AWC 「危脳魔流探偵譚」(5)   久作


        
#2600/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  92/12/27   1:12  ( 84)
「危脳魔流探偵譚」(5)   久作
★内容

        ・号外・

        桑折氏 自宅で突然死

          S市政財界に衝撃走る

    二十六日午前七時ごろS市A、会社社長桑折亀吉氏(52)が自室
   の寝台上で死亡しているのを同家の女中が発見した。桑折氏はS市最
   大の紡績工場を経営する傍らT党S市支部長も務める名士。来月の総
   選挙でもT党の財源を一手に引き受けていた桑折氏の突然の死に、政
   財界は衝撃を受けている。
    S中央警察署の調べでは、桑折氏は自宅二階東南隅の自室寝台上で
   仰向けに目を見開いたまま死亡していた。死因は心臓麻痺、死亡推定
   時刻は二十五日午後十一時から二十六日午前一時の間。桑折氏に外傷
   はなく、争った形跡もなかった。
    同署は病死としているが、本社記者は現場で美作一郎特別高等警察
   課長を目撃した。当局が、桑折氏の突然死の背景にアナキストの暗躍
   があるとみているのは明瞭であり、本社で目下調査中。


        枕下に侍る美形の自働人形    
   
    桑折氏の死の顛末を美少女人形が見つめ続けていた。この人形は三
   年前、桑折氏が東京に住む人形師に作らせた自働人形で油で動く最新
   精巧なもの。亡き妻を象った顔かたちは、生きているようなアデヤカ
   サを放つ。桑折氏の寵愛も深く毎晩、就寝前に茶を持ってこさせ、そ
   のまま寝室にとどめおくのを日課としていた。死亡当日も美少女人形
   を枕下に侍らせていた・・・・・・・・・・
    鏡三郎は昼飯をとりに出た街で、号外を読み驚いた。紀子の嘆く顔
   が浮かぶ。亀吉はすでに三十になる長男に会社の実権を譲り、政治活
   動に没頭していたが、脂ぎった卑しい顔の男だった。鏡三郎の嫌いな
   タイプのオヤジだったが、それでも紀子の父親だった。午後に弔問し
   紀子を慰めよう、と思い付き、身なりをととのえるため下宿に戻った。

        ・殺人・

    「よお お帰り 早かったな」
    美作が部屋の片付けをしながら振り返り、屈託なく笑った。
    「美作さんっ 何してるんですか」
    「見りゃ解るだろ 大掃除してやってるんだよ」
    「・・・・・・」
    「だが もお済んだ」
    「何を探してるんです」
    「山名宏二の行方 まあ期待はしてなかったけどな
     お前はメモとかする程マメじゃないし」
    「宏二の行方なんか知りませんっ 帰ってください」
    「まあ 怒鳴るな 
     ところで お前 桑折家の家庭教師してるんだってな」
    「ええ でも俺が殺したんじゃないですよ」
    「殺した・・・ なぜ殺人だと思う」
    美作はネットリした口調で訊いてきた。猫のような目つきだ。
    「別にぃ 新聞に書いてたから」
    「どの新聞だ」
    「いや 新聞によると 警察は心臓麻痺って言ってるみたいだけど
     昨日の今日じゃまだ検屍解剖も終わってないでしょ
     それが朝の時点で心臓発作って言い切ってるんだから 
     殺人と睨んでる証拠 新聞に知られたくない事件なんでしょうね
     それに特高の課長さんが現場をうろついてたらしいし
     主義者ガラミの殺人事件だと思ってるんでしょ」
    「・・・・・・」
    「宏二を主義者としてマークしてたアナタは
     消えた宏二が政財界の名士である桑折氏を殺したと思ってる
     桑折氏は資本家であり保守政治の大物ですしね」
    「ふん 解ってるじゃねぇか 話が早い 宏二はどこだ」
    「知りません」
    2人は無言のまま暫く睨み合っていた。
    「まあイイ 思い出したら いつでも言ってくるんだぞ
     そろそろ俺よりヤバイ奴らが動きだす頃だ」
    「美作さんよりヤバイ奴なんているんですか」
    からかい口調で言う鏡三郎に美作は怒ったように返した。
    「諜報機関だ 奴らシャレになんねぇ」
    「え 何故 諜報が・・・」
    「奴らの目的は 父親・・・」
    「え 山名教授?」
    「あ いや 何でもない・・・」
    「どういう事です」
    「・・・鏡三郎 知らない方がイイことだってあるんだ
     首 突っ込むな イイか」
    「ちょ ちょっと 美作さん」
    美作は急にムッツリしたかと思うと鏡三郎の横をすりぬけズカズカ
   と部屋を出ていった。鏡三郎は思いつめた表情のまま、着替え始めた。

(続く)




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 久作の作品 久作のホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE