AWC 邪狩教団 第2話 炎の召喚 第6章    リーベルG


        
#2830/3137 空中分解2
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邪狩教団 第2話 炎の召喚 第6章    リーベルG
★内容
                   6

 2時間以上が経過した。玲子とカインはそれぞれ30匹以上を倒したが、同時に同
じ数の攻撃パターンを相手に盗まれていた。1匹倒すごとに、より多くの時間がかか
り、反撃の数も増えている。当然、疲労も増す。
 疲労が重なっては訓練にならんからな、とツオ・ルが一時休憩を宣言した。それほ
ど極端に身体が疲れているわけではないが、玲子は座り込んだ。むしろ、精神的な負
担の方が大きかった。
 「プロレスラーや拳法家じゃあるまいし、そんなに攻撃の型がたくさんあってたま
りますかってのよ」荒々しく毒づいてみても、空しいだけだった。
 「ぼくはあと、20や30くらいは剣の型を知ってるが」さしものカインも焦燥を
隠せないようだった。「奴らはまだ、200匹以上いる」
 「しかも、戦えば戦うほど、強く、速く、狡猾になっていくんだから手に負えない
わね」玲子はいまいましげに吐き捨てて、キオ・ルと何かを話しているツオ・ルをに
らんだ。「いちかばちか、ツオ・ルとキオ・ルを攻撃して、子供を救い出すというの
はどうかしら」
 「それができればとっくにそうしているよ」カインは周りを埋めつくしているアス
ラの群れを見回した。「少しでも、奴らを攻撃する素振りでも見せようものなら、た
ちまち全部のアスラが飛びかかってくるに決まってる。そうなったら勝ち目はない。
ぼくの剣でも、同時に斬り倒せるのはせいぜい10匹くらいだ。君はもっと少ないだ
ろう?ハミングバード」
 玲子は腹を立てる気にもなれなかった。
 「今、必要なのは援軍だ」カインは続けた。「何とか外に連絡しなければ」
 「通信機は上にあるし、この別荘は電波を遮断するんでしょう」
 しかし、玲子は不意に考え込んだ。
 カインがさりげなく、手を触れてきた。
 −どちらかが、奴らを足止めしている間に、片方が外に脱出すればどうだろう。
 −通信機は多分、あの部屋に転がったままよね。それを拾って、一歩でも外に出ら
れれば。
 −下りてきた階段を戻るしかないな。問題はこの厚い石の扉を開ける方法だが。
 −焼夷カプセルをもってるわ。ひとつだけだけど。うまく、場所を選べば開閉機構
を溶かせるかも知れない。
 −子供はどうする?
 −もちろん、助けるわよ。考えがあるの。
 ツオ・ルの大声が、二人の声なき会話を遮って響いた。
 「そろそろ、試合再開といこうか、戦士たち?」
 玲子は進み出ると、唇を嘲笑の形にゆがめて、言った。
 「まだるっこしいわね。こんな間抜けな化け物たちじゃあ、交番のお巡りさんが一
人いれば、皆殺しにできるわよ。時間の無駄ね。1対2でやりましょうよ。ちょうど
いいハンデだわ」
 ツオ・ルは探るようにじろじろと、玲子とカインを見ていたが、やがて愉快そうに
笑いだした。
 「大した自信だな、え?お嬢さん。早く数を減らそうとしているなら、無駄だとい
っておくぞ。だが、まあいい。希望通り、1対2でゲームを続けようか。いずれそう
しようと思っていた」
 ツオ・ルは指を2回鳴らした。2匹のアスラが、ステージに下りた。
 玲子はメダリオンを、軽くつまむように持った。現代の冶金学では決して造り出す
ことができない金属は、30匹以上の邪悪な血を吸っている。別に敵に対する効果が
薄れるわけではないが、何となく気分が悪くなるのは否定できない。
 1対2のパターンはアスラたちにとっても、未経験である。格闘戦において、1対
複数という状況が、必ずしも複数の側に有利だとは限らない。よほど、密接に連携が
とれていないかぎり、互角あるいは不利にもなりかねない。それは訓練によって獲得
しなければならないものである。
 それがわかっているのか、いないのか、アスラたちは適当な距離をおいて玲子を見
