#3073/3137 空中分解2
★タイトル (HBJ ) 93/ 4/ 6 17:20 ( 25)
『気分次第で責めないで』10−2<コウ
★内容
スキーの締具の加工してもらっている間に、俺と妹は、アルペンの近所の、デニー
ズで、コーヒーを飲んでいた。妹は、家では吸わないタバコを吸っている。長い睫
に、水色の粉をつけている。口紅は白だ。バリウム検査をしてきたみたいだ。妹は
、満足気に煙を吐いた。
「俺は、気に入らない」と俺が言った。
「何が?」
「あんなに、いとも簡単に値引きをしてくれるならば、言いようによっては、もっ
と負けてくれたんじゃないのか?」
「あれは、店員が、下手なんだよ」と妹が言った。「どの店員にも、ここまでは負
けてもいいというラインを与えられていて、なるべく負けないのが良い店員なのよ
。あの店員は、下手糞で、簡単に負けちゃったんだよ」
「俺は絶対に気に入らない」
「じゃあ、お兄ちゃんは、いくらだったらよかったの?」
「それは、65000円の積もりだったけれども」
「だったら満足でしょ」
「満足だって?」俺は、びっくりした。
「だって、お兄ちゃんの思惑以上に値引きをしてもらったんだから」
「満足なんかじゃない。65000が60000だろうと、気に入らない。やりよ
うによったらもっと上手く行くと思うと、我慢出来ない」
「何、大きな声を出しているのよ」
「満足なんかじゃない」俺は怒鳴った。「俺は絶対に満足なんてしてない」
満足だろう、なんて、言われてたまるか。公害裁判で全面勝訴した患者が、水銀を
垂れ流した企業の人間に、これで満足だろう!と言われた時の心境だ。
こめかみのあたりで、プチッと何かが切れる音がした。