#1952/3137 空中分解2
★タイトル (ZQG ) 92/ 7/17 4:20 (169)
家には四輪自動車が無いんだ。(2) 【惑星人奈宇】
★内容
***** サイクリング *****
とうとう日曜日に成った。春男は何時もより早く起床し、六時には朝食を食べ始
めていた。薄曇りで良いサイクリング日和に成りそうだった。彼らが来る前に近く
を体慣らしの為に走るつもりであった。朝から薄曇りだとは気分がいいと思いなが
らも、念のためにラジオ放送からの天気予報にも注目していた。降水確率は10%
だと放送され雨の心配は皆無に近いなあとサイクリングに自信を感じるのであった
。
9時頃になって安男と安子二人は安男の自動車に乗って来た。安男に「今日はサ
イクリングだろう? 自転車はどうしたのだ」って聞くと、「それがさ 安子ちゃ
んの自転車を自動車の屋根に乗せられないんだよ! つまりこの自動車には自転車
を据え付ける装置が無いんだ。」とつれない返事が戻ってきた。「何だよう! そ
れでは自分が一人でサイクリングして君達は自動車でドライブか!それでは少し酷
すぎるでは有りませんか?」と春男は抗議した。安男は「御免 御免 春男がサイ
クリングに疲れたら乗せてってやるから安心していいぞお!」と弁解しながら得意
げに言うのである。
春男はちよっと腹立たしくも感じたけど「俺さ 競輪の選手の様に後ろに自動車を
従えて一度はツーリングしてみたいと