つめていたが、左にいたアスラがいきなり飛びかかってきた。それにつられたように、
右のアスラも半歩遅れて跳躍する。
 意外なことに、玲子は2匹に背を向けた。鋭く跳躍すると、空中で焼夷カプセルを
取り出した。玲子のプラーナにのみ反応して、瞬間的に数千度の高熱で発火する、小
型の武器である。自分が降りてきた石の扉の前に降り立つと、素早く信管を作動させ
て、扉の駆動機構があるとおぼしきあたりに叩きつけ、カインに叫んだ。
 「目!」
 扉の表面に白熱の光球が生まれた。直視すれば、水晶体に焼き付きが生じるだろう。
カインは玲子の警告を理解して、顔をそむけている。しかし、玲子を追ってきた2匹
のアスラは、顔を鈎爪の生えた手で覆って、ぞっとするようなうなりをあげている。
 玲子は素早く駆け寄った。気配を感じたのか、アスラたちはやみくもに腕を振り回
している。それをかいくぐると、相手の懐に風のようにもぐりこんだ。そして、敵の
強靭な筋肉に覆われた太い腕を握ると、体をひねって投げ飛ばした。柔道の一本背負
いの要領である。柔道の専門家が見れば、型もタイミングもとても及第点には達しな
いものだっただろう。しかし、そのスピードには驚嘆したに違いない。
 アスラの身体は驚くほど長い距離を飛び、計算された正確さで、唖然としているツ
オ・ルに向かった。さすがに意表をつかれたツオ・ルは、それでも一瞬後には冷静に
コルトパイソンを抜くと連射した。強力な357マグナム弾は、貫通こそしなかった
ものの、アスラの身体に圧倒的なエネルギーをぶつけた。急速に運動エネルギーを減
殺された肉体は、ツオ・ルの前の壁に激突したが、その直前、アスラの身体が二つに
分裂し、何かが鳥のように空中に躍りでた。
 それが、まぎれもなく玲子であるのを知ったツオ・ルは、驚愕の咆哮を上げた。玲
子は、すでにメダリオンを両手から放っていた。再びコルトパイソンのトリガーが絞
られた。メダリオンは一瞬後にはただの金属の塊となって、遠くへ飛ばされた。しか
し、キオ・ルの方は、子供を抱えていたこともあり、それを避けることができなかっ
た。メダリオンは、邪狩教団のスワンのものであった額に食い込んだ。
 人間の声帯からは絶対に出せないような、呪詛に満ちた絶叫があらゆる音声を圧し
て、アリーナに満ちた。玲子のつま先がきれいな弧を描いて、キオ・ルの喉にたたき
こまれた。キオ・ルの腕の力が弱まり、玲子は易々と子供を奪い取った。
 キオ・ルの頭部はすでに、沸騰したようにぶくぶくと泡をたてて、熔け始めていた。
地上の肉体に宿っていた<従者>は、必死で宿主の身体の崩壊を防ごうとしていたが、
もはや手遅れだった。人知を越えた強力な力が、呪われた肉体を引き裂き、本体を攻
撃しているのだ。瞬間的にすさまじい瘴気を発しながら、その邪力は急速に消滅して
いった。
 もちろん、玲子はそれを見届けてなどいなかった。子供を大切に抱えると、カイン
の方へ走った。アスラたちは一時的にうろたえて右往左往しているが、ツオ・ルが命
令を発した途端に、一斉に襲いかかってくるだろう。
 石の扉は、玲子の焼夷カプセルによって、半ば以上溶解していた。カインは開いた
穴に手を突っ込んで探っていたが、すぐに中の何かをへし折った。ガチャリと小さな
音が鳴り、石の扉全体が数ミリ動いた。カインは隙間に指を入れると、華奢な見かけ
からは、想像もできないほどの力で、重い扉をこじ開け始めた。
 「ングルウンル!イグルウンル、ゲフルング!」玲子が、扉と格闘しているカイン
のもとに着いたとき、ツオ・ルが叫んだ。その命令を耳にしたアスラたちは、先を争
ってアリーナに飛び降りると、玲子達に向かってきた。カインは、それを聞くと扉と
の力比べを放棄して、素早く剣を抜き放つと、玲子の前に立ちふさがった。
 「開けてくれ!」一声怒鳴ると、カインは素早く、8音節からなる呪文を唱えた。
そして、剣を斜に構えると、そのまま、凍りついたように静止した。
 殺到してくるアスラの動きが急停止した。何かを恐れるように目をそむける。うな
