AWC 少年少女読物「あらら三人組、なぞを解く」(1) 浮雲


        
#3086/3137 空中分解2
★タイトル (AVJ     )  93/ 4/ 7   5:53  (176)
少年少女読物「あらら三人組、なぞを解く」(1) 浮雲
★内容

 学活が終わり、相変わらずの騒ぎの中で帰り支度をしている道枝のところに、
浩子とユキ子が寄ってきた。
「ねえ、道枝。これなんだかわかる」
 浩子が、道枝の机の上に紙きれを広げた。それには、なにやら文字がいっぱい
に書かれてあった。
「えっ」
 道枝は、思わず手にとると、にらみつけるようにじっと見つめた。眼鏡の奥の
小さな眼を鋭く光らせると、うんうんという具合いにうなづいた。浩子とユキ子
は、道枝の反応に「ねっ」というように顔を見合わせた。
「どうしたの、これ」
 紙きれから眼も放さずに道枝が聞いた。
「それがね」
 浩子の話を手短にまとめるとこうだ。
 浩子の親戚に、若い頃弁護士をしていていまは興信所(いわゆる私立探偵)を
構えている明地大五郎という叔父さんがいる。その明地が海外旅行に出かけた留
守に、ある大企業から事件に関わる調査依頼があった。「お礼はいくらでもしま
す」という依頼人の話に、留守をあずかっている大林という青年が、明地に喜ん
でもらおうとばかりに、その依頼を引き受けてしまったのであった。
 ところが、仕事を進めていくうちに、大きな壁にぶつかってしまった。他の調
査がどんどん進んでいくのに、たった一つだけの問題のために大きなもうけを逃
がすことになりそうであった。
 困り果てた大林は、よく事務所に顔を出しては、推理小説に出て来る私立探偵
まがいの奇想天外なアイデアを出して、みんなを驚かせる浩子のことを思いだし
たのである。
「というわけで、明地叔父さんの探偵社からなんとか知恵を貸してくれって頼ま
れたのよ」
「でも、そんな大金がからんでいる話ならきっと何か秘密のことだろうに、いい
のかしら外部の人間に相談など持ちかけてきたりして」
 道枝が当然の疑問を口にした。
「そこよ、わたしもヤバイ筋の話じゃないかな、と思ったんだけど、だからおも
しろいんじゃん」
 ユキ子が、あたりを窺うように声をひそめた。浩子も、つられるように、道枝
の耳元に口を寄せた。
「子どもだから、その辺は心配いらないと思ってるんじゃない。それにね、もし
役に立つ知恵を貸してくれたら何かお礼をするって」
「そこよ」
 ユキ子が、あたりかまわず大声を上げた。
「しっ、ユキちゃん」
 浩子がしかめっ面をしてみせた。
「へ、まじい」
「いいわ。プロに解らないものが中一のわたしたちに分かるかどうかだけど・・
・。家にこない」
 道枝は、もう立ち上がっていた。

「はい、これ」
 道枝が、大林が書き写してくれた例の紙きれをFAX付き電話でコピ−してき
て、浩子とユキ子に渡した。
「じゃあ、もう少し詳しく話して」
 道枝が浩子を促した。
「うん。ここに書いてある言葉の中に、ある数字が一つ隠されていて、それが今
度の調査にとってとても大事なものなんですって」
「うん、キイワ−ドね」
 道枝が合点した。
「で、浩子はなんだと思うの、これ」
 道枝が、眼鏡の奥の小さな眼をいっそう細めながら聞いた。
「う−ん、たぶんだけど、暗号だと思うの」
「ユキちゃんは」
「わかんない」
 ユキ子は、紙きれを縦にしたり透かしたりしてみたが、少しも見当がつかなか
った。
 それには、次のようなことが横書きで書かれてあった。

  開くとバア   呑んべえバア  で千円パア
  じゃあ2割   へえ、ぶらり  まあ、血
  えいっぷり   姪       順
  従来      王がスト    接吻てば

「なんだろう」
 ユキ子が他人事のようにつぶやいた。ユキ子が鈍いのではない。誰が見たって
なんのことだか、見当がつかなくてあたりまえである。どうしたら、この「暗号
」を解読し、ある一つの数字を見つけることができるのであろうか。
「縦に三列、横に四行ならんでいる、というのは関係ないかしら」
 浩子がまず口火を切った。
「そこよ。ね、だから3掛ける4で12、というのはどう」
 ユキ子だ。
「それって単純過ぎない」
 浩子が、道枝の顔をうかがった。
「もうちょっと手がこんでいるようよ」
 道枝はどうやら見当がついているようである。


