AWC  ぶら下がった眼球 第一章 スティール


        
#2825/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  93/ 2/10  22:56  (112)
 ぶら下がった眼球 第一章 スティール
★内容
         第一章 『記憶』

 宇宙空間の中で、私は、戦闘機に乗っていた。私の乗っている戦闘機は、どうや
ら、すごいスピードで、進んでいるようだ。それを操縦していたのは、紛れもなく
私だった。ふと、コックピットの中から、外を見てみると、廻りには、私のものに、
よく似た戦闘機が、たくさん、飛び交っているのが、見えた。
 突然、私の手元のあたりから、声がした。
『ヘンリー! 危ない! よけろ!』
 という絶叫が、私の耳に響いた。

 と、思った瞬間、私の戦闘機に物凄い衝撃が走った。どうやら、他の戦闘機に追
突されたようだ。私の頭は、前の金属盤に叩きつけられた。
 衝撃で、左の眼球が飛び出した。私の体のあちこちが、ぐしゃぐしゃになってい
た。しかし、左の眼球が飛び出した苦痛が、あまりに大きく、私の、すべての神経
は、左の眼球に集中した。左の眼球は、何かで、ぶら下がっていた。右の眼球で、
それを見ていることに気付くと、私は、その事実に震えた。その長く苦しい感覚は、
時間にすると、ほんの一瞬の出来事だった。それでも、私は、なんとか、戦闘機を
操縦していたようだ。どうやって、操縦していたのかは、よく、わからないが。
 私は、左の眼球の、死ぬほどの痛みに耐えつつ、ぶら下がった、それが、落ちな
いように望み、かつ、願った。それは、ちょっとでも、触れると、落ちそうであっ
た。私は、全身から、汗や血が吹き出しているのを感じていた。まるで、この世の、
すべての恐怖や不安が、私を襲っているようだった。私は、脅えていた、まるで、
親に捨てられた幼い子供のように。無駄だとは、うすうす知りつつも、私は、それ
から、もがいた。そうすれば、何かから、逃れられるように、私は、思ったのだ。
時間の流れは、とても遅く、私の永遠は、外界の一瞬のように思えた。私は、絶叫
しようとしたが、声が出なかった。

 そこで、私の悪夢は終わった。私の目が覚めたのだ。全身が、汗びっしょりになっ
ていた。私の脳裏には、いまの現実の記憶が甦ってきていた。ここは、宇宙旅客機
の中で、私は、地球での会議に招集され、地球に向かっている中途であった。

 それにしても、リアルな夢だった。私は、なんとなくだが、切実な不安にかられ、
トイレに駆け込み、鏡で自分の顔を見てみた。黒い眼に、黒い毛髪、いつものと同
じく、私の顔があった。私は、どこにも持っていきようのないような不安に駆られ、
手で、顔のあたりを撫で廻していた。

 数分後、私は、シートに戻り、3Dビジョンを観ることにした。なぜ、あんな夢
を見たのだろうか? きっと、宇宙旅客機に乗ったせいで、勝手に、体が反応して、
あんな夢を見たに違いないと、私は、そう考えた。

 3Dビジョンの、ひとつのプログラムが終わらぬうちに、旅客機は、定刻どおり
に、宇宙ポートに着いた。ここで、少しの間、待って、私は、地上行きのエアバス
に乗り換えなければならなかった。
 私は、この宇宙ポートで、同じ会議に出る友人と、待ち合わせをしていた。彼と
は、もう長らく、会っていなかった。もっとも、私は、この五年ほど、たった独り
で宇宙を漂っていたのだが。ともかく、私は、彼と行き違いにならないように、眼
を凝らして、ロビーのほうを見た。会議の前に、私は、できれば、彼と情報交換も
したかった。

 到着ゲートを出たところで、彼は、すぐ、見つかった。それは、彼の、黒くバカ
でかい体は、やたらと目立っていたためだろう。彼は、いきなり、私を抱き締めた。
私は、彼の大袈裟な抱擁を恥ずかしく思ったが、彼と同じくらい、懐かしかったの
は、事実であった。念のために、付け加えるが、私は男で、彼との肉体関係は、ま
だ、なかった。きっと、これからもないであろう。

『いやぁ〜! ひさしぶりだな! ヘンリー!』
『まったくだな! モーゼル!』

『何年振りになるかな!』
 彼は、やたらと、声が大きい男だった。
『もう五年になるかな!』

『また、組めるといいがな!』
『ここに居れるなら、なんでもやるさ。ど田舎で、バクテリアの採集なんて、もう、
嫌だ』
『今度の計画を知ってるか?』
『いや、知らない。マル秘だからな、男色以外の男には』

『どうやら、次の計画は、バビロン計画らしいぜ!』
『バビロン計画って、あのバベル博士の、バビロン計画か?』

『そうだ、そのバビロンだ。バベル博士が死んで、十数年か中断されていたが、ま
た、新しく、再開したらしい』
『それで、バベル博士の教え子を、会議という名目で集めたのか』

『招集の目的は、会議じゃなく、人材のスカウトのようだぜ! だが、俺は、あれ
は、まったく、意味のない計画だ!』
『おそらく、他の奴らも、まったく、同じことを言うだろうな』

『あれは、呪われた計画だ、バベル博士も、しくじったぜ!』

 バビロン計画とは、我々の恩師であるバベル博士が、生前に、推進していた人工
人間製造計画であった。人間とまったく同じものを造ろうという計画だったが、し
かし、最初から、最後まで、トラブルが絶えなかった。あの当時から、無意味な計
画との批判が強く、また、結果もよくなかった。人間と同等の能力を持ったコピー
のようなものを創造しようという計画であったが、学会からは『赤ちゃんを造った
ほうが早い』と、皮肉られたりもした。

 もう、ロボットやアンドロイドは、街中に氾濫しており、その状況下で、さらに、
人間を生産しようという考えも、理解されなかった。自然の摂理に反するという批
判や、人権問題などの点から、各種の団体からも、攻撃に晒された。
 我々、バベル博士の教え子も、『人間を超えた、超人類を造ろうというのならわ
かるが、人間と同じものを造るというのは、いったい、どういう目的なのか?』と、
博士に尋ねたのだが、バベル博士は、我々の問いに、とうとう、答えなかった。

 結局、計画で造り出された人間は、ロボット以下の知能しか、持ち得なかった。
造り出された人工人間にとっては、明らかに、不幸な悲劇であり、それと同時に、
計画の完全な失敗を意味していた。これによって、博士の輝かしい業績は色褪せ、
彼の学者生命は、終わったのだった。『不幸な人間を創造する学者』という汚名を
着せられて・・・。
 その後も、バベル博士と、数名のスタッフで、博士の個人的な研究は進められた。
だが、博士の、突然な急死により、計画は頓挫したままで、終わってしまった。博
士の死因は、突然の発狂による、心臓麻痺だった。これも、博士の印象を、一層悪
いものにした。あのころは、博士の死は、実は、自殺によるものではないかと、陰
で、まことしやかに、囁かれたものだった。
 ひところの回想から戻った私の心には、疑問符だけが残っていた。バベル博士の
行動を、疑問に思ったのだ。
『それにしても、なぜ、博士は、あんなことをしたのだろう?』
『さぁな? そう、きっと、例の預言のせいじゃないかな?』

 最近、いろいろな預言が当たっているという風聞が流れていた。バビロン計画の
再開も、そのひとつのように、私には、思えた。




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