#2814/3137 空中分解2
★タイトル (AVJ ) 93/ 2/ 7 6: 0 (160)
児童読物「みじかなものではあるけれど」(1) 浮雲
★内容
*
「じゃあ、あしたまで考えてくるように。いいわね。できたら、からだのことと
か、食べ物のことなど、みじかなもので暮しの中や社会に役立つものについての
くふう、発明、発見などにしたらどうかな」
5年3組の担任のキューリー夫人が、みんなの顔を撫で廻した。
「ちえっ」
ゴジは、小さく舌を打った。考えることが苦手というより、大嫌いだった。第
一、暮しの中で、という意味が分からない。
スルメは、きょうどうしても見たいテレビ番組があったので、キューリー夫人
の気まぐれにどんなに腹が立ったことか。
イヤンは、ただただゴジとスルメが頼りであった。
学校からの帰り道、とうぜんにも、宿題のことが話の中心になった。
「おれ、考えつかないよ、なんも」
ゴジが、道端の石ころを思いっきりけとばした。
「ぼくだって、そうだがね」
スルメが、いつものネチッとした調子で口をひんまげた。
「こ、こまるべした。したこと言われたら」
イヤンが、あわてて口をはさんだ。
「なに甘ったれてんだよ。自分のことは自分でしろよ」
ゴジが、偉そうに言った。
「ちょ、それにしても頭にくんな。おれ、へのことでも考えてやろうかな」
「へ?」
スルメが、顔をしかめた。
「おならだよ」
「へえ」
イヤンである。
「ああ、あ。言うと思ったよ」
「いいから、続き」
「ああ、兄ちゃんがさ、いつだったか、へはガスだからうまくすればエネルギー
になるって言ってたんだ。からだに関係あるし、みじかな話だろ」
「うーん。でも、へがガスってはなしはどうかな。たしかにくさいけど、へのガ
ス中毒って聞いたことないがね」
「それはあれだよ。量が少ないからさ。ちっちゃな部屋かなんかで、大勢でへを
したら、死ぬかもしんないぞ」
ゴジは、ついむきになってしまう。
「うん、賛成。たしかめてみたらいいべした」
イヤンは、本気である。話のはずみ、っていうものが分からないからこまる。
「いつ、どこで、だれが、地球が何回まわったとき」
ゴジがイヤンをにらみつけた。
「し、したから、いまから、ゴジんちで、三人して」
「なんで、おれんちなんだよ。そんなにやりたきゃ、イヤンのとこでやれば」
ゴジは、すっかりむくれている。
「イヤンのとこなら、だれもいないしね」
スルメまでそんなことをいう。たしかに、イヤンの両親は共稼ぎだし、姉さん
もブラバンの部活で帰りが遅い。
「わ、わかったよ。おれんちでいいよ。したども、いいだしっぺはゴジなのにな」
イヤンは、ぐずぐず言いながらも、その口元はだらしなくゆるんでいた。
「いいから、いいから」
ゴジの調子よさといったらない。
*
「まず、元をこさえなくちゃ」
イヤンの家に着くなり、ゴジが目を細めた。
「なんだべした、それ」
イヤンが、まのびした顔をいっそう長くした。
「だから、ばかすかへが出るように、食べるんだよ、いろんなものを。なあ、ス
ルメ」
「あ、ううん」
ゴジはすまして言ったが、笑いそうになるのをこらえているのは、鼻がひくつ
いているのを見てもわかる。
「スルメよ、何がいいと思う」
「そうだね、やっぱり繊維食物かな」
「なんだい、それ。たかがへだぜ」
難しいはなしが嫌でへのことを言い出したというのに、いやんなるなあもう、
ゴジの顔はそう言っていた。
「たとえば、ゴボウとかサツマイモとか、それから・・・」
「へへへ、おれ、知ってるよ」
イヤンがニタつきながら口をはさんだ。
「あのさ、ビタミンブーってんだろ」
そして、きひひひひ、と笑った。
「ああっ」
ゴジとスルメも、あいそ笑いをするつもりが、頬がひきつっただけであった。
「で」
ゴジがあごをしゃくった。
「ぼくも、それぐらいしか分からないよ」
「ふーん。繊維食物ねえ」
ゴジは、大きなため息をついてみせた。イヤンが、心配そうにゴジとスルメの
顔を見比べている。
