#2450/3137 空中分解2
★タイトル (RMC ) 92/12/ 9 10:48 ( 78)
幻のストラトキャスター 02〈トラウト〉
★内容
★
「八丁目の御大!毎度すいませんな、保釈金なんぼでした?」
日比谷通りを走る作詞家のクルマ、助手席の人物は今朝新聞に出ていた例の浮浪
者タカさんである。
しかし身なりはどちらかと言えば作詞家よりよく、一見紳士とも思える風貌。ヘア
ースタイルこそ肩までの長髪だが、常時スーツにアタッシュケースを携え、不思議
にも財布には丸の内の部長クラスの小遣いが入っているようだ。
もっともあくまでホームレス。つまり家はないのだが、反面束縛はなく自由があ
る。つまらないサラリーマンより程度は上と言ったら、きっとタカさんは怒るので
あろう。
「多少なりとも世話かけてるんだ、少しはしょげたらどうですか?。
傷害がなくて幸いでしたが、地下街の店のガラス代は随分と高くつきましたよ。
この前みたいに裁判ざたまではご容赦願いたいもんですね。
それにその保釈金とやら、今まで直接返して貰ったという思い出はない」
「あっはっは、いや御大にわざわざお越し頂かなくともわしは問題ない。
それに保釈金は仲間がかき集めて、後日必ず笑子さんにお届けしていた筈ですわ」
「しかし、あなたがその現金を払った気配は一切ない。随分いい仲間と環境とやら
を持ちあわせてるもんですね」
「仰るとおり!逮捕されても私の腹が空かないうちにこうやって必ず誰かが出して
くれる、正に八丁目の御大もその我が良き友ですな」
「俺をホームレスと一緒にするな!」
「何を言っておる、一緒にしてあげて光栄だと思いなさい。作詞家というのはホー
ムレスとよく似ておる。しいて違いを言えば、作詞家は日々空想の詞に生きるが
我々はその詞を実践しておる。その分だけ作詞家より偉いとお誉めに預りたいぐ
らいぐらいのもんだ」
「またそれですか」
「大体な、君らは作詞家ごときのクセして自分を世間のはみ出し稼業と思ってるん
だろう、荒野を歩いている男1匹を気取ってるんだろう。しかし野宿も出来なけ
りゃ、テントも張れない。そういう甘ったれた連中を我々が何と呼んでいるか知
っておるか?」
「いいえ」
「アウトローには成りきれない、バンガローな奴らというのじゃ」
「はは叶わねえな。では巨匠とお呼びし、朝晩拝む事に致します。ところでどうし
たんです昨日は?」
「いやね、上野の連中がね、いかがわしい外国人が沢山やってきて浮浪者とおなじ
行動をするもんで昨今は暮しにくいとかで、銀座に大挙引越して来よりました」
「はあ?」
「ホームレスと言えども決ったショバと餌場がある事ぐらいご存じですな御大。
ひとりやふたりでしたら、歓迎致す所だが大挙来銀となると元締めのわしも黙っ
てる訳にはいかない、ちょっと交通整理をしなけりゃいう事で、今回は上野の森
にとりあえず帰って頂きました。限りあるマーケットちゅうんですか、なかなか我
々の暮しも大変とご理解下さい」
「はは管理社会の真似事ですね、あなたの信条の自由社会はどしたんですか?」
「今日のところは君、議論は避けておきませんか、ねぇ」
「はは、すぐそれだ。しかし−−時々あなたを見てるとうらやましくなりますよ」
「そうでしょうそうでしょう、一杯ご馳走致しましょうか?」
「いや気の抜けたビールは趣味じゃないですね」
「おお、それは残念。じゃそこの和光の角で降ろして頂けますかな、ああそうだ
タバコ恵んでくれんかね」
「はいはい……箱ごとどうぞ」
「はいは一回でいい虎人」
「けっ、20年前のセリフだぜそれ」