り声をあげ、牙をむき出しながらも、見えない壁に隔てられているように、ある一定
のラインより踏み込もうとしない。
 玲子は扉の隙間に手をかけて、渾身の力で押し広げ始めていたが、背後から暖かい
波動を感じて振り向いた。それは玲子に背を向けたカインの全身から、ゆるやかに発
していた。ツオ・ルやアスラたちから発する瘴気がドブ川の臭いだとすれば、カイン
の波動は、春の暖かい陽射しの中で咲き誇る花の香りのように、優しく、おだやかな
心にしみとおる匂いだった。
 アスラたちは、その波動を恐れているのではなかった。かつて人間だった時の、記
憶と呼ぶにはあまりにもはかない、魂の奥底にある何かを揺さぶられ、悲しみを誘わ
れているのだった。<旧支配者>の細胞の呪縛と、ツオ・ルの邪力によるコントロー
ルが、一時的にせよ無効になっていた。
 玲子は身体に残っていた疲労が、嘘のように消えていくのを感じた。細胞の隅々ま
で、プラーナがみなぎっているようだ。扉にかけた手に力をこめる。抵抗を示してい
た重い扉も、ようやく人間がひとり通れるぐらいに開いた。玲子はカインを振り返っ
て、息を呑んだ。
 ツオ・ルがコルトパイソンに弾丸をこめなおしたところだった。銃を軽く振って、
シリンダーをおさめると、銃口をカインに向けた。その顔には人間には浮かべようが
ない、邪悪な笑いが浮かんでいた。
 メダリオンが地下の重い空気を切り裂いて飛んだ。
 ツオ・ルが、まさにトリガーを絞ろうとした瞬間、メダリオンがコルトパイソンを
直撃した。それは、357マグナムにも匹敵する破壊力を見せ、シリンダーの前部に
食い込み、精密な機構を完全に破壊してしまった。さらに破片がツオ・ルの手に食い
込み、<従者>は悲鳴に近い咆哮を上げて、リボルバーを投げ捨てた。
 ツオ・ルの手から、煙があがっている。メダリオンの破片にこめられた力が、邪悪
な細胞を侵食し、溶かしているのである。ツオ・ルは左手で手刀をつくると、うなり
声とともに、熔け始めた右手首に叩きつけた。右手の先はすっぱり切断され、どす黒
い血がほとばしった。ツオ・ルは再び咆哮した。本来、自分の肉体ではないのだが、
長い間宿っているために、痛覚を共有してしまったのだろう。
 「貴様ら、もう許さんぞ!」ツオ・ルはわめいた。まがりなりにもかぶっていた紳
士的な仮面は跡形もない。「肉体と魂と両方を残酷な拷問にかけてやるからな」
 <従者>はアスラをかきわけて進み出ると、もの凄い形相でカインに相対した。カ
インが形作っている、一種の力場に踏み込むことはさすがにできなかった。だが、邪
力は相当なものであるらしく、その力場をじりじりと押し戻し始めた。アスラたちも
それにつれて、少しずつカインに対する包囲の輪を縮めていく。
 「カイン、行くわよ」玲子は、床に寝かせてあった子供を抱き上げると、敵をせき
止めている少年に叫んだ。だが、少年は振り向きもしないで答えた。
 「行け、ハミングバード。ここはぼくが食い止めている。早く連絡を」カインの白
い首筋には、うっすらと汗が浮かんでいた。どんな魔術を使っているのか不明だが、
相当、肉体に負担をかけているようだ。だが、カインは不敵な笑みすら浮かべて、2
00匹以上のアスラに、短刀一本で立ち向かい、恐れる色も見せなかった。
 「カイン」玲子はもう一度叫んだが、理性はカインが正しいことを告げていた。カ
インが一瞬でも術を途切れさせれば、たちまちアスラの大群が、二人をずたずたに引
き裂いてしまうだろう。交替することができない以上、玲子が急いで脱出して援軍を
呼ぶしかない。
 「すぐ戻るわ」玲子はカインの背中に言った。
 「早く行くんだ」カインは冷静に答えたが、不意に年齢相応の声で付け加えた。「
姉上に伝えてくれないか。ぼくは…」
 「いやよ」カインの死の覚悟を冷たくはねのけて、玲子はきびすを返した。「言い
たいことがあるなら自分で言うのね」
 暗い階段を登り始めるとき、玲子は涙をふいた。




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