#2459/3137 空中分解2
★タイトル (RMC ) 92/12/ 9 11:11 (134)
幻のストラトキャスター 11〈トラウト〉
★内容
★
−−翌朝の銀座、元作詞家はくしくも出勤時間が同じである
「虎人、お前財布をもっとるな?」
「あっ、そういえば−−」
「いくら入っておる?」
「5・6万ですかね」
「それがいかんな、よこせ」
「そ、そんな、だってクレジットカードだって−−」
「いいからよこせ、クレジットカードまで使わぬが、現金は授業料として頂いてお
く」
しぶしぶ虎人が財布を差しだした
「むふふ、それでよい。ほれ虎人、いつもこんな早朝に眺めていたろうが、あのカ
ラス
「あい変らずですね」
「今朝からあのカラスはお前のライバルじゃよ、あいつらより先に餌箱をしっけい
しなきゃいかん」
「なるほど了解しました、あとはなんか気をつける事ありますか?」
−−ビールをラッパ飲みにしている虎人
「調子に乗って飲み過ぎるなよ」
−−クラブのごみ箱の蓋をとり虎人が叫ぶ
「おおっタカさん!若鳥の立田揚げーっ」
「ああ、そこの店のは旨い筈だ。お、おい今食うな、ワシのも頼むぞ」
「正に狩りですね、ここは肉の宝庫だ」
「ああネズミも沢山おる」
「食えますか?」
「バカもの!それは乞食のやる事だ」
「違うんですか−−すいません、まだ初心者なもんで−−えっへっへ」
「困ったもんだ、それにやたらとそう……ものを見つけたとたんに食うな。それに
肉ばっかりだ、バランスを考えろバランスを、野菜はどした。
もう3・4カ所回ったら今朝はおわりだ。ファーストフードは昼、新鮮な酒は深
夜、わかったか」
「…………」
「おいおい虎人!聞えないのか、やたらと食うんじゃない!」
「えっ、あっ」
「次行くぞ!」
「よ〜し!」
すっかり満足をしてゲップをする虎人
「何がよーしだ、次は地下鉄の駅へ行き、新聞を探す」
「……何に使うんですか」
「ホームレスといえども、日経、読売、報知新聞ぐらいは読んでおくのだ、このお
調子者が」
別に調子に乗っている訳ではない、芯から虎人は楽しかった。
何日かその暮しを繰返しても、ホームレスつまり浮浪者、これが一般人が見下げる
社会の底辺だとはまったく思えないのだ。それは恐い程にストレスもなく快適な暮
しそのものなのである。
★
今夜は多少暖かいゆえか、焚火のかわりに、蝋燭を四方に立ててあり、その炎が
下方にある水にゆらゆらと映えている−−深夜の有楽城。
例によって二人はしばらくの間、瞑想を続けていた様子だ。
「どうだ虎人、ホームレスの暮しは?」
「文句なしです。タカさんの気持ち、いやホームレス稼業という事でなく、タカさ
んの言ってる気持ちがわかり始めた気がします」
「生きてゆく事のなにかが、少しはわかったかね」
「はい」
「虎人、お前がホームレスをやって何かをつかんだように、自分ひとりで高みに昇
れない時は、何かの手を借りるのだよ」
「なにをすれば?」
「なんでもいいんじゃよ虎人、それがプロレスでも絵を書く事でも」
「…………」
「なにかと同調する事によって高みに昇り、そこからおのれの想像力を見つけるの
だ、みつけた後にそれをしっかり自分の中に認知するのだ、わかるか?今のお前
ならわかるな?それがわしの言える事のすべてだ」
「−−はい、タカさん、いや羽鷹さん、感謝してもしたりない……」
「そんな事はいい、桃謙に会え!」
「桃謙?ギターを弾けって……何故それを−−」
「内緒にしておったが、昨日順子に会った−−」
「順子に?」
「わしがあずかっておると言ったら、どうしても会わせろと泣いておった。いい女
だ、よりによってお前に惚れるとはな」
「いや」
「いいんだ、素直になれ虎人」
「…………」
「あいつから桃謙の事はすべて聞いた−−行け!−−有楽城が寂しくなるがな」
「……タカさん」
「いいからいけと言っておるのだ、わしをそろそろひとりきりにしてくれんか。
会いたくなったらわしはいつもここ、遠くからお前をみておるよ」