AWC 《女殺脂地獄》                  カラオケ救


        
#2477/3137 空中分解2
★タイトル (JHM     )  92/12/11   6:35  ( 85)
《女殺脂地獄》                  カラオケ救
★内容



 地獄の足音は寡黙である。高血圧は、【沈黙の殺人者】と呼ばれる。自覚症状は何も
無い。「酒・満肥・しお・運動不足」が四大危険因子。脳卒中や心臓病の危険が大層に
増す。先程までは、確かに微かに聞こえていた

 「タプタプタプタプ・・・・・」

という音さえ、はちきれんばかりになった今では聞こえなくなった。時折聞こえるのは

 「ムシャムシャムシャ・・・・・バグバグバグバグ・・・・・」

そして、赤子の泣き声と夫が怒鳴られる罵声。

 メゲずに夫は、昔のアルバムを何の風の吹き回しか眺めている。陶然とした表情で、
写真の中のホッソリとした美しい女に見とれている。

 「 あぁ・・・・こんな女と結婚していれば・・・・」

後悔は行き所を失って迷走する。実を言えば、女房殿のウン年前の御写真なのである。

 「 アンタっ!何見てんのよ!」

妻は先程から不機嫌だ。

 「 お前・・・・・本当に奇麗『だった』んだなぁ・・・・・」

付け焼き刃のお世辞は禁物である。が、咄嗟の事で誠に失敗であった。

 「『だった』とは何よっ!『だった』とは!」

哀れなるシモベは懇願する。

 「 いえ・・・・・今も大層に御美しくおわしまする・・・・・ヘヘェ〜・・・・・m(__)m・

耳半分に聞きながら、女房殿は塗り固める手を休めない。築35年。モルタル仕上げ。
おっとイケナイ。また、この口からこぼれそうであった。

 いつの頃からか、炬燵の前にデンと構え、「プクプク」という音響を立て始めていた
かと思うと「タプタプ」という弛みの音になり、張り詰めたせいか、その「タプタプ」
も消えて、まさに家の中心に「デーン」と位置を占めている。

 妊娠中は栄養所要量が著しく増大する。

 「 あ〜・・・・何でも美味しい!・・・・お腹の子のためよ・・・・子供のため・・

と拡張に拡張を重ねた食習慣は、出産後も一朝一夕には変わらない。子宮が復古して、
小さくなった分だけ脂肪が溜まる。しばらくして、食欲も下方修正されるが、それまで
の分がシッカリと蓄積される。

 優しい旦那様は乳母車を押し、ミルクを飲ませ、オムツを替え、フトンの上げ下ろし
までやって下さるので、運動不足は解消されない。従って、

 「タプタプタプタプ・・・・・」

の音声がして、やがて、それも消え、はちきれんばかりの勢いにて・・・・

 「 ドスコ〜イ・・・・・ 」

 振り向いた女房殿は、

 「 面倒見といてね・・・・・友達が砂かぶりのマス席取れたんだっていうから・・・・・

返事をする間もなく、マンションのドアはバタンと閉まる。赤子は無邪気なものだ。

 「 バブバブ・・・・・ブゥブゥー・・・・・」

ミルクをやるとおとなしくなった。

 する事も無いから、TVをつけた。某国営放送では相撲をやっている。赤子が興奮を
し始めた。

 「 バブバブ・・・・・ママァー・・・・・ママァー・・・・・」

桟敷に居るのが映ったかと思ったが違う。小錦と曙が大写しになっていただけだった。
改めて昔のアルバムをシゲシゲと眺めた。

 「 本当のお前を取り戻したいんだ・・・・あの頃のお前を・・・・」

夫はヨヨと泣いた。

 が、女房殿は帰ってこなかった。この日、新弟子検査に合格し、相撲部屋入りをした
からであった。「砂かぶり」の席が取れる訳なのであった。





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