#2532/3137 空中分解2
★タイトル (JHM ) 92/12/12 9:28 (156)
《主は飲んで鼻垂れて》(2) カ
★内容
● act 3 東京デブ・ストーリー ●
● 夕方の公園。まだ寒い。人の姿もまばら。皆、コートの衿を立てている。
● ナレーション(女性の声)
「 春の嵐を待つまでもなく 脆くも崩れ行く愛の幻に ただただ涙にくれるだけ
の 一人のおのこあり チョコレート自ら求めしも 悔し涙にくれ 握り潰し
し チョコレートの 溶けて たなごごろにへばりつきし いとわろしアシ
お〜い ヘッド・ホンが 片方 はずれているぞなもし〜・・・ 」
● どうみても40近い腹の出たオジサンが「ボーッ」として公園のベンチに腰掛けて
いる。涙を流しながら、ポテト・チップをボリボリとひっきり無しに食べている。掌を
よく見ると、チョコレートがべっとりとこびりついている。そのままの手で眼鏡をなお
したりするから、流行から外れたセルの眼鏡の黒縁もチョコまみれだ。ウォーキング・
ステレオのヘッド・ホンが片方外れてるのも気づかず、傍に寄ると外れたヘッド・ホン
から漏れてくる音が聞こえる。
・・・・・あの日 あの時 あの場所で 君に逢えなかったら・・・・・・・・・・・
・・・・・僕らはいつまでも 知らぬ 二人の まま・・・・・・・・・・・・・
● ナレーション(女性の声)
「 知らぬが華 『愛のボヘミアン』 秘すれこそ華 『永遠の寅さん』
はたまた 『さまよえるオランダ人』 愛は残酷 愛は冷酷
あいあい〜 トトサンの名は〜
おごそかに言う。
「 俗世から逃がれようにも 荒縄一本がヨスガとは・・・・・ 」
● 黒い大きなバッグを抱えたホームレスのオジサンがやってくる。肥満高度。笑いも
せず泣きもせず、公園のもう一つのベンチに同じ様に腰掛けて、ただただ座っている
だけの肉の塊(セリフ無し)。
● 葛西行徳と元森昭男がやってくる。
昭男 「 おい、行徳。教団『御巫女の箱船』って知ってるか? 」
行徳 「 おひおひ、ちょっとアブナクないか? 」
昭男 「 何が? 」
行徳 「 発音が・・ 」
昭男 「 え゛? 」
行徳 「 あっ、そうか、お前関西人や無いからな〜 」
昭男 「 え゛? 」
行徳 「 まぁ、ええわ、その『なんとか』の箱船がどないかしたんか? 」
昭男 「 一人の女性教祖が若い男達10人近くを連れて、全国放浪の旅に出ている
らしいんだが、『被害家族の会』とかできて大変らしいぜ 」
行徳 「 その『教祖様』って、美人かい? 」
昭男 「 そうらしい 」
行徳 「 ぐふふ だお ぐふふ だお 」
昭男 「 お前 どこの生まれだなんだ きょわいな〜 」
行徳 「 俺もそこ行こ 聖地参拝だ〜 」
昭男 「 だけど その聖地は 全国を動き回っているんだぜ 教祖様と一緒に 」
行徳 「 で、その教祖様の御名は何と? 」
昭男 「 『色目』様と 」
行徳、恐れ入って地べたに伏せ拝み奉る。
行徳 「 ははぁ〜 恐れ入ってござぇます〜 」
● 突如、大音声で、チャイムが鳴る。
「 チンコン チンコン 臨時ニュース
巷を騒がせている教団『御巫女の箱船』の教祖『色目』氏が突如失踪し
途方に暮れた信者10人が警察に保護を求めたもようです。なお教祖氏
は、中年男性『K氏』と手に手を取って駈落ちしたもようです 」
昭男 「 最近 臨時ニュース流行ってるなぁ〜 でもこの臨時ニュース10回目
くらいじゃないかな〜 」
行徳 「 なんか、最近『K氏』と言うだけでトリカブト連想するからな〜 」
昭男 「 その『K氏』、公安も追っているとか言う話もあるし・・・ 」
行徳 「 コ〜_ン? 」
