AWC JETBOY第2話(5)


        
#2719/5495 長編
★タイトル (EXM     )  94/ 7/31   9:40  ( 62)
JETBOY第2話(5)
★内容
                                   5
 「渚、ようやく体が仕上がった」
  ふわりと髪が風に靡いた。
 褐色の肌を身にまとったその体が、ブルーのグラデーションとオレンジのユニ
フォームを風になびかせて現れた。褐色の体は細いながらも鍛え上げられた筋肉
を実らせ、太股は、これに関してはシーサーズの他の連中よりも立派なものを蓄
えていた。
 このチームの背番号10が現れた。背中の英文字は『MAKOTO』と書かれ
ている。
 「誠、おかえり」
 渚が待望していた顔だ。井上姉妹が、グラウンドの上では久々の再会を果たし
たのである。
 しかし、渚以外のイレブンが誠の事を歓迎していたというと、決してそうでは
なかったのだが。
 「誠が帰ってきたら、攻撃に幅が出来るね」
 「そうだな」と周囲を見回して「確かに、渚ひとりじゃセレソンに勝てるわけ
がねぇ。こいつらみたいな動きの鈍いボンクラが仲間じゃ渚も苦労しただろうな」
 この言いぐさであった。他のイレブンの顔が険しくなる。
 「誠ぉ、半年たっても態度だけは変わってない! みんなに何処の不満がある
の」渚は猛反発した。「みんな真面目にやってんじゃない」
 誠は確かに口が悪い。しかしその言葉は純粋に真実であった。
 「実際にこいつらだけじゃ、サンパウロ州のユースに勝てるわけがない」
  イレブンの顔を見渡した。
 「セレソンのお陰で日本ではシーサーズにかなうチームはないとは思うけど、
南米のユースってもんはそんなもんじゃない。お前らがいってもあしらわれるだ
けだって。渚だってスペインに半年留学したから、シーサーズと西欧のクラブの
差ってわかるだろ」
 「そんなことはない!」
 渚が誠に詰め寄った。
 「渚ちゃん、喧嘩したら駄目だ!」
 国頭伸吾が渚を制した。国頭の背番号は6、このチームの中盤の守りの要であ
る。
 「俺たちはまだ実力無いかもしれん。けど、今日までの話だ」
 国頭は誠のことを見下ろして、今日の練習試合の方針を実に明確に言い切った。
 「10番がいなくても、俺たちは勝てる。10番に頼らずに勝とう」
 渚以外の他のイレブンの意思もそんなところだ。
 「言ったもんだねぇ」
 誠は国頭の言葉を鼻で笑った。「ま、どうせアタシは、一人でボールを奪って
一人で点を入れる奴だからいいけどね」
 それよりも次の台詞、これにはこのチームの課題らしきものが含まれていた。
 「渚無しで、勝てるの? あんた等」
 いっぺんにシーサーズイレブンの空気が重苦しくなった。
 渚が誠の事を睨んでいる。誠は平然としたものだ。
 渚抜きで勝てるか、それは答えられない質問であった。しかし、実際に渚抜き
で勝てるのか。それは、セレソンという対戦相手の事を考えた時、不幸な結果を
招くことしか考えられない厄介な課題であった。
 シーサーズは、渚の為のチームだ。ジュニアユースの金城英夫はそう思ってい
る。
 「さて、ぼちぼち試合を始めよう」
 誠は、センターラインの向こうにいる、『セレソン』のイレブンの方に視線を
やった。
 「ちょろいさ」
 純白のユニフォームに身を包んだ、『セレソン』のイレブン達。その顔触れは
ホワイトからブラックまで多種多様な人種によって構成されていた。
 『セレソン』も、誠に対して敵意の瞳を向けていた。
 しかしこれも、身内のイレブンに対する態度と同じである。
  「アタシは、負ける気がしない」
 サンパウロ州で史上初の女性リーガ、井上誠の言葉には堂々としたものがあっ
た。「アタシは、お前らよりも凄い奴と闘って来たんだ」
 褐色の肌の漆黒の瞳は既に敵を呑み込んでいた。
 校舎の鐘が鳴り響いた。午後五時の沖縄の空は赤く染まりつつある。





前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 たっちゃんの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE