AWC 【高空の三式戦】零戦がどうした!航空日本は陸軍機に限る


        
#2639/3137 空中分解2
★タイトル (AKM     )  93/ 1/ 2   2: 1  (175)
【高空の三式戦】零戦がどうした!航空日本は陸軍機に限る
★内容


 『高空の三式戦』


 ●あえぐ陸軍三式戦闘機●

 高度1万メートルに到達した陸軍三式戦闘機が三機。過給機(タ
ーボチャージャー)なしの通常エンジンの戦闘機の高度としては、
限界高度だ。

 操縦竿を握る。強烈な冷気のために頬が紅潮しているのが分かる。
吐く息が白い。飛行服に包まれた身体が、寒さでがたがた震えてい
る。動きが鈍い三式戦闘機。まるで水中を行くようにのろのろと空
中を漂っているようだ。

 高度は1万100メートル。僚機の1機が、にわかに高度を下げ
る。強烈なジェット気流に流されて機位を失ったようだ。残るはた
ったの2機。一度高度を失うと、たちまち1000メートルは降下
してしまう。

 地上からの無線は彼に雑音しか届けてこない。雲量は0。快晴。
はるか眼下には関東平野が広がっている。美しい春の緑が一面に広
がり、利根川が太陽を反射しながら平野を裂いて流れている。

 のどかな高度1万メートルからの眺め。まるで天国だ。



 ●B29迎撃のためだったのか●


 そのとき、隣を飛行していた僚機から手で右方向を注視せよ、と
いう合図が出る。右方向を見る。高度1万メートルをものともせず、
およそ四十機の超重爆撃機B29の編隊。美しい。塗装なしの銀色
の胴体が、太陽光線を受けて、きらきら輝いている。

 相手はこちらを視認したはずだ。しかし進路を変えない。迎撃の
日本機が2機しかいないのでけちらして進むつもりなのか。距離が
たちまちのうちに縮まる。

 僚機の合図。突撃。それを見て、敵編隊の上からかぶさるように
攻撃態勢を取る。直下方攻撃。うなる三式戦の20ミリ弾。吸い込
まれるようにB29の巨体に命中するが、手ごたえはない。

 B29四十機編隊の強烈な防御弾幕。風防の外側は、敵が放つ、
たけり狂う焼けた銃弾の洪水だ。真っ赤な弾幕をものともせず、直
進する三式戦。攻撃機会は、これが一度だけ。一度射撃したら、も
う二度目の攻撃は不可能なのだ。高度1万メートルでは三式戦より
優速なB29。ふたたび取って返すことも出来ない。

 ああ、だめだ!撃ち落とせない。横を怒れる貨物列車のように通
過するB29の群れ。瞬間決意して、傍らを通過する敵機の機体に、
乗機を体当りさせようとするが、そう簡単にはいかない。体当りし
たい気持ちとは裏腹に、三式戦は最後尾のB29の垂直尾翼をかす
めて通りすぎる。高高度では思うように動けないのだ。



 ●ばか参謀の罵倒に怒る●

 弾丸のすべてを撃ち尽くし、虚しく飛行基地に着陸すると、B2
9の投弾によって市街地は火の海だ。右の翼を激しく撃ち抜かれて
いて、乗機もずたずたになっている。

 基地の司令官が、たまたま督戦に来ていた参謀とともに、やって
来る。ねぎらいの言葉があるのか。

 しかし、参謀がわめいた言葉は『みておったぞ!貴様、貴様はな
ぜ体当りをせんのだ。やればできたはずだ!』という罵声。おまえ
がやってみろってんだ。高度1万メートルを満足に飛べる兵器を作
れないくせに、地上で見物していただけのくせに、言うだけはえら
そうなことを!

