#2601/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF ) 92/12/27 1:31 (121)
「荒らぶる海」(3) 久作
★内容
掠奪の後
掠奪から一夜明け、男達が島に帰ってきた。男達は凌辱された女
たちや暴行を加えられた老人、子供を前に絶句した。金めの物は全
てなくなっていた。何の驚くことがあろうか。彼らにとっては見慣
れた光景である筈だった。ただし、加害者として、だ。彼らには、
どうしても納得がいかなかった。どうして自分達が、こんなに酷い
目に遭わねばならないのか。
漁は大漁だった。頭の屋敷の土間に積み上げられたタイやハマチ
は虚ろな目で宙を見つめビチビチと身をクネらせている。
頭の亀蔵は庭で立ち尽くしていた。目前には襦袢を固くカキ合わ
せ横座りになった娘が目を外らせ赤茶の地面を見つめている。
「サキ 誰に犯られた」
「・・・・・・」
「誰に犯られたのだ」
「・・・・・・」
娘はキッと父親を睨み付ける。切れ長の瞳は潤んでいる。今度は
父親が目を外らす。そして外らせた白い襦袢の腰に赤黒いシミを見
つける。
「うおおおおおおおおっっっっ」
亀蔵は娘を見据えて長ドスを抜き放つ。
「やめて あなた やめて下さい」
妻のトメが慌てて亀蔵をハガイ締めにする。
「はなせぇっっ はなせぇっっ」
食い縛った娘の顎の線は冴えわたっている。
「おねがいです やめてください
なぜサキを斬らねばならないのです
おやめください アタシもっ アタシも・・・」
はじめて娘の顔に不安の色が浮かぶ。
「うっ ううっっ ぐぐぐぐぐぅっっっ」
亀蔵の目尻からあふれた涙が頬を伝い頤から滴る。トメが手を放
す。亀蔵は崩れ落ちる。トメが亀蔵の頭を抱く。二人は一塊になっ
て身を震わせる。サキの放心しきった無表情な頬にも一筋、二筋と
涙の跡がしるされていく。
虐殺
竹たち9人は困っていた。昨夜の嵐を逃れ無毛島に舟を着けたは
イイが、帆はチギレ、櫂は折れ、とうてい伊予の三津ケ浜まで帰れ
そうもない。
「なあ杉作オジサン この島の人も漁師なんやろ
助けてもらおや」
「竹坊 オマエは知らんやろけど ここは海賊の島ぞぉ
助けてくれるワケないわい」
「海賊?」
「おお 海賊よ 今でも舟襲うたり村襲うたりしよんよ」
「そんな・・・ 海賊って御法度やん
解っとんやったら 捕まえたらエエのに」
「ほれがのぉ 大将が長州の侍なんよ 捕まりゃあせん」
9人は弱りきっていた。昨夜から水も飲んでいない。
「頭 9人組が裏の磯で休んでます」
手下の一人が、男達が集まる頭の屋敷に告げてきた。
「なにっ みんなっ ドス持って付いてこいっ
サキッ おめぇも来るんだっ」
亀蔵がサキの手をムリヤリ引っ張り土間に飛び降りる。十三人の
手下どもが一斉に立ち上がる。手に手に長ドスや鉄の熊手を握って
いる。サキはヨロめくが亀蔵に手を引かれ駆け出す。男達がいなく
なる。トメ一人が残される。トメは見送り、タメ息をつく。
「殺さんと気が済まんのかねぇ」
十五人が磯の陰から竹たちを窺う。
「サキ オメェを犯ったのは どいつだ」
亀吉が濁った目をサキに向けた。
「・・・・・・」
答えられるワケがない。目の前にいるのは見たこともない男達だ。
「サキ 答えろ オメエを犯ったのは どいつだ」
亀吉は汗ばんだ顔を近づけ、押し殺した声で訊いた。
「・・・・・・」
「・・・まあイイ 皆殺しにしてやる」
「頭 皆殺しにしちまったら お宝の場所が解んねぇ」
「うるさい そんなコタァ どおでもイイ 皆殺しだ」
サキは竹を見ていた。自分と同じ歳頃のアドケナイ顔に好感がも
てた。細い腕や腿はシナヤカで男の臭いは、まだしない。
竹は視線を感じ、振り向いた。岩の陰から十六、七の少女が顔を
覗かせている。島の女とは思えないほど色白で整った顔だ。切れ長
で烏目勝ちな目を、こちらに向けている。細めに通った鼻筋から更
に視線を下に移すと、肉付きのいい唇が半ば開いて、何か言いたげ。
汚れた襦袢の胸元は薄く丸く盛り上がっている。(エエ女やなぁ)、
竹はボンヤリそう思った。
サキは竹を見つめていた。竹の白い褌の前の部分が盛り上がった。
サキの膚に昨夜の男の感触が甦ってきた。腰の辺りから背中を悪寒
がジワリジワリと這い上がってくる。サキは唇を半ば開いたまま、
顎をシャクリ、無言で竹を指差した。
十四人の男達が得物を手に岩の陰から飛び出していく。九人の漁
師たちは一瞬ポカンと海賊達を眺めていたが、「うわあああっっ」、
磯の上を逃げ惑いだした。
竹は一直線に突き進んでくる四十ガラミを見た。長ドスを振りか
ざし、何やら喚いている。
「竹 逃げぇっっ」
杉作が海に飛び込もうとしながら叫ぶ。竹は思わず少女を見遣っ
た。少女は無表情な顔で、こちらを眺めている。いや、薄っすら冷
たい笑みさえ浮かべている。
「ぎゃあああああっっっ」
海に飛び込んだ杉作の肩深く鉄の熊手が食い込み、磯へと引き上
げていく。肩甲骨を踏みつけられ動くことも出来ず、もがいている。
処々で血飛沫と悲鳴が上がっては散っていく。よく晴れた海辺は、
凪。澱んだ空気に血の臭いがこもる。
竹はトッサに体をかわす。唸りを上げて長ドスが耳元を行き過ぎ
る。
「タケエエェェェ」
目を遣ると杉作が肉を剥がれた真っ赤な背中に何度もドスを突き
立てられている。竹は海に逃げようとした。二、三歩走ると、左腿
をドスが貫いた。竹は転倒する。右肩から背中を斬られる。竹は倒
れた侭ノケゾリ、叫んだ。髪を掴まれ持ち上げられる。亀蔵はワザ
と急所を外して何度も腹部にドスを突き入れては捻り、コネ回した。
腹を貫かれる度に上がる竹の絶叫は、徐々に弱まっていく。
「あ あああ ああ ぁぁぁぁぁ」
竹は岩陰の少女に向かって震える腕を突き出し、宙を掴んだ。少
女が上眼遣いに見つめ返している。瞳は潤んでいるようだった。竹
は心底、少女を美しいと思った。杉作から聞いた般若姫の名を思い
出した。
亀蔵は娘と見つめ合う竹に激昂し満身の力を込めて、竹の首へと
長ドスを振り下ろした。ガツッ。鈍い音がした。竹は目を飛び出さ
んバカリに見開いた。絶命していた。亀蔵は狂ったように、何度も
何度も竹の首へと長ドスを振り下ろした。悲鳴も叫びもすでに已み、
磯は静まり返っていた。男達が見守るなか、亀蔵だけが荒い息遣い
で長ドスを振り回していた。
(続く)