AWC 腰の曲がった男 2     永山


        
#2707/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/18   7:49  (199)
腰の曲がった男 2     永山
★内容
「君の演技も大したものだよ!」
 私は、さっきの地天馬の大胆さに驚いてしまった。
「しかし、あんなことして、大丈夫かねぇ」
「少しも僕は、嘘をついていなかったろう? 何もとがめられることはないさ」
 地天馬はうそぶいた。
「ところで、今度の依頼人だが、例の駐車場で変死した学生と、同じサークル
に入っていたよ」
「へえ。何てサークル?」
「正確な名前は忘れたが、心霊研究会の類だ。こいつは、ますます面白くなっ
てきた。このサークルの体質によって、どう転ぶかが決まるね」
 そう言ってから、地天馬は案内板に目を走らせた。部室棟と呼ばれる建物の
一階にあるもので、何階のどこに何の部があるかを示してある。
「心霊研究っぽい名前……これだったな。ミステリアスフォース、309号室
か」
 階段を昇って行くと、M・F(ミステリアスフォース)と書かれた張紙のあ
る部屋が見つかった。
「童顔の出番だ」
「え?」
 地天馬の言葉に、私は嫌な予感を覚えた。
「何のためにそんな格好をさせたと思うんだ。学生の役は君だ。僕は刑事役」
「何という……」
「どうこう言っている暇はない。いいか、聞き出すことは……」
 彼が色々と注文してきたので、私はそれを頭にたたき込むだけで一苦労であ
る。
「……じゃ、ちゃんとやってくれ。もし、依頼人の後藤がいたら、変わり身を
忘れないように」
 私は押し出されるようにドアの前に立った。ノックしてみると、高い声で返
事があった。
「はい、開いてます」
「失礼します」
 かしこまった言い方で、私はドアを開け、中に歩を進めた。そして後ろ手で
ドアを閉める。
 後藤竜夫の姿は見あたらなかった。
 部屋にいたのは、神経質そうな眼鏡の男と、まつげの長さが目立つ女、そし
て、今時の学生には珍しい、不精髭を生やした男の3人だった。