 じっと不動の姿勢でいた。




 ●武装と防御を外す整備員●


 翌日、基地整備員が、新しい三式戦闘機を整備している。

 『それ、外してくれないか』
 『え。。』

 『弾薬も半分でいい。12.7ミリは50づつで頼む』
 『ですが。。。』

 『軽い方が7分は違うからな。できるだけ軽くしてくれ』

 高度1万メートルまでたどりつくのに50分くらいはかかってし
まう。しかし、操縦席後方の防弾板を外し、燃料タンクの防弾ゴム
を外し、防寒用の電熱服を地上に残し、銃弾を減らせば、いくらか
早く上にたどりつける。軽くなるぶん少しは運動性能も良くなる。

 だが、防御を削ると生還の可能性は少なくなる。

 『頼むな』

 声をかける。


 ●今日も出撃する●


 「敵大型機60機編隊が侵入」の警報とともにこの日も出撃。基
地から十四機が発進する。4番目に離陸した。高度6000メート
ルに達するまでに、エンジントラブルで六機が脱落。三式戦2型の
川崎製ハ一四〇液冷倒立十二気筒エンジンは不調が多い。残りは八
機。

 高度6000メートルから先が時間がかかる。防御と武装を軽く
した本機だけが、突出して上昇する。それでも、高度1万メートル
にたどりつくのは、やっとの思いだ。今日は雲が広がっていて、地
上はほとんど見えない。僚機は、まだこない。

 呼吸が苦しい。酸素瓶から酸素を吸入して正気を保つ。かさばる
電熱服を着ていないので動きは楽だが、とにかく寒い。氷点下20
度。膝が寒さでがくがく震える。早く戦闘になればいいのに。

 20ミリ弾の試射。一連射しただけで故障する。後は発射しない。
主翼の12.7ミリ機銃しか使えないとは。しかもこちらは弾薬を
50発づつしか積んでいない。普通なら引き返すところだ。

 『またか』

 ひとりごとのつぶやき。日本の航空機銃は故障や不発が多かった
そうだ。



 ●B29編隊が進路を変える●


 『うー、ううー』。頼みとする20ミリ機関砲の故障で不安に駆
られ、うめき声を出した。しかし引き返さない。やがてB29の大
群が視界に入る。遅れてきた僚機の編隊が、本機よりもかなり遠く
にあがってきた。B29編隊はゆるやかに進路を変える。巨人機の
大編隊の進路を変えることは容易ではない。空中衝突の危険が大き
いからだ。しかしB29の編隊は、それを簡単にやってのける。優
れた空中無線機で緊密に連絡を取ってこそ初めて出来る芸当だ。

 相変わらず雑音を伝えるだけの三式戦の無線機。

 空ぶりしつつある味方編隊。B29編隊が進路を変えてきた方向
には、本機だけがいる。機を左にゆるく旋回させて、昨日と同じ反
航戦を避ける。お互い高速ですれちがう反航戦では、攻撃機会が一
度しかないから。

 
 ●三式戦は突撃する●


 まもなく双方の射程距離に入る。高速機動する三式戦。1、2、
3番機までをやり過ごし、4番機の下からもぐり込む。はなから体
当りのつもりだ。射撃しないまま機首を上向きにするが、空ぶり。
4番機はすり抜けて行った。

 しかし後続のB29が続々といる。そのまま上向き姿勢で出食わ
したB29に向けて12.7ミリ機銃の射撃。至近距離なのに効果
がない。やはり12.7ミリでは致命傷が与えられないのか。射撃
しながら巨人機の下腹部にもぐり込む。三式戦の住友ハミルトン式
三葉プロペラが、巨人機の腹部をえぐりとる。

 下部銃座をはぎ取り、なお推力が残っているので、そのまま右翼
内側のエンジンに体当りする。双方の速度差が少ないので衝撃はそ
れほどない。バリバリバリバリー。鈍い破砕音が断続的に響く。こ
れまでだ。風防を開けて脱出する。

 体当りは成功したのか。遠景に、下部銃座をもぎとられ、右翼内
側のエンジンから白煙を引いたB29一機が、徐々に編隊から脱落
して行くのが見える。撃墜にいたるかどうかは定かではなかった。





前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 ワクロー3の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE