AWC 「荒ぶる海」(5)   久作


        
#2603/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  92/12/27  20:25  ( 76)
「荒ぶる海」(5)   久作
★内容

        サキ

    亀吉の屋敷に島の男達が集まっている。みんな押し黙り、重苦しい。
   やがて一人の男が遠慮ガチに口を開く。
    「頭 あれから一ヵ月ばかり 年寄りが三人死んだ 
     五人の子供と女が熱でウナサレてる 漁もサッパリだ」
    「おい 何が言いたいんだ」
    亀吉が男を睨み付ける。
    「い いや 別に・・・ お 俺が言ってるんじゃねぇ
     聞いたんだけどもよ 聞いたんだが・・・
     あいつらの タタリ・・・」
       「馬鹿野郎っ タタってやりてぇのはコッチの方よ
     物を盗られただけじゃねぇ カカアや娘まで・・・」
    亀吉は歯ギシリする。再び沈黙が訪れた。と、その時、奥の板戸
   がスウウと開き、サキが現れた。あの日以来、美しさに磨きがかか
   り、艶が加わった。笑みを浮かべている。未通娘の時には見られな
   かった相手を凍てつかせる笑み。
    「ふふふ タタルのも当然よ」
    「サキッ 一体 おめえ 何をっ・・・」
    亀吉が視線を振り上げザマに叫ぶ。悲鳴に近い。
    「タタルのも当然よ あの人たちは ただの漁師だったんだから」
    「なっ なんだってっ サキッ 一体 どおゆう・・・」
    亀吉は目を見開きサキを見つめている。男達も唖然として、亀吉
   とサキを見較べている。
    「あたしを襲ったのは あの人たちじゃなかったわ
     あの人たちは ただの漁師だったのよ」
    「サキッ 冗談だろ なっ 冗談だろ
     み みんな済まねぇ 
     サキの奴 あれからチョットおかしくなって・・・」
    「本当よっ あんたたちが殺したのは
     海賊じゃなくて ただの漁師だったのよ」
    サキは父親を睨みながら、極め付けた。父親は俯き肩を落とす。
   男達はザワメク。グルリと一同を眺め回したサキが哄笑した。
        「ホホホホホホ タタられるがイイわ みんなタタられるがイイ
     みんな死ねばイイのよ みんなっ ホホホホホホホ・・・」
    男達は土色に変わった顔をサキに向け何も言えずに、ただ呆然と
   していた。
    「ホホホ みんな みんな 死ねばイイのよ」
    凄艶な笑顔に解いた髪を振り乱し、サキは鋭い笑い声を上げ続け
   た。

         

    三日後、羽織を着た亀吉が大島宰判へと渡って来た。堂を建てる
      許可が欲しいという。理由は、強盗とはいえ、おぼれた九人の供養
   をしたいがため。加えて不漁続きの神頼み、らしい。いつもの兵衛
   なら二つ返事で許すのだが、フト思い付き、亀吉を部屋に通した。
   逞しい四十男だが、目は窪み顔はヤツレている。
    「亀吉・・・か 憎い強盗の堂など建てずともヨイではないか」
    「あ いや お奉行様 そうは仰しゃっても 死んでしまえば
     悪人も何もありません 海で死んだ者は みな神様になります」
    「ふうむ ま それはヨイが・・・
     お人ヨシなんじゃのぉ 海に生きる者とは」
    兵衛は言葉にワザと嘲りを込めた。
    「は?」
    亀吉の眉がピクリと動く。臆病者とでも聞こえたらしい。
    「いやさ ン 妻や娘も手込めにされたのであろう」
    「うっ そ それは・・・」
    亀吉が歯を食い縛る。
    「それを 強盗の供養がしたいとは・・・ いやはや
     大島の海の者といえば 男の中の男で通っておったが・・・
     世が変われば 優しくなるものよのぉ」
    「お お奉行様・・・」
    「ハハハ マア 只の漁師を誤って殺したのであれば
     堂くらい建てて供養せねばならぬじゃろうが・・・ のぉ」
         兵衛はチラと亀吉を見下ろす。一瞬目が合う。
    「あ・・・ う・・・」
    亀吉は脂汗に塗れた顔を俯かせ微かに震えている。
    「ま ヨイわ 堂を建てたいなら 建てるがヨイ 下がれ」
    「あっ はああぁぁ」
    亀吉は平伏したまま後ずさりし退出していった。
    「ヒョウタンからコマ か・・・」
    兵衛は手代を呼んだ。

(続く)




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