#2358/3137 空中分解2
★タイトル (WJM ) 92/11/14 22: 6 (115)
「17と心と」(上) /けい
★内容
「 17と心と 」
−いつのまにか−
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嫌なことがあるとすぐ泣いたあの頃
悩みとはいったい何だったのだろう
悲しみとはいったい何だったのだろう
そうだ欲しいオモチャが買って貰えなかった時だ
そうだ野球中継で好きなテレビが見れなかった時だ
いずれの時も涙がこぼれ落ちた
なんてちっぽけな 悩み 悲しみ
時計はいつも右回りさ
全ては過去の思い出であり
そう切ない映画のようさ
今撮影中の映画を数年後に見れば
どんな映画になっているだろうか
いったい何を感じるだろうか
今こぼれ落ちた涙の意味をハッキリと
感じる事が出来るだろうか
いつの間にかこんなになって
頬を伝う涙の味を噛みしめながら
僕はすぐ前の一歩を踏み出そうとしてる
不安は当然あるさ 何もみえないんだもの
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一度ため息をつき、息を吸って大声で叫んだ。
「こんな家なんかでてってやる」
それに応ずる言葉はこうだった。「勝手にしたら」しくしくと泣き声。
涙が出そうになったが、唇を噛みしめそれを抑える。部屋に向かって足を進
めた。後ろから聞こえる腹立たしいニュースキャスターの声。
小さな鞄にバイトで貯めていた数万円の札束が入ったサイフとその他、必要
最小限な物を詰め込む。玄関のドアをワザとらしく大きな音を立ててしめた。
数秒玄関前に立ち止まっていたが、一度後ろを振り返りやがてため息と共に
走りだした。
昼間は近くのゲームセンターで時間を潰すことにした。夜はどうしようかと
いろいろと考えるのだが、これといった決め手が無いので、しょうがなく
夜の事は夜になってから考えよう、そう自 分に言い聞かせていた。
ゲーム音があちらこちらで飛び交うここはとてもうるさい。
にぎやかな場所では、むしゃくしゃした気持ちを幾分紛らわすことが出来る
のだが、ふと我に帰った時に感じる空しさ寂しさは静かな場所の数倍だ、そ
う痛感した。それでもコインをいれて何かに打つ込もうと頑張っている。
ピュンピュンとボタンを押す度に生まれる画面上のミサイル。
敵がそれに当たると、雑魚ならばポンと軽い音がして爆発してしまう。
ただひたすらボタンを連打しまくった。それにともなって軽い爆発音は絶え
ず聞こえる。みんなみんな爆発すればいいんだ。
どのぐらい時間とお金を使ったか分からない、しかし随分と流れたことは確
かだ。外に出ることにした。冬の風は驚くほど冷たく痛かった。
数歩行けば見つけることの出来る自動販売機でホットコーヒーのボタンを押
す。ガラガラとでてきたそれを懐にいれてカイロ変わりにし、どこへ行くと
もなくただ足を動かした。自分の後ろ姿がどんなだか想像できる。
きっと無気力な今にも死にそうな老人のようなのに違いない。
そう思うと一層無気力なそれに変わって行くようだった。
あまりの寒さにコーヒーの缶を頬にあてる。
押し続けると熱いので、着けては離し着けては離しのような事を繰り返す。
それで頬は熱くなったのだが、残りの全ての部分は痛いほどの風が相変わら
ず吹抜け突き刺さっていた。歯がゆさのため熱いはずの缶を頬に押し付け続
ける。離したときは軽い火傷状態になっているのか、ヒリヒリと頬が痛むよ
うになっていた。
友達の顔が脳裏に浮かんだ。首を不自然なほどふった。
心の中からのミサイルはコイツらに向けられ、すでにもうボタンは連打され
続けている。
ネオン街の裏通りはとても寂しく人通りがまったく無いところだった。
ガタンという音がしたので振り返ると野良犬にジッとにらまれている。
犬をにらみ右足でパンッと地面をうち威嚇的態度をとって見せるのだが、敵
はあたかもそれがどうした、そう言ってるかのように反応を表さない。
ケッ野良犬にまで馬鹿にされなきゃならねえのか、腹立たしさは乾燥した空
気のせいで異常なほど燃え出した。近くにあった空かん入れからガラスビン
を取り出して正確に当てるつもりで投げつけた。
惜しくもそれは外れたが派手にガラスが割れる音がして犬はやっと逃げだし
た。畜生のくせに。
ガラスの破片を残してまた宛もなく歩き出す。辺りはもう暗くなっていた。
雨でも降らないかな、コンクリートの建物の隙間から空を見上げるのだが雲
一つなく晴れていて三日月がみえる。ため息の数は先から数え切れない。
次は寝るところだな。帰ろうかという思いは、心のどこを探してもおそらく
見あたらないだろう。時計をみると9時だった。順当に寒さは増して来る。
いつのまにか、ざわついたこの通りの中で自分と同じ顔をした人を見つけよ
うと目を動かしていた。先から何度も同じ所を回っている事にやっと気が付
いてここを出ることにした。
冷気だけが支配する風はひゅうひゅうと何か恨みでもあるかのように攻撃し
てくる。コートに身を縮めながら、小さい時に聞いたことのある太陽と風の
話を思いだした。風が負けるのも無理ないよな。この時初めて家に帰ろうか
という思いが心をよぎった。しかしまた不自然に首を振る。どうして帰りた
くは無いか。そんな事は簡明だった。あれ達が大嫌いだからだ。
噴水で座るところをみつけ腰をかけた。じゃあじゃあじゃあという水音は今
の心には心地よかった。帰るところがなくこれからの事を考えると、ただた
だ心はうつ状態になるばかり。
もやもやとしていて、それでこの水音に聞き入っていた。
涙がこれぐらい出れば気持ちいいだろうに、そう思った。
目が死んでいる、まさしくそうだろう、視線は流れ行くたくさんの人々に置
かれていたが、実際は何も見えていない。心は暗く果てしなく広い場所に置
かれていた。何も見えない、深く深く音一つ聞こえない闇だけの世界だった。
時間がどのぐらい過ぎたのかはまったく分からない、随分かも知れないしほ
んの少しかもしれない、ただ人通りは前よりも減っていた。
ピカピカと派手なネオン、パチンコ屋、このネオンが今は目障りだった。
また寂しい裏通りを歩いていた。
けい