#1953/3137 空中分解2
★タイトル (ZQG ) 92/ 7/17 4:22 (137)
家には四輪自動車が無いんだ。(3) 【惑星人奈宇】
★内容
***** 雨が降るとは *****
空には雨雲が出てきていた。「ひよっとしたら雨降りに成るかも知れないなあ」
などと冗談を言いながらも、予定通り有料道路に入ってトンネルまで行くことにし
た。「じゃあ! トンネルの所でまた逢いましょう!」と言って安男と安子は手を
振りながら自動車に乗って行ってしまった。
残された春男は「トンネルまでは上り坂で辛いけど、その後は下り坂で楽だ。」
と気を取り直し自転車に乗った。トンネルの所が丁度峠に当り、そこまでは坂道で
ある。急な坂道をぐねぐねと方向転換しながらよじ登り、更に料金所からも長い坂
道をぐねぐねと登って行った。自転車ではとても一直線には登り切れなかった。
坂道をゆっくりと登って行った。幸いなことに自動車の通行量が極端に少なく、出
会った自動車は数台だったでしょうか、ほんとにゆったりした気持ちで道路一杯に
使用してぐねぐねと登って行った。
鳥達が「ちっちっちちち ほおおおっけ ほおっけ」と鳴いて居た。
春男は安男君等が待っているトンネル入口に向かってペダルを回し続けた。
自転車にはかなりきつい上り坂である。ぐねぐねと方向転換しながら道一杯に登っ
て行きました。いくら低速用のギヤにチェンジしてもとてもトンネルまでペダルを
回し続けられるものでは有りません。とうとう途中で自転車から降りて仕舞いまし
た。春男は額から流れる汗を拭いながら暫く景色を見ながら休んでいました。
「何て気持ちがいいんでしょう!」、そよそよと吹いている風がとても爽やかで
した。このような気持ちの好い所で一日でも住んでみたいなあと思いながら、でも
あっははああああ! とてもこの様なことを考えている時では有りません。空は完
全に黒雲に覆われてしまいました。口笛を吹いて見ましたが暫くは音が出ませんで
した。
再び春男は自転車に跨り登り始めました。時々歩きながらのろのろと登りました
。曲り角を過ぎて直線道路に成り、辛いなあと考えながら一所懸命にペダルを踏み
回わして進みました。前方に何やら看板が見えます。何だろう! こんな山の中に
何の看板だろう?と思いました。もう春男は疲れ切ってしまい歩いて登りました。
「何だろう!」と思いながら一歩一歩近付いて行くと「熊に注意!」と書いてあり
ました。「ひやあああ この辺には熊が出るんかあ!これじゃあ! とてもここで
キャンプば出来無いなあ!」と思わずには居られませんでした。
トンネル入口に着いたときには、更に厚みを増した雲が空一杯に広がっていて風
には冷え冷えとして涼しさを感じさせられた。春男は「やああああ 皆さん こん
にちは」と笑いながら挨拶を言った。安男等も笑いながら春男を迎えた。
安子は「春男ちゃん おにぎりと奈良漬 それに永平寺近くの店で買った草餅
それにお茶 」と言うと安男も「ジュースそれに缶ビールも有るざ」と
言って春男を暖かく迎えた。「この様子だと何処かで雨に遭うかも知れないなあ!
雨降ってきたらどうする? 春男ちゃんは濡れながら帰るか?」と心配顔で春男に
尋ねた。「雨が降ったって平気だって!大丈夫だって!今は夏だから!」と言って
春男は笑顔で答えた。
「せっかくここまで来たのだから、トンネルを抜けて坂道をずっと下って行き、
そして高田から158号国道を通って帰ろう」と春男の主張どおりに決った。
山の天気は変わり易い、 おにぎりやビールを飲んでいるうちに、今にも雨が降
りそうに成り風には湿っぽく肌寒さを感じさせられた。トンネルを抜けて割合急な
下り坂をブレーキをかけながらゆっくりと春男は下って行った。とうとう雨降りに
なった。路面はみるみるうちに濡れ道路は川のようになり始めた。どうもいけない
!自転車のリムを押えるブレーキが滑べって利かない。不安になりながらもブレー
キに力を込めて締めて自転車に乗り続けていた。
この時前方の曲り角辺りに自動車が登ってくるのが見えた。春男は急いでブレー
キを更に強くかけたが、自転車は止まらない! どうすることも出来ずに自転車は
するすると下って行った。「危ない 危ないなあ このままでは・・・」と思
いながら曲り角に近付いて行った。何も知らない自動車は水しぶきを上げながら角
を曲りこちらに向かってきた。春男の自転車は遠慮無く滑べり落ちて行った。
「あああああっ あああ」と思ったが、自動車は通り過ぎて行った。と思う間もな