「チョコレートとかポテトチップはどうだ。ぽてとなんか同じイモの仲間だろ」
ゴジが、ごしごし頭をかいた。
「うん。ポテトチップはいいかも」
すかさず、スルメが答えた。
「イヤン、ポテト、あるかな」
ゴジの声は、どこかよそ行きである。
「し、したら探してみる。サツマイモもか」
「イモはいらねえよ」
「うん」
イヤンが部屋を出ていくと、ゴジとスルメは、どちらからともなく顔を見合わ
せた。
「ぷふっ。スルメよ。チョコレートも、への原料にばっちりだということにしよ
うぜ」
「いいよ。ジュースやくだものもね」
スルメは、ねちっとした目を細めた。
それにしても、氏より育ち、というが、まったくである。もっとも、ゴジとス
ルメの場合は、研究熱心のあまり本性を見失ってしまった、ということかも知れ
ないが。いえ、ホント。
*
「これしかないけど」
イヤンは、ポテトチップ2袋と、かっぱえびせん1袋、ポッキー1箱、そして
あれほどいらないと言ったのにサツマイモを持ってきた。
「へえ、」
ゴジとスルメは、思わず声を上げた。イヤンにしては、ずいぶん気が利くでは
ないか。もっとも、ゴジとスルメは、イヤンがただいやしいだけだとしか考えな
かったが。
「イヤンよ、わがままいって悪いんだけどさ、これ、なに」
ゴジは、生のサツマイモを指さした。
「姉ちゃんが、このあいだ石焼きイモを買ったとき、生だったみたいよあれ、だ
っておならが出てしょうがないもの、とかそんなこと言ってたはんで」
「だから」
「生で食ったら、もっとききめがあっぺかと思って」
「りくつはそうかも知れないけど、生では食えないがね」
さすがに、スルメは頭からやりこめるようなことは言わない。
「じゃあ、あれだ。イヤンがサツマイモを食えば。生の効果もたしかめられるし
さ。一石二鳥つうわけだ」
ゴジが、親切心や研究心からそう言っているのかどうかは、だいぶあやしい。
「じゃ、さっそく」
ゴジは、もうポテトの袋に手をのばしている。スルメも、まけてはいない。ひ
とりイヤンだけが、さて、どうしたものかと、思案顔で生のサツマイモをながめ
ている。
「いいから、イヤンもポテト食えよ」
さすがに気が引けたのか、ゴジがポテトの袋を回してよこした。
「そんでさ、場所はどこにするつもりだよ」
「ここは、ちょっと広すぎるな」
スルメはぐるりと首をめぐらした。
「イヤンよ、どっかいい場所ないのか」
「あ、うん」
イヤンは、ポテトを食べながら、まだサツマイモに気をとられている。皮を剥
いたら食べられるかも知れない、そんなことを考えているのに違いない。
「やっぱり、あそこしかないか」
ゴジには考えがあるらしい。こんなことになると、頭が働く。
「あそこって」
「だからさ、試験なしで私立中合格ってやつだよ」
「なに、それ」
さすがのスルメも、ピンとこない。
「推薦だよ」
「えっ。あ、そうか。わかったよ。でも、ぼくはいやだよ、あそこだけは」
「な、なんだよ。おれさも教えろよ」
イヤンは、ようやくサツマイモから目を離した。
「いいよ、わかんなくても」
ゴジは、いやに冷たい。
「たのむから、教えてけろ」
イヤンは、スルメの方を見やった。それを見て、ゴジがすかさず言った。
「なあ、チョコあるか」
うまい。絶妙のタイミングである。
「あ、あるけど」
そういうと、イヤンはすっと立って、部屋を出て行った。だれも持ってこいと
も言わないのに。
「やっぱり、トイレはいやだよ」
イヤンがいなくなると、スルメが口をとんがらかした。
「なにいってんだい。あそこが一番だよ、実験には」
「それは分かるけど、三人一緒に入るなんてさ」
スルメは、おおいやだとばかりにからだを震わせた。無理もない。
「これだけ食っておいて、いまさらそれはないだろ。イヤンのことを考えてやれ
よ」
それは、スルメの言いたいセリフだった。ゴジの持っているポテトチップの袋
は、ほとんどからっぽであった。
− つづく −
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