。
フェイント一つであっさりとゴールを決めた。
ピィィィィッ!
観客からため息が漏れ、鳩が豆鉄砲食らったような面を皆している。志村の表
情もその中の一つであった。
「くそっ! 」
背番号1が地面を叩く。
ゴールキーパー佐川は一歩も動けなかった。佐川の腋の下を通り抜けていった
ファインゴールであった。技有りの一撃である。
エルジーニョのゴールでセレソンが先制した。
「やられたなぁ」
渚は苦笑いしている。
それにしても、今日のセレソンは闘志満々のように志村には見えた。シーサー
ズに半年ぶり帰ってきた背番号10に対する、これは戦列復帰のお祝いであった。
しかし開始1分でのこのゴールは、土産にしちゃあ手厳し過ぎる。
「速い展開だ」
志村が唸る。確かにJリーグよりは試合のテンポが速いし、そしてパス回しは
正確であったし。
エルジーニョが誠の目の前を通り過ぎていく。ニヤリと白い歯を見せつける。
「へっ、調子ノリやがって」
10番は、口を固く結んでセンターサークルへと向かった。
挑発の一発は、誠の闘志をたぎらせるには十分な揮発油となったようだ。佐川
から奪い取ったボールを懐に抱え、センターサークルの真ん中に叩きつけた。
「すぐに追いついてやる」