AWC JETBOY第2話(7)


        
#2721/5495 長編
★タイトル (EXM     )  94/ 7/31   9:46  ( 83)
JETBOY第2話(7)
★内容

                                  7
 笛が鳴った。
 今度は自ら誠がボールを持って、セレソンゴールへと立ち向かっていった。
 しかし、渚のようにいきなりオーバーザトップの状態に持っていくわけではな
く、ゆっくりとボールを運んでいく。
 誠は右側からじりじりと迫っている。何故か? これは、前線が上がるのを待っ
て、パスを出す人数を確保するためである。
 だが、当然のことながら、亀の歩みのようにゆったりと歩を進める指令塔に長
い時間遊んでもらう親心なんてセレソンには無い。二人のミッドフィルダーと一
人のフォワードが激しく誠を追い詰めてサンドイッチ状態にしようと誠の空間を
詰めにかかった。
 「マコトーー! 」
 あっと言う間に誠は囲まれた。苦し紛れにパスを出したとしても、そのコース
には二人のディフェンダーが即時速攻に移ろうと、ボールを拾う為に待っている。
 誠に関しては、壁をすり抜けるための扉は固くかつ隙間無く閉ざされている。
 しかし、誠はニヤリと笑うだけである。
 誠には、自分なりのやり方というものがあった。
 三人のセレソンが誠の全身を襲う。
 「いてててっ、ファールじゃねぇか」
 激しいボールの争奪戦だ。セレソンのディフェンダーの一人は誠の視界を奪う
が如く激しく肩からブチかましをかけ、ヒジで上半身を痛めつける。足首を狙っ
たり、袖をつかんだりとリンチ紛いの姑息な高等技術のフルコースだ。
 「げげっ、エゲつない! 」
 志村の視点からはこの模様がよく見える。多勢に無勢を絵に描いたようなもの
だ。
 「このやろ! このやろ!」
 セレソンの強奪劇は明らかに反則だ。しかし主審は何故か笛を吹かない。
 セレソン三人と誠の戦いは20秒を超えてもまだ続く。しかし誠の頭の中には、
ここを突破することしかない。
 誠の、能力の見せ所である。
 奪いあいが膠着状態になりつつあったその時だ。
 「クニガシラーー! 」
 二人の選手が突如バランスを崩した。
 この野郎!
 そしてその直後、誠の体が、セレソンの包囲網を突破した。いや、こじ開けた。
 シーサーズの猛攻の予感に拳を握り、声をあげる観客達。歓声が夕空に響きわ
たる。
 少し誠はドリブルし、そして、右から左前方へとロングパスを出した。
 シュート同然の激しい弾道がフィールドを交差する。
 実に正確だ。
 五分刈りのミッドフィルダー国頭がノーマークで誠のロングパスを受取り速攻
に転じた。
 左の敵陣でパスを二三回し、ディフェンダーを翻弄する。
 そして最後は、彼女の出番だ。
 背番号8の今帰仁からのラストパスはセレソン守備陣の真裏へと飛んだ。
 ここに放り込めば渚が何とかしてくれる、
 そう思ったからだ。そしてその通り、右サイドから背番号11の渚の姿が現れた。
 セレソンの最終ラインが慌てて渚の方へと襲いかかる。
 しかし渚は、今度こそ決める腹積もりであった。
 ゴール右隅だ・・・・・・
 今帰仁のパスを左足で、足元で整えること無く言われるままに蹴り込んだ。
 「行け!」と誠の叫び!
 ゴール前に急遽集まった何人もの壁が渚のシュートを阻む。しかし、シュート
回転の掛かった弾道は、ゴールキーパーが反応する暇を与えない。
 ボールは、空間を見いだして、行くべき道へと走っていく。
 揺れた。
 ピィィィィィィィィィィィィッ!
 審判が長い笛を鳴らした。
 渚の一撃は、そのまま飛び込んで、ゴール右隅のネットを激しく揺らしたので
あった。
 「やったぁっ! 」
 飛び上がって拳を真上に突きつけたその渚の姿は、真っ赤な夕焼け空を背景に、
ふらり空を舞う天の羽衣のようであった。
 「やったぜ! 渚ちゃん」
 志村の喜びの声だ。姫百合学園のサポーターと化した生徒たちもこのゴールに
喜びの声をあげる。
 「もう一点行こう! 」
 シーサーズの選手が肩を叩いたり、手を握ったりして祝福する。
 このシュート、渚の技有りだ。志村は何度も矢島と握手を交わした。
 しかし影の主役は一人、センターラインでじっと歓喜の光景を眺めていた。
 直接的に三人、間接的に引きつけたセレソンの選手は合わせて五人。誠の献身
的な遅攻がそのあとのセレソンの守りを薄くし、渚のゴールへとつなげたのであ
る。
 先程、誠を囲んで執拗な攻撃を加えていたセレソンの三人のうちの二人、彼ら
は誠の報復を受けたのだろう。一人は腹部を抱え、もう一人はアキレス腱の部分
を摩ってその部分を気づかっていた。
 彼らに負けず劣らず、誠も裏技に長けていた。好ましいことではないが、誠は、
こういう仕事が出来ることにおいては希有な選手であった。
 仕事人ってもんは、どの国に行っても評価されんもんだ・・・・・・  。
 背番号10は空を見上げて、次の仕事の為に風向きを確かめている。
 四基の照明塔に灯が入った。次第に藍色へと空の色が移り変わっていく時刻で
あった。




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