#3084/3137 空中分解2
★タイトル (HQM ) 93/ 4/ 6 17:52 (117)
本を読む女 4
★内容
僕自身も消えかかっていたのだ
足元が消えかかっている
さらに、少しずつ少しずつ
膝が消えていく
腿が消えていく
下半身が完全に消えた
どういうことなんだ
胴が消える
いったいどうなってしまうんだ
手が消える
このまま、消えてなくなってしまうのか?
首が消える
いやだ、やめてくれ一一一
顔が・・・
まぶしい
とてもとてもまぶしい
僕は両手で目を覆いながら
ゆっくりと目を開ける
徐々に徐々に
周囲の明るさに目がなじんでいく
目元から手を離し
ゆっくりと周囲を見回す
全く見慣れない光景だ
住宅街の一角にいたはずだったのに
まるでおとぎの国にでも来ているように
まばゆい光を発する大きなシャボン玉のようなものが
あたり一面に浮かんでいる
ここはどこ・・・
まさか・・・死後の世界
誰か、誰かいる
彼女だ
彼女が立っている
そうだ、ここは彼女の世界なんだ
消えてしまった彼女が
帰ってくる世界なんだ
来れたんだ
そうだ来れたんだ一一一
彼女の世界に
彼女が住む世界に
とうとう来ることができたんだ
微笑んでいる
彼女はあの素敵な笑みを
そのまま残してくれていた
素敵な笑みを
僕に向けてくれているんだ
僕のために微笑んでくれているんだ
一歩、二歩
彼女に近づく
そして、そっと彼女の肩に手をかける
さわれた・・・
ちゃんと手応えがある
彼女の顔に
自分を顔を近づける
彼女の笑みが消えた
彼女はゆっくりと目を瞑る
僕はそっと
彼女の唇を奪った
彼女はひとりぼっちだった
彼女はとてもさびしかった
さびしさを紛らわすために
本を読む必要があった
でも、それでも
さびしさを消し去ることはできなかった
それゆえ彼女は
時空をのりこえ
他の世界に出現してしまっていた
友を求める強い思いが
彼女自身も知らないうちに
己を他の世界へと運んでしまっていた
そんな彼女の存在に気付いた僕というのも
彼女同様、さびしさでいっぱいだったからかもしれない
しかし今の彼女は
さびしさを感じることがなくなっている
それは僕も同じだった・・・
今二人は
ガラスのような透明のソファに
身を寄せあって座っている
しっかりと手を握りしめ
そして、見つめあっている
もう彼女は
本を読む必要がなくなった
同時に、他の世界に出現する必要もなくなった
そして僕も
元の世界に戻る必要は
少しもない
おわり
初掲載です。感想などをいただけると嬉しい限りです。
モカ