AWC 幻のストラトキャスター 09〈トラウト〉


        
#2457/3137 空中分解2
★タイトル (RMC     )  92/12/ 9  11: 6  (190)
幻のストラトキャスター 09〈トラウト〉
★内容

                             ★

「とうとう笑子さん酔いつぶれて寝ちゃったわ、どしたらいいかしら?」

「珍しいな。しばらくそのままにしとけ、後でタクシーに放り込む」

「……電車なくなったら私の家に泊めてあげるわ」

「そうしてくれるか、有難う」

「笑子ちゃん、相当嬉しかったのね−−」

「ああ、あのコピーは賞をとってあたりまえだったよ。当然俺に頼んできたやつだ
 ったんだが、忙しいふりしてコイツにやらせていいかと了解をとった。
 しかし、いくらか大きな仕事だったんで、ダメだしが来るだろうと俺もきっちり
 書いていたんだ、それもいつになく出来がいいやつをね」

「−−−−」

「……次の日だったか、笑子が恥ずかしそうにみせたコピー−−
 顔にこそ出しはしなかったが、実は思いきり張り倒された様な気がした。
 先生と呼ばれたとたんに下り坂っていう事か、昔は憑かれたように−−というか、
 仕事を仕事と思わず、追いかけていたもんだが−−どうした事なんだろうな、そ
 れほど老体でもないのに、俺の書いたそれは生臭い上に、なにか、せこせこうじ
 うじしたものが、かさぶたみたいにこびりついていてな、つまり完全に負けたと
 思った。いまのコイツは俺が最初にヒットを出した時と同じに生き生きしてるよ」

「わかる様な気もする、私も元は……」

「ああ忘れてたがそうだった、タカさん全盛期のプロデュースだったな……」

「今では大切な思い出……」

「何でやめた?」

「歌手?」

「ああ」

「そうね、私はタカさんの“夢中”に引張られていただけっていう事かしら」

「スターにする事にも夢中だったし、女としてのお前にも夢中……」

「私のせい?」

「男の勝手だよ」

「あの人にとって私はあくまで手段、目的は違ってた−−」

「だから男の勝手と言った。お前アタマ良すぎたんだよ、もうちょっと馬鹿だった
 らタカさんと同じ目的でいられた、それのが幸せだったかも知れないな」

「私も目的が同じだって信じてたのねタカさん。私も最初はそうだと思ってたけど
 −−あの人家庭まで壊して私に向って来た……そんな事の後に私には何が残るの
 かしら?」

「タカさんも後で分ったんだろ、だから……こんな話はいいか。
 ところで桃謙知ってたっけか?」

「桃田さん?」

「ああ、久しぶりにこの前あった。順子の時のタカさんとおんなじ様な事やってた
 けどな、あいつなら大丈夫というか、器用に世渡りしてると思った。難しいな」

「でも、先生タカさんの方と同じ−−」

「ああ、その辺だけがしっかりタカさんの後継者だ」

「−−−−」

「器用の様で不器用なんだよ。俺ときたら白か黒かで中間がない、その割には白で
 も黒でもなくて不可解な色に煮詰ってる−−」

「……でも困ってない」

「いや、笑子もよく分ってるだろうが、仕事は一時の10分の1程か……実は笑子
 に給料払うのもやっとの状態でな、どうにもならずに腐りかけている−−」

「−−−−」

「桃謙が言ってたよ、もう一度ギター弾けってな」

「あら素敵!」

「冗談じゃない、俺バカにもその気になってな、ちょっと弾いてみたりもしたがダ
 メだ、よけい落込むだけだよ」

「−−−−」

「あいつに電話して一応断った、お前流一流の忠告だと受けとめるよってな」

「桃田さん、なんて−−?」

「忠告なんかじゃない本気だ、てめえなんかクズだとか死んじめぇだとかボロクソ
 に言われてな、反論さえさできずに電話を切られた」

「−−−−」

「はは最近俺な、置いてけぼりくらった感じがするよ、桃謙にもタカさんにも笑子
 にも、回りのやつがみんな立派に見える−−」

「そんな事−−」

「いやそうだ、それでいて何をしていいか分らない」

「タカさん怒るわよ、きっと−−」

「……会ったのか?」

「毎週会ってるの、地下道に……バーボンのボトルを……」

「ふ〜ん、そうだったのか」

「笑子ちゃん土曜日に行ってるでしょ、500円なんとかって−−瞑想?」

「聞いたのか?」

「ええ、タカさん笑子ちゃんを通じて貴方にも何か言いたいんだわ」

「イメージの高みに昇れか、いい加減にほっといて貰いたいな」

「あっ、いらっしゃい」

2人連れのお客が入ってくる−−順子が席をたつ

「順子、笑子を頼んでいいかな−−今日は帰る」

「えっ先生−−」

「今夜は少ししゃべりすぎだ、悪かったな」

「先生−−笑子ちゃんタクシーで送って……待ってるわ部屋で……きっとよ」

「……ありがとう順子、天使にみたいにみえるよお前、はは」

                                  ★

−−電話

「先生ぇ!」

−−笑子ちゃん!俺、桃田だよ、虎人どうかしたのか?

「先生、いないんです朝から!」

−−飲み過ぎで寝てんじゃないのか?

「そんな事今まで絶対−−」

−−ほっとけほっとけ、あいつの勝手だ。

「そんな社長−−だって仕事が−−」

−−けっ、自業自得だよ

 〆切りの原稿をいくつか残したまま虎人が仕事場に出てこないのだ、彼女があわ
てるのも無理はない。自宅に電話をしても留守番電話ばかり、桃謙プロに電話をし
て社長の移動電話まで追いかけたのだが、それも電源が入っていなかった。やっと
桃田から電話があったというのにこれだ。

「社長、叶の順子さんのところかも……」

−−おっほっほ、女に逃込んだとしたら更に救えねぇバカだ、ほっとけほっとけ

「あっあの」

−−切れた?困ってるのに大嫌いあんな人

……昨日遅くまで一緒に飲んで、いや、寝てたけど途中で目が醒めて……先生は
いなかった……順子さんが送るって言ってくれたけど、結局タクシーで帰った……
それから何が……?

 笑子はとりあえず原稿の依頼主すべてに電話をした。
そのうち笑子の代役でいいといってくれたところが2つ。ひとまず安心はしたが、
もう一件の作詞ばかりは謝るだけで、どうにもこうにも先方を怒らせてしまった。
 一応パソコンに向ってコピー原稿を書き始めようとは思うが、そんな精神状態で
は書ける筈のものも書けない。

−−うーん、先生困ったよー

 夕暮れ近くになって、やっと叶のママを捕まえはしたが、思い当る事があるのか
かえってびっくりされてしまい、彼女もそのまま店を閉め、どこかへ飛出したきり
連絡がない。
−−順子さん、きっとタカさんの居場所を探しているんだわ。鳥見サンにも電話を
して一緒に探して貰わなきゃ。

……そして一日がたち二日たち……笑子や鳥見の心配を知ってか知らずか、虎人は
まったくの行方不明状態となった。“叶”の扉も相変らず閉っており、順子からの
連絡もあれきりない。




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