く目の前は急な曲り角であった。勢いを付けてしまった春男の自転車は「ああああ
ああ あああっ」と思う間もなく山の側面に乗り上げて仕舞った。春男の体は宙に
舞い上がり地面に落ちた。
目からは汗だか涙だか解らぬ雫が滴り落ちていた。命だけは助かった。良かった
! 良かった! と思いながら起き上がった。
雨はざあああっと間断無く降り続き春男は完全にびしょ濡れに成ってしまった。
春男は集落までの急な下り坂を自転車にブレーキをかけながら歩いて下った。雨の
雫がひっきり無しに頭から流れ落ちた。目が霞み時々顔の雨水を手でぬぐい去った
。一台の自動車が水しぶきを跳ね上げながら楽しそうに通りすぎた。雨は遠慮無く
降り続いて居た。春男は歩き続けた。春男の頭にふと浮かぶことは「雨に打たれな
がらの惨めな姿を誰にも見られたくない。」ことであった。
でも実際に雨に打たれてる時の気持ちは良かった。気分爽快であった。
ここの集落から高田まではゆるやかな下り坂であった。自転車にのって全くペダ
ルを回すことなく進んだ。安子ちゃん等は何処に居るのだろうかと思いながら、足
羽川にかかる橋を通り158号国道を福井に向かって進んだ。雨は小降りになって
いた。ものの300メーテルも進んだろうか、軽食店駐車場で手を降っている二人
連れが見えた。 おおおおう ひよっとしたら あれは? やっぱ紛れもない安男
と安子であった。
「春男ちゃん どうしたんだ その格好は・・・」と安男が驚いて言うと、安子
も「ズボンと! それにシャツも! 泥だらけ! アッハハ 転んだの?」と心
配顔で言った。「アハハハハ 面目ない 転んでしまったよ。雨のためにブレーキ
が利かなくなってしまって!」と言うと、安男と安子は「トンネルを抜けた途端に
雨が降りだしたからなあ! あそこは下り坂であったから・・・でも転倒だけで済
んで良かったよ!」と口ぐちに言った。
ここでジュースなどを飲んだ後再び出発した。
福井平野に入った頃には雨は上がってしまっていて所々には晴れ間も見えた。
*** 梅雨の季節 ***
サイクリングから一週間が過ぎた。春男は何時ものように会社に自転車で出勤し
た。更衣室で着替えをしていると、安男が「よおう おはよう」と声をかけてきた
。春男もおはようと挨拶を返した。「今度海にドライブ行かんかあ? そして海岸
でキャンプをするんだ! どうだあ?」と話しかけてきた。 春男は「キャンプか
!それは面白そうだなあ 勿論行くよ。」と顔を綻ばせて答えた。
ちよっと向こうでは安子がブラ一枚になって着替えている。あついは・・・いつ
もそうなんだ! 俺という男性が近くに居るのに・・・全く仕方のない奴だ。春男
はゆっくりと着替えをしていると、明子主任が出勤してきた。安子は「昨日のグラ
タンは美味しかったですう! 特に貝と海老の味が美味しくて、どうも有難う御座
いました」と山田明子主任に話しかけた。山田明子は「少しは料理の研究をせんと
あかんから」などと言ってにこにこと春男にも聞こえる声で話していた。
春男は着替えを終え仕事に向かった。「でもいいなあグラタンかあ 今度料理の
本を買ってきて作ってみようかなあ」という考えが頭に浮かんだりした。 昼食後
安子がテレビを見ていたので「今度 安男君と海にキャンプに行くんだあ 一緒に
行かんけえ!」と話しかけてみた。安子は「考えておくう! 山田明子主任も誘っ
たら好いと思うけどなあ!何しろ彼女!料理が上手だから。」と答えた。「それに
今はまだ梅雨時でしょう! だから梅雨が明けないとねえ!」と付け加えた。
確かにそうだ。まだ7月の10日だものなあ!梅雨が明けないとなあ・・・と春
男は思い直した。それにしても浜辺で波の音を聞きながら夜明けを待つって・・・
ううん後だ!後にするのだ!キャンプのことを考えるのは後にするのだ!。
夏は暑い! 疲れがたまり易いのだ。
帰宅後 シャワーを浴びてエアコンのスイッチを入れた。
ビール ビールだ! ようしっ!夏の蒸し暑い日はビールだ! ビールを飲もう
と考えていたが、エアコンで涼しさを感じて来ると、うううん どうしよう!ビー
ル飲むのを中止しようかなあ!という気持ちに変わり、春男の心は「あはっはあ!
中止だ ビール飲むのを中止だ!」と春男の口につぶやかせてしまった。
*** *** *** *** ***
「えっ! 自動車を買わないのかって! 」
ほんとは自動車! 買いたいと思っています。
でも 今のところ必要無いんです。
***** 完 *****