「で、どうだったって?」
 探偵事務所、実は私の部屋に帰る途中、地天馬は私をこんな風にせかした。
「ちょっと疲れたんだ。話は帰ってからにしようや」
 こう言うと、地天馬は不満そうな顔をしたが、しょうがないのだ。本当に疲
れていた。あのミステリーフォースの学生達は、それぞれが奇妙な連中だった。
無論、地天馬ほどではない。が、それが三人寄れば、地天馬以上に扱いにくく
なる。
 とにかく、帰り着き、インスタントコーヒーを入れてから、私は話すことに
した。
「まず、名前からいこう。君のことだ、ドアが開いた瞬間、盗み見ていたんだ
ろう。あの部屋に、眼鏡の男とまつげの長い女と不精髭の男がいたのは知って
いるだろ」
「ああ、確かにね。女のまつげが長いかまでは見えなかったが」
「女は田上若枝(たがみわかえ)といって、二回生だ。あまりしゃべらない女
だったよ。物静かなと言うより、暗い感じだった。
 眼鏡の男は井伊寛悟(いいかんご)という名前で、やっぱり二回生。ノック
したときに甲高い声で答えたのは、こいつだよ。ほんと、きぃきぃした声で、
参った。
 不精髭は秋元康助(あきもとこうすけ)。三回生だと言った。井伊とは対照
的な低い声で、芝居がかった感じで、いきなり超能力論をぶち始めた。……超
能力論の中味もいるのかい?」
 私は紙に三人の名前を漢字で記しながら、地天馬の顔を見た。
「いらないと思うね。要するに、このクラブはマジにやっているんだろう?」
「ああ。メンバーは、この三人に後藤を加えた四人だけみたいだ。サークルで
やっている分には、人数が少なくてもいいらしい。全く、薄気味悪いくらいに、
怖いくらいにやってるね、あれは」
「じゃあ、結構。続きを頼む」
「それで……。みんな同じ心理学をとってるみたいだ。あの時は丁度、講義が
ない時間だと言っていたが、怪しいもんだ。それはともかく、彼らの活動では
っきりしているのは、怪しげな話ばかりで埋め尽くされた会誌の発行くらいで、
あとは形になるものはないみたいだ。降霊なんかもやるみたいだけど、内輪で。
それで最近の動きだけど、クラブの方に妙な手紙が舞い込んでいる。入部希望
を装って聞き出そうとしたもんだから、詳しい文面までは分からなかったが、
部員を次々と葬る予告みたいなんだ」
「葬るって……殺人の予告か!」
「そうらしい。小野山が一人目ということみたいなんだけど、ちょっと変な点
もある。小野山が殺されてから、予告が届いたと言っているんだ」
「殺されたと言ったのは、彼ら?」
「え? あ、そうだよ。予告を信じているみたいだ」
「部員の誰かが、誰かを恨んでいるとか憎んでいるとか、そこまでは分からな
いかね?」
「それは無理だよ。そんな奥まで探れたら、僕も本格的に探偵になる」
「まあ、それはいいさ。想像はついている」
「もう?」
 いくらなんでも早すぎる、と思った。
「いや、真相かどうかは分からないが、手がかりというジグソーを、一番形の
いいパズルに仕上げることができたってことだ。もちろん、手に入れることが
できた手がかりだけでつくったものだから、所々、欠けているけど」
「じゃあ、依頼人の後藤に連絡するのかい?」
「ううん。連絡はするが、こちらの考えは話さない方がいいかもしれない。そ
うだな。その前に、調べなければならないことがあるな。しかし、早い方がい
いし。よし、依頼人に電話だ」
 一人でそう言うと、地天馬は時計に目をやり、「もう帰っているかもな」と
か言いながら、受話器を手にした。
 番号を回し、しばらく待っていると、どうやらつながったようである。
「ああっと、こちら地天馬探偵事務所。そちら、ええと、そうそう後藤君か?
ああ。いや、まだ解決しちゃいない。解決するには、君に聞かないといけない。
大したことじゃないんだが、大学の友達で、君の部屋を訪ねるとか言っている
人、いる? 特に秋元って奴が。どうして知っているかなんて、いいじゃない
か。で、秋元はいつ訪ねて来るんだ? え、今夜か。それは急がないと。いや
いやこっちのこと。彼一人なんだね。何時に? そう、十時か。それと、もう
一つだ。秋元は、ひょとしたら、君が留守にしていた、あの小野山君が殺され
た日に、君の部屋を借りていた人間じゃないか? そうだろう。どうして分か
ったかなんて、いいだろ。まだあった、君、酒には強い方かな? 一時間くら
いで酔っぱらうのか。ふうん。じゃ、切る」
 忙しない態度で話を終えた地天馬は、受話器を掛け終わらぬ内に聞いて来る。
「今夜、君は暇かい」
「ああ、まあ」
「じゃあ、一緒に行ってもいいな」
「どこに?」
「もちろん、依頼人のマンションにだよ」
 そうして地天馬は、軽く笑いながら、コートに手を伸ばした。時計はやっと
七時を指そうかというところだった。

