AWC 本を読む女    1


        
#3074/3137 空中分解2
★タイトル (HQM     )  93/ 4/ 6  17:21  (148)
本を読む女    1
★内容


 寒い朝
 出勤途上の駅までの道のり
 期待を込めて歩いていた

 いた
 今日もいた
 路地の隅で
 じっと立ちつくして
 本を読んでいる
 あのひとが・・・

 昨日も
 一昨日も
 その前の日も
 どのくらい前からだろう
 はっきりとは思い出せない
 せわしなく早足に過ぎ去る人たちを
 少しも気にとめることなく
 じっとじっと
 本を読んでいる

 彼女の側を通り過ぎる時
 それとなく
 彼女の様子を横目で伺う
 いつもと同じだ
 両手で本をささえ
 顔を少し傾け
 興味深そうに読んでいる

 はっきり確認することはできないが
 その表情は
 清楚で
 気品に溢れている
 痩身
 中背
 腰まで届きそうなくらいの長い髪
 決して派手ではなく
 センスのよさがきらりと光る服装

 彼女と僕との間が
 どんどん広がっていく
 振り返って見てみたい
 いや、立ち止まって
 ずっと見続けていたいぐらいだ・・・

 誰かを待っているのだろうか
 誰かと落ち合う約束でもしているのだろうか
 素敵な男性が車にでも乗って
 迎えに来るということなのだろうか


 あくる日の朝
 今日も期待を込めて家を出た
 いた
 彼女がいた

 いつもの場所で
 いつものように
 本を読んでいる
 いつものように
 気品さを感じさせながら
 いつものように
 神秘さを感じさせながら

 彼女の側を通り過ぎる者たちは
 いつものように
 誰一人として
 彼女に関心を寄せていないように見える
 どうしてなんだろう
 みな自分のことで精一杯だから?
 今日一日に課せられた重荷のことで
 頭がいっぱいだから?

 いつまであそこに立っているのだろう
 いつまで本を読んでいるのだろう
 迎えの者は
 本当に来るのだろうか
 確かめてみたい
 確認してみたい
 けど・・・

 彼女との距離が広がっていく
 疑問はふくらむばかり
 何ひとつ確認できないまま
 今日も
 彼女との出会いは終わってしまった


 次の日の朝
 いつもの場所で
 いつものように
 本を読んでいる彼女
 僕は決めていた
 今日だけは会社に遅れてもいいから
 確かめてみることを・・・
 彼女がいつまでここにいるのか
 どんな人と待ち合わせているのか

 少し離れたところから
 それとなく様子を伺う
 10分
 20分
 30分
 彼女に変化はない

 10分
 20分
 30分
 相変わらず本を読み続ける彼女

 おかしい
 一時間以上もあんなところで
 立ち通しで本を読んでいるなんて・・・
 どういうつもりなのだろう
 落ち合う人なんていないのだろうか?
 もう少しねばってみるべきだろうか

 10分
 20分
 30分
 一時間半がたった
 駅へ向かう人もまばらになってきた
 依然として彼女は
 熱心に本を読んでいる

 おかしい
 絶対におかしい
 どういうつもりなのだろう
 ずっと立ちっぱなしなのだ
 相当疲れているはずだ
 現に僕がそうだ
 何を考えているんだろう
 側に行って事情を聞いてみようか?

 うっ一一一
 な、なんてことだ
 き、消えた・・・
 そうだ、間違いない
 突然消えてしまった
 今の今までそこにいたというのに
 突然一一一
 まるで幽霊のように
 彼女は消えてしまった・・・
                             つづく

..




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