   3
「ねえ、ユキちゃん。これを横の方に順番に読んでみて」
 道枝は何か含みのあるような顔をして、浩子とユキ子の顔を交互に見比べなが
ら言った。
「あいよ」
 ユキ子は、言われるままに一行目の文字を左から右に読んだ。
「だめよ、ユキちゃん。声を出さなきゃ」
「あっ、そうか」
 ユキ子は、読めと言われたので、反射的に黙読してしまったのだった。
「じゃあ、読むね。
   あくとばあ  のんべえばあ  でせんえんぱあ
   じゃあにわり へえぶらり   まあちい
   えいっぷり  めい      じゅん
   じゅうらい  おおがすと   せっぷんてば  」
「浩子、どう。なにか気がついた」
「ううん、ぜんぜん」
「ユキちゃんは読んでいて、どう」
「うん、宇都宮ってとこかな」
「なにそれ」
「いまいちのずっと手前」
「なに言ってんのよ、ユキちゃんは」
 それでも、道枝は怒った様子も見せずに、ボ−ルペンを浩子の前に置いた。
「わたしが読むから、聞こえた通りに書いてみて。ああ、カタカナでね。それじ
ゃ。
   あくとおばあ、のんべえばあ、・・・」
 浩子が書き終えたものを、ユキ子がうさん臭そうにのぞきこんだ。

   アクトォバア  ノンベエバア  デセンエンパア
   ジャァニワリィ ヘエブラリイ  マアチ
   エイップリ   メイ      ジュン
   ジュライ    オウガスト   セップンテバア

   4
「あっ」
 とつぜん、浩子が声をあげた。
「わかった。そうか、そうだったんだ」
「でしょ」
 道枝がメガネの奥の眼を細めた。
「うん、うん」
「なにがよ。わたしにはさっぱりだ」
 道枝と浩子の会話に、ユキ子は一人おいてけぼりを喰わされた格好だ。
「じゃぁ、ちょっと並べ変えてみるね」

   ジャァニワリィ ヘエブラリィ  マアチ
   エイップリ   メイ      ジュン
   ジュライ    オウガスト   セップンテバア
   アクトオバア  ノンベエバア  デセンエンパア

「どう、わかったでしょう」
 道枝はどこまでも辛抱強い。
「う−ん、わかったようで、わかんないようで。アイホトンドノウ」
「それよ、ユキちゃん」
 浩子が大声を上げた。
「えっ」
 ユキ子はポケ−とした顔をしている。
 だめだこりゃ、そんなことばが浩子の口元あたりをうろうろしていたに違いな
い。
「ねえ、ユキちゃん。1月から12月までを英語で言ってみて」
 道枝は、攻め手を変えてみた。
「だめだめ。このあいだのテストでだって、三つしか書けなかったもの」
 そんなことを悪びれもせずに言って、ユキ子は大声で笑った。
 浩子が道枝に向かって、肩をすくめて見せた。
「じゃあ、わたしが1月から12月までを英語で言うから、ユキちゃんはそれを
見ながらよく聞いていて、いいわね」
 道枝の口ぶりは、幼児をなだめすかすようだった。
「あん」
「ええと、ジャニワリィ、フェブラリィ、マ−チ、・・・」
「どう、ユキちゃん」
 浩子がユキ小の顔をのぞきこんだ。
「むむ」
「ええ、3月は、と・・・マ−チ、エイプリル、メイ、・・・」
 そのとき、ユキ子の耳がピクピク動いたのを道枝は見逃さなかった。道枝は、
思わず口を閉じた。浩子も釣られて息をのんだ。
「あんれ、よく似ているね」
 ユキ子が、他人ごとのようにのんびりとした調子で言った。
「それなのよ」
 浩子は、うずうずしてたまらないようだった。
「これって、1月、2月、3月ってわけなんだ。なんだそうか。なあんだ。あ
あ、よかった。ひっひひひ。これでなんかもらえんね。ねえ、浩子」
 道枝と浩子は、あんまりのことに顔を見合わせたまましばらく言葉を失って
いた。
「ユキちゃん、勝負はこれからよ。暗号の正体が1月から12月のことだとい
うのはわかったけど、やっと糸口を見つけただけよ」
 道枝はそう言いながら、数字を書いた紙を浩子とユキ子の前に広げた。

   10  11  12
    1   2   3
    4   5   6
    7   8   9

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                          −つづく−
4/5





前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 浮雲の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE