AWC 場所固定>月面  G船上のアリア 下     木村ガラン’


        
#2321/3137 空中分解2
★タイトル (AJC     )  92/10/28  22:56  (152)
場所固定>月面  G船上のアリア 下     木村ガラン’
★内容

を創作する ←ここまで題なのだ。       木村ガラン


 −−みんな楽しそうに踊ってるだろ。

 とミロが言った。
 G船上では毎夜、音楽会が催されている。曲目は無論バッハ作曲の「バッハで
かっぽれ」だ。もとい。「G線上のアリア」だ。

 うむ。ギャグに走るのはよくないぞ。こんなに真剣なのになぜお笑いにしてし
まうのだろう。まったく俺には愛想が尽きるね。もう本当に駄目なのかい。

 −−本当だね。とっても楽しそうだなあ。

でも、簡単に手が届く
ものに触れないって言
うのはどうだろう。プ
ラトンは間違っている
のだろうか。

 −−どうだい。

 持ち主の少年が言った。彼は鼻高々だ。あの星もこのシャトルも自分のものと
いう感じだ。そうさ宇宙はみんな、君のものだよ。いや、いやみじゃないんだ。
本当にそうさ。

 シェー。不意に立ちあがりディスプレーの前で俺は例のポーズをした。イヤミ
といったらこれしかない。ちっとも恥ずかしくなんかないぜ。へっちゃらさ。ゴ
ジラだってやってる。
 その際、俺は肘が当たって飲みかけのウイスキーのグラスを倒した。琥珀色の
液体はキーボードを濡らした。俺はそれを早く拭かなければならない。水分が蒸
発するとベトベトしてしまう。(ここの文章はエコーをかけてね、担当者さん)

 −−あ、ばくはつした。

 少年は言った。

 だけど、俺はそれをしないんだろうな。えーと、キーのぬふたてちとつが濡れ
てしまった。だから、これからはこの文字を使わないで文章を書けばいいのさ。
 無気力ってこういうことなんだよね。まったく我ながら理解しがたいことだな。

 −−宇宙船爆発しちゃったよ。

 少年は振り向いて続けた。

 うむ。少年二人じゃわけわからんな。名前を付けてやろう。中学生の君は青木
オレオ君十三才。もう一人の君はジャクソンファミリーに加えてあげよう。ガブ
リエラ・G・ジャクソンだ。ミドルネームはガンダムだよ。かっこいいだろ。歌
って踊れるニュータイプを目指せよ。

 −−なんだってガブリン!

 とオレオ君は鋭く叫んだ。ガブリエラを望遠鏡の前から引き倒すと、ファイン
ダーを覗き込んだ。

 さすがはオレオ君、さっそくニックネームを考えたか。ガブリエラは長くて呼
びずらい名前だから、コンパクトにガブリンか。いやー、若い子は発想が柔軟で
いいねえ……なんちゃってぇ。でも、今度は両腕で輪をつくって指先を頭に付け
てがにまたにする例のなんちゃってポーズはやらないよ。ウイスキーこぼしちゃ
ったからじゃないぜ。さっきとはまるで状況が違う。その違いが分からない奴に
はこの話を読んでほしくないね。

 −−本当だ、消えてなくなっちゃってる。

 その声にまわりを囲んでいた天文同好サークル「銀河ステーション」のみんな
は驚いた。「なんてことだ」「信じられない」「アンビリーバボー(れっきとし
た日本人)」等の声が漏れる。

 −−わたしに見せてくれ。

 会長ビーンが乗り出し言った。

 −−会長お願いします。

 参謀ミロが重々しくうなづきながら言った。会長はおもむろにポケットから特
殊な布を取り出し接眼レンズを丁寧に拭いた。そして覗いた。

 −−いかがですか

 ガランがうわずった声で言った。

 −−あわてるな、まだ覗いたばかりだ。

 ミロがガランに注意した。ビーンは自由な左目を驚きで見開いた。

 −−−ほんとうだ。消えてしまってる。

 「なんてことだ」「あんなにたくさんの人が乗っていたのに」「そうだ、俺の
友達の知人があのシャトルに乗ってたはずだ」「ええっ」「それはたいへんだ」
「なんてことだろう」

 −−なんてことだ。木星も爆発してしまったのか。

 と会長は言った。

 いかんな、ギャグになりかけてないか。木星まで爆発させるのやりすぎかな。

 ええ、それはもっとたいへんだ。衝撃波がやがてやってくる。この月面基地は
大丈夫だろうか。航行中の他のGシャトルは急いで惑星の陰に避難しなくてはな
らない。間に合うだろうか。

 −−木星はなんともないよ。

 ガブリエラが怪訝な顔で言った。

 −−会長! 木星は無事です。

 この会でいちばん大口径のシュミットカセグロン望遠鏡を所有しているミロが、
愛機で木星を捉えた。

 遠くの宇宙空間にほおりだされた人間たちがすぐそこに見えている。いまはま
だ生きてる人も多いようだが、やがてみんな死んでしまう。いちばん近くのタイ
タンから救援隊を大急ぎで出しても、七日はかかる。そんなにもつはずがないん
だ。

 会員たちは散り、それぞれの望遠鏡で目標を捕捉した。みな無言である。静か
に人間が死んでいく様子を見ている。彼らは絶対に助からない。でも、もうしば
らくは生きている。オレオは覗きながら痒くなったお尻を宇宙服の上から掻いて
いる。会長は新しいモータードライブのことを考えている。ガランはこみあげて
くる笑いを噛み殺すのに必死だ。

 ファインダーの中では、宇宙服を来た者もいるが、ほとんどが華やかな夜会服
に身を包んでいる。ある者は恋人とはぐれ反対方向に遠ざかっていく。そこらじ
ゅうに飛び散った真っ赤な液体は、凍りつき太陽光を反射して煌めいている。そ
れは蟹座ガス状星雲のように美しい光景だ。ある者はパトーナーとしっかり抱き
合ってクルクルと回転している。空気抵抗がないから死んでも回り続けるんだ。
その様子はまるで踊っているようだ。彼らの舞踏会はまだ続いている。

 まあ、遠くのことだからいいよ。見殺しでいいんだ。せいぜいたくさんの人に
彼らが死んでいく様子を見ててもらいましょ。こんなエンターティメンとは滅多
にないからね。これからしばらくは退屈しなくてすみそうだ。

 アフリカで飢えて死んでいく子供たちを宇宙葬にしよう。遥かな宇宙へ彼らを
静かに送りだそう。外壁はみんな透明の強化プラスチックにして中がよく覗ける
ようにしよう。その船を餓死船と名付けよう。約してG船だ。そして、俺たちは
彼らが死んでいく様子を楽しもう。そうすれば、彼らの死が無駄ではなくなるか
らね。

 きみを見つけることができ
て本当によかった。すれ違っ
たまま一生を送ってしまうか
もしれないと思っていたんだ。
間に合った。もう少しで手遅
れになるところだったんだ。

 そして、以降一週間、望遠鏡が飛ぶように売れた。こんなに売れたのはハレー
彗星ブーム以来だという。高橋望遠鏡店店主はほくほく顔でムーン銀座に通う。

 少し歪めすぎだったかな。今回もうまく伝わらなかったか。苦笑。

                             終




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