 途中、食事をとったので、マンションに着いたのは、午後九時に近かった。
 マンションに到着するなり、地天馬は奇妙な行動をとった。後藤竜夫の部屋
は五階にあるのに、エレベーターには目もくれず、郵便受けの前に向かった。
「何しているんだい。行くんなら、早く行こう」
「まあ待てよ。……うん、大丈夫だ。これでほぼ、間違いないだろう」
 彼は一人で納得すると、私を促した。
「さあ、早く行こう。エレベーターで行かずとも、階段でいいのにね。どうし
てこんな仕組みになっているんだろう」
 まるで関係ないことを言っている。
 そう言いながらも一つしかないエレベーターで、我々は五階にたどり着いた。
いちいち探すまでもなく、後藤の部屋はすぐに分かった。
「どうだろう。すぐに入らなくてもいいじゃないのかな。こうして夜景を眺め
ているのもいいもんだよ」
 のんきにも我が名探偵は、廊下から外を見つめ始めた。しょうがないので、
私もそうする。
 確かに、きれいだった。まだまだ住民が少ないので、東京のような大都会の
夜景には劣るだろう。が、学生に合わせようとどこも努力しているためか、き
らびやかなネオンが多いようだ。
 地天馬の姿が見えなくなった。どこへ行ったのかときょろきょろしていると、
階段を登って来るではないか。
「どこへ行ったのかと思ったぜ。何してたんだい?」
「ちょっと、四階に」
「何のために」
 この質問には答えず、地天馬は大きく伸びをした。
「さて、そろそろ行くか」
 そして依頼人・後藤の部屋に向かう。チャイムを鳴らすと、しばらく間があ
って、後藤が顔を出した。
「あれ? 何か」
 秋元だと思って出てきたのか、後藤は戸惑った顔を見せている。
「色々と調べさせてもらってね。君、大学で入っているサークルに殺人予告み
たいなのが舞い込んでいるんだって? 教えてくれないと困るな」
「それは……」
「それにだ、ここの駐車場で死んだ小野山という学生、同じサークルだね。ど
うして隠すのかねえ」
「……」
「いいさ、言いたくなければ。多分、あのサークルの雰囲気がそうさせたんだ
ろうけど。ま、君も命を奪われないよう、気を付けたまえ。じゃあ、これで帰
るから」
「……そんなことを言いに来たんですか? 電話で済む……」
 訝しそうに言う後藤の言葉を、地天馬は遮った。
「そうだ、忘れていた。君、ラジコンか何か、いや、空を飛ぶ物なら何でもい
い、持っている?」
「? いいえ」
「結構。じゃ、くれぐれも気を付けることだ」
 くるっと向きを換え、地天馬は歩き出した。いつものことながら、慌てて追
う私。
「どういうことだい。これだけの用で、ここまで来たのか」
「これだけじゃないんだ。ご苦労だが、車の中でひと休みとなるよ」
「何かあるのか?」
「まあね。十中八九。そうだな、この暗がりの中で、秋元の顔、見分けられる
かな?」
「……難しいだろう。せめて、外灯くらいの明るさがないと」
「そうか。じゃあ、車を移動させるか。うまい具合いに、マンション入口近く
の場所が空いていたろう。あそこには外灯があった」
 そこで車を移動させる。
 移動させた車の中で、三十分も待っていると、一つの影がマンションに向か
って来るのが分かった。
 地天馬が聞いて来る。
「どうだ」
「ああ、秋元のようだ」
 それは、人影が外灯の真下を通る段になって、確信になった。
「うん、間違いない、秋元だよ」
「そうか。紙袋を持っているな。よし、静かについて行こう」
 訳が分からないが、私は車を降り、地天馬と共に、秋元を追う。追うと言っ
ても、秋元はエレベーターを使い、五階に向かったので、我々の方は階段を使
うのだ。そんなに気を使わなくてもいい尾行である。
 やっと五階に着いたが、エレベーターにかなうはずはなく、すでに秋元の姿
はなかった。
 と、地天馬は何を思ったのか、四階に降りて行った。私も着いて行くと、踊
り場の隅にある、掃除道具入れらしいロッカーに首を突っ込んでいた。
「何しているんだ?」
「はは、あったよ。読みがばっちりだ」
 そう言いながら、彼は紙袋を手に引っかけてみせた。ロッカーにあった物ら
しい。
「それは?」
「秋元の持ってきた物さ。中身はラジコンにロープに大きな錨と来たもんだ」
 確かに、そんな物が入っていた。ラジコンは飛行機。ロープは荒縄と言って
いい代物で、随分と長い。錨は金属製だが、本物ではないらしく、軽い。
 が、何のために?
「まあいいじゃないか。それより、五階に戻るんだ」
 五階に戻ると、地天馬は後藤の部屋のドアに手をかけた。すると鍵が掛かっ
ていなかったようで、簡単に開いた。
「よし」
 短く言うと、地天馬はドアを静かに閉めた。
「何やってんだ」
「いいから、静かに待つんだ。君の話によると、秋元は相当の論客のようだか
らね、こうするしかあるまい」

−以下3−




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