昭男 「 ちゃうちゃう 何考えてるんだ いや『ナニ』の事しか考えていないって
言った方が正確だな・・・ いつもの店で良いなっ! 」
行徳 「 結局 俺達 男二人で飲みに行くしか能が無いのか? 」
昭男 「 しょ〜もな〜 」
行徳 「 いっその事 傭兵にでもなって 中東へでも行くか? 」
昭男 「 おっ それ俺乗るぜ その話 口利きでもあるのかい? 」
行徳 「 いや 別に無いけど・・・ 」
昭男 「 スキー行くのに金足りなくって・・・ 」
行徳 「 ははは・・・ で 何処行くのスキー? 」
昭男 「 GALA輪塁 」
行徳 「 ムチュウデスキーソノウチエイズトモダチノトモダチハミナトモダチダ 」
昭男 「 別になっても構わないけどね・・・ 」
行徳 「 そういう機会に恵まれれば って仮定の話ね 」
昭男 「 そう現実に目を向けるな〜 」
● 二人、連れだって歩いて消える。
●ベンチに座った太った男、大きな黒いバッグから電子体重計を取り出して、しげしげ
と見つめ、そして、歌い出す。
「 少し痩せたらなんて〜 悲しい話を 何時まで考えてい〜るの〜さ〜
暗い闇の底に叩き込まれても いつまでも この目盛り〜 見つめてる〜
あぁ〜 人は〜 昔 昔〜 豚〜 だったのかもしれないね〜
こんな〜に〜も〜 こんな〜に〜も〜 腹に〜 ア・ブ・ラ・ミ〜 」
●男、腹の肉をつまもうとするが、厚過ぎて摘めない。苦笑いが漏れる。
●男ベンチより、すっくと立ち上がり掌を見て語りだす。
男 「 余命幾ばくも無い この俺・・・」
男 「 嫁〜 行くべくもない ドブス・プッツンとて・・・・」
●何処からともなく、合唱の声。
メチカブーカ バビデブーカ チビデデブデブッス モライテアルカナ チビデデブテ
チビデアーレ ブスデアーレ ウチガヨケレバ〜 ギャクタマ〜モハヤリサ チビデテ
男 「 あぁ 嫁日照り 嫁日照り 嫁〜来るべくも無く 徒に齢重ね・・・
とうねんとって 30歳・・・ 」
●女性ナレーション
「 俗世から逃がれようにも 荒縄一本がヨスガとは・・・・・ 」
公園の木の枝には、結んで首が通る位の輪をつくった荒縄がぶら下がっている。
●若い女性の声
「 こんな〜に〜も〜 こんな〜に〜も〜 腹に〜 ア・ブ・ラ・ミ〜 」
●年輩の女性の声
「 ・・・・・御見合いの話があるんだけど・・・・・・ 」
●年輩の女性の声
「 こんな〜に〜も〜 こんな〜に〜も〜 腹に〜 ア・ブ・ラ・ミ〜 」
●声々に翻弄された挙げ句、男、梢を見上げて、何かに憑かれた様に言う。
「 俗世から逃がれようにも 荒縄一本がヨスガとは・・・・・ 」
●男、蝶が舞飛ぶ真似をして走り回る。
「 細る筈の無い腹〜 みんな わかっていて〜 ・・・・・・ 」
「 みんな わかっていて〜 ・・・・・・ 」
「 みんな わかっていて ・・・・・・ 」
「 みんな ・・・・・・・・・・・・・・ 」
●男、喉を詰まらせて、その場へへたり込む。
●大勢の声がさんざめく。吠える。
デブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブ
デブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブ
デブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブ
デブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブデブ
● 暗転 ●
●しばし、暗黒が続き、ほんの一瞬、明るくなる。その明りに、梢にぶら下がった
太った男が見えて、また、暗くなる。