#2523/3137 空中分解2
★タイトル (JHM ) 92/12/12 8:59 (170)
《助駒氏の系譜》(2) カ
★内容
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-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= chapter 2 備後の後先 ソノ1 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-
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想定キャスト: 侠客 助駒の城蔵 佐藤 蛾次郎
金貸 借金屋総司 地井 武男
侠客 江島の初治 金子 ゆかり
浪人 羽方 香之介 長門 勇
浪人 都築 祐次 三遊亭楽太郎
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史朗の先祖は、備後の国の人。元をたどれば、「助駒の城蔵」というヤクザというか
女衒というか、飯盛り女なんかの口入れを稼業とする親方だったみたいである。結構に
手広く商売をしていたみたいなのである。彼の住んでいたあたりは、その土地柄からか
、パーティーが盛んであり、余興の為のゲームの発祥の地でもある。皆さんも
「 備後〜 」
とかいう掛け声を御聞きになった事があると思う。揃っていないのに揃ったというと、
「 チョンボ〜 」
と言われるし、この物語の作者なんかは、生まれてこの方、ず〜っと
「 ビンボ〜 」
なのである。
ある時、助駒の城蔵は旧知の友である総司に逢いに旅に出た。昔、無頼仲間であった
総司も今は、
「 貸金業 」
を営んでいる。こちらから貸してやるのではなく、客が借りる訳だからといって、
カリガネヤ
「 借金屋総司 」
という看板を上げている、という事だ。
旅の途中、旅篭の玄関で足を洗ってもらっている城蔵。すると横から声がかかった。
「 よ〜 助駒の〜 」
すると、城蔵は、やたらに大げさに驚いてみせた。
「 あ〜〜〜〜っ あ〜〜〜〜っ あ〜〜〜〜っ あ〜〜〜〜っ あ〜〜〜〜っ 」
スケコマ
「 よぉ、久しぶりだなぁ 助駒の〜 」
ハガタ
「 本当にご無沙汰してました 羽方の旦那 」
ハガタキョウノスケ スケコマ シロゾウ タコ イカ スミロク
浪人の名は羽方香之介という。以前、助駒の城蔵が蛸烏賊の墨六親分の処でワラジを
脱いでいた頃、丁度そこで用心棒をしていた。口髭を蓄え、でっぷりと太った様は貫禄
充分である。
「 おいりゃーせんのう 」
ノタマ
相変わらずの科白を曰う。そのせいかは知らないが、蛸烏賊の親分とソリが合わなくな
ったとかならなかったとかで、その後、江島の初治てぇ親分さんの処の用心棒になった
とか風の噂に聞いた。
「 あの〜 そこの旦那は? 」
ツヅキ ユウジ
「 拙者、都築祐次でござる 」
香之介は苦笑して言った。
カシコ
「 そう畏まる柄じゃないんだけどよっ 」
城蔵は江島の親分が大の苦手であった。顔を合わせる度に、何かしら小言を言われて、
すくみ上がる。しばらくは、
「 アッチの方 」
まで駄目になってしまう様な気がした。出来れば顔を合わせない方向で済んで欲しい、
と城蔵は思った。
丁度、その時。5〜6人の浪人者がバタバタと旅篭の入口の土間に駆け込んで来た。
城蔵の足を洗っていた女中は、ビックリして外の通りへ飛び出した処で転んで顔を酷く
打ち、足腰萎えてへたりこんでしまった。
「 やい!お前は城蔵だなっ! 」
「 へい・・ 」
と答えを聞く間も無く、いきり立って叫んだ浪人は抜刀して切りかかる。足をば洗って
ダシ
いたタライを出汁の出たぬるま湯ごと放り投げて、間一髪で城蔵は身をかわした。丸腰
ツヅキ
の築木は当て身をそいつに喰らわせて投げ飛ばしたが、タライからこぼれた湯が板の間
に流れた処で滑って転んで、後頭部をしこたま打って倒れてしまった。手慣れた奴らで
あるのだろう。その瞬間を少しも逃さず、錆の出た刀を短く持ってはミゾオチから心の
臓を一突き。
「 う・・ 」
短く呻いて築木は動かなくなった。羽方香之介の形相が変わる。こめかみの血管が怒張
して「ウネリ」を形成している。ゆで立ての蟹もあれほど赤くは無いだろう。
「 お〜の〜れ〜 」
刀を抜いたのか、抜かないのかわからないまま、若干たるんだ腹が左右に揺れるくらい
にしか見えなかったのだが、6人の浪人者は一瞬のうちにバタバタと次々に倒れた。
「 まだ 死んではおらんと思う ちょっと人手を集めてくれんかの〜 」
顔は未だ赤いままだが、落ち着きはらった様子で陰で様子を見守るばかりであった小者
に申しつけると、刀を振って半紙で拭い鞘に納めた。城蔵は言う。
「 ふ〜っ 危なかった・・・ しかし 流石は羽方の旦那だ 」
「 わしな〜 抜くのは 早いんじゃて 一瞬よ 一瞬 痛くも無いわ・・ 」
羽方は何でもなさそうに言う傍ら、築木の側に寄り、胡座をかいて座り込んだ。
「 お前を狙ってきたんじゃな〜 助駒の〜 」
振り返ってニンマリ笑うその顔には、二筋の涙が伝っている。
「 あっしには 身に覚えの無いこって 」
「 叩けば埃の出る躯よ お互いにな お互いに 」
汚れた着物の袖で目を拭って鼻をかむ香之介。
ヒトイクサ
「 幸せ薄い祐次の奴め 今夜は久しぶりに飯盛りと一戦とか申しておったのに 」
玄関からの夕日の照り返しが眩しい。
「 まぁ お前の分までわしが頑張ってやるから 成仏せいや 」
目を細めて香之介は言う。
「 お〜い 女中 」
「 は はい 何でしょう? 旦那 」
顔は土埃まみれの女中が玄関から
「 酒持ってこい 酒! それと 漬けもん 何でもえぇぞ! 」
「 は はい 」
「 あっ それとな わかっとると思うが 番屋へは届けんでえぇからな 」
今までに、出入りの修羅場は何度も踏んではいるが、最後まで抜かない部類に城蔵は
分類される。親知らずが疼く様な気分がして、それでも飲まずにはいられない気分に
城蔵はなっていた。顔が煤けたままの女中が酒と大根の漬物を持って来ると、
「 おぉ ありがと お前さん えぇ尻しとるなぁ 」
と言って撫でようとするので、
「 キャァ 」
といって女中は奥へ下がった。この旅篭の女主人は、お伊勢参りの講へ行っていて留守
であって、折悪しく番頭も所要で不在であった。築木の骸、そして瀕死の浪人6名が転
がったまま、一家の手のものが来るまで、2人は酒を酌み、涙を流し、昔話に花を咲か
せていた。