AWC 「荒ぶる海」(4)   久作


        
#2602/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  92/12/27  20:23  ( 68)
「荒ぶる海」(4)   久作
★内容

        

    周防のもとに大島宰判から月例報告が届いた。宰判とは萩藩が十二
   分割した地方を、それぞれ治める奉行所、大島宰判は大島郡の行政、
   司法を司っている。周防は、サモ詰まらなそうに報告書をめくってい
   たが、無毛島の強盗事件の記事に目を留めた。

        十二月二十日
        一、無毛島網元亀吉与申者御番所ニ参リ候而申者、去十日一同
       出漁之間九人組強盗留守ヲ襲ヒ蓄置候米金子等掠メとリヲ
       リ候、翌朝追手差向ケ裏磯ニ而捕ヘ候縄打チ其侭御番所江
       差出候様舟出致候処、海殊外ニ荒レ候而舟転覆之間縄打チ
       タル九人共浪ニ沈候而不能助候・・・・・・
       (無毛島の網元である亀吉という者は番所に来て言うには
        去る十日、島のみんなが出漁している時、九人組の強盗
        が島を襲い蓄えていた米や金を掠奪した。翌朝、追っ手
        を差し向け島の裏の磯で捕らえた。番所に突き出すため
        縛り上げて舟に乗せ出発したが、海が非常に荒れており
        舟が転覆してしまい縛り上げた九人は波間に消え、助け
        ることができなかった)

    周防は届けに来た手代を呼びつけ、詳しい報告を求めた。手代は
   島が村上主膳の領地であることを理由に、報告書以上の詳細は調査
   不能と答えた。
    「何のコトだっ 村上だろうが誰だろうが キット理非を糺せっ
     これはヌレギヌで漁師を殺したのだっ」
    「そ そんな なぜ・・・」
    いつもは穏やかな周防がマナジリを切り上げて怒鳴っている。手
   代は平伏したまま震え上がった。
    「よいかっ ヌレギヌじゃ そうに決まっておるっ
     奴らとて海賊 だいたい 生きたまま捕らえて番所に突き出す
     などという殊勝なコトをする筈もない
     殺したのだ しかもムコの漁師を」
    「そ そんな 無体な・・・」
    「いいや ソウに決まっておる それが証拠に盗まれた物を
     取り返したとは書いておらんっ ヌレギヌじゃっ
     無実の漁師をナブリ殺したに違いない
     マコトの下手人を宰判の手で捕らえるのじゃっ」
    「そ そんな・・・」
    「必ず 今月中に キット捕らえるのだ」
    「は はい・・・ しかし」
    周防は急に落ち着いた表情になった。目は冷ややかだ。
    「ああ それと・・・」
    「はっ はいっ」
    手代はまだ震えている。
    「下手人は 誰でもヨイ 簡単であろうが」
    周防の口元が卑しく歪んだ。笑っている積もりらしかった。
    「は?」
    手代が上眼遣いに、不思議そうな視線を覗かせた。
    「とにかく 新たに下手人を捕らえよ 誰でもヨイ
     何度も言わせるな」
    「はっ ははぁ」

    手代から話を聞いた大島宰判の山田兵衛は悩んでいた。周防は主
   膳を陥れようとしている。最悪の場合、領主としての責任を問われ
   主膳は詰め腹を切らねばならぬやもしれぬ。普通なら考えられない
   ことだが、事件をキッカケに今まで公然の秘密であった主膳配下の
   海賊行為を公に引き出すコトも可能になる。今月中の期限は、来月
   下旬に出発する参勤に間に合わせるためだろう。船手組の勢力を削
   ぎ、晴れ舞台であるはずの参勤で失墜を全藩に見せつける算段だと
   は、容易に想像できる。兵衛としても筆頭家老に義理だてするのは
   得なコトだった。兵衛は九人分の首を揃えるコトを決心した。ただ
   問題なのは、平和な時代に九人もの首を揃えるコトが今月中に出来
   るか否か、だけだ。兵衛はトニカク「下手人」を捕らえるよう手代
   に命じた。

(続く)




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