AWC 《助駒氏の系譜》(3)                カ


        
#2524/3137 空中分解2
★タイトル (JHM     )  92/12/12   9: 1  (156)
《助駒氏の系譜》(3)                カ
★内容



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 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-= chapter 2  備後の後先   ソノ2 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-
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 旅篭の入口から風が吹きこんで来る。血なまぐさい臭いがそこかしこに立ちこめては
いるが、とっくに涙声になった二人の鼻は馬鹿になっている。ひとしきり昔話。城蔵が

 「 『空桶衆』 って 御存じですか 旦那〜 」

 「 『カラオケ衆』? 」

 「 最近 ちょっと 物騒な連中が いましてね〜 」

 「 物騒? 」

 「 『カラオケはいけねぇ〜や カラオケは〜 空っぽってのはイケナェ〜や』
    なんて事をウッカリ言おうものなら、
   『そんなに空の桶が嫌なら、自分で 入って満杯にしたらどうなんでぃ!』
   とか 言って 怖い事になるんですよ 旦那〜 」

 「 何で お前 知ってるんだよ? 」

 「 えへへぇ ちょっと あっしも かかわり合いになっっちゃったもんで 」

 「 おい じゃ さっきの・・・こいつら・・・ (^^;) 」

二人は顔を見合わせて、土間に転がっている浪人者達を見ると、いつの間にか傷は消え
ていて、先に丸い玉のついた棒の様な物を握りしめている。城蔵は、絶対に『空桶衆』
の傍らでは口にしてはいけないという言葉の一つをウッカリ口にしてしまった。

 「 よ・こ・は・ま た・そ・が・れ・・・ 」

6人の死んだ筈の浪人者達は、スックとフィルムの逆回転の様に起きあがると、腰をば
捻って、小さな棒きれを握りしめては、一糸乱れず、

 「 よ・こ・は・ま た・そ・が・れ・・・ 」

 「 ギャー 」

羽方香之助と助駒の城蔵の2人は、酒のとっくりと大根の漬物をしっかり握りしめて、
一目散に勝手口から逃げだした。それを追って、『空桶衆』は

 「 トテチテタ〜 」
 ラッパ
と喇叭の音も賑やかに、木口小平太もびっくりの勇敢さで追いかけてゆく。

 「 死んでも マイクを はなしませんでした 」

と小学校の教科書にも掲載されている?『空桶衆』なのである。女中も騒ぎに巻き込ま
れて、一緒に何処かに逃げ去った後、独り残された築木佑次は・・・・。

 「 ただ今 マイクのテスト中 」

腰を捻って、拳を握りしめては

 「 よ・こ・は・め た・て・は・め・・・ 」

彼の手に『永遠のマイク』が握りしめられていた事は言うまでもない。

 「 ぜぇ ぜぇ ・・・・ っもう もう 走れねぇよ 旦那・・・ 」

 「 う〜ん 拙者も ・・・・ 」

 日頃の運動不足、すなわち腰の運動のみに偏った運動習慣がたたり、羽方香之助も
助駒の城蔵も、半町ばかり走った処でへたりこんでしまった。追手は途中で

 「 羅蕪須鳥は突然に 」

が聞こえてきたのに合わせて歌うのに夢中になってしまったおかげで、どうやら巻く事
が出来たらしい。今日は運が良かったものの、しかし、次に出会ったらどうなるという
のだろう。打つ手は無いのか?

 「 旦那〜 『空桶衆』って何に弱いんですか? 」

 「 う〜ん よくわからんが〜 『大矢田寺縁起』という古文書に

   『 ひかりごけ にて それを鎮めり』 とか言う一節があるとかいう話だ 」

 「 『ひかりごけ』? 何ですか?それ? 」

 「 う〜ん わしには よく わからん 三十後家は ヒーヒー 言わせとるがな

   は〜は〜 癖になって通ってくるんじゃよ わしのとこへ うひょひょ 」

 「 そんな事 言ってる場合じゃないですよ 旦那〜 」

 話は、どうもかみ合わない。言葉は、ついに途切れて、2人とも黙りこくって、息を
「は〜は〜」言わせているだけ。大の大人が2人も、すぐそばに息堰切ってへたりこん
でいるというに、まるで知らぬ顔の旅の商人は噂話に忙しい。中原の殿様が坂本の代官
の処に立ち寄るというのだ。なんでも、上田の代官が謀反を企てたというので、中原の
殿様が直々に成敗に行くとの事らしい。これはエライ事になってきた。上田の郷は、蛸
魚賊の墨六親分のシマである。

 「 出入りになる 」

城蔵はとっさに思った。
                  ★

 さっきの小者の案内に連れられて、旅篭へやってきた江島の親分と手下共。土間を
ノレン越しにのぞき込むと、血の臭いはするものの、羽方に斬られたという浪人者は
影も形も無く、築木がたった一人で小さな丸棒を握りしめ、小節を回しながら、腰を
捻っているだけであった。

 「 おや 築木の旦那 羽方の旦那や助駒のは何処へ行ったんだい? 」

江島の親分の声にも、築木はうわの空。

 「 まったくいつもこうなんだ 年中春猫! 獣医さんとこで取ってもらお〜か?」

 「 よ・こ・は・めっ  た・て・は・めっ 」

 「 それにしても いつからお前さん 空桶なんてする様になったんだい? 」

 「 え゛・・・・・・ 俺とした事が・・・・・ 」

マイクをポトリとり落として両腕をダラリと垂れ下げた築木の目が点になった。(・・)

 「 にっ 」

と笑ったかと思うと、築木の頭がパッカリと割れた。割れたそこから、

 「 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・・・・ 」

と、絵草紙がほとばしる様に落ちて行く。うず高く積み重なったかと思うと、それは
モロモロと崩れ、砂の様になって動きを止めた。築木は、信じる事を止めたのである。
人は皆「空桶」を信じて生きている。信じる事を止める事、即ちそれは

 「 生に終止符を打つ事 」

に他ならない。どんどん細かいかけらは崩れて、細かい微粒子になって飛び散ろうと
している。江島の親分は、「はっ」と気がついた顔をすると激を飛ばした。

 「 てめぇら 荒塩と漆喰を持ってこい とびっきり 急いでな 」

湿らせた荒塩を崩れた築木の砂の山にまんべんなく振りかけ、手桶で水とかき混ぜた
漆喰をかけてコネ回す。

 「 早くしろよっ 毒気がとびちらねぇうちにな 」

コネ回した漆喰を土間に残らぬ様に手桶に戻して、湿った土間の土も手桶に仕舞った。
酸化プルトニウムの様に次第に微細な粒子となって飛び散り、人々の肺の中に吸い込ま
れた後では遅いのだ。まるでチェルノブイリを塗固めたみたいに手厚く、町外れの廃寺
の境内に桶ごと塗り固めた塚をつくって封じたのである。何もそこまでしなくとも、と
言う方もみえたが、夜ごと

 「 殺生や〜ないけ〜 」

という声がした、とか傍らに寄っただけではらむ妊んだ娘が出たとかいう奇怪な出来事
が起こったのである。そのため「備後殺生石」と呼んで人々は恐れたのであった。その
後に須谷巣羅不上人という高僧がそれを焼き、封じた後、地蔵となし、人々の安寧を祈
らせたのであるが、この事は「大矢田水子地蔵縁起」に詳しいのでここでは触れぬ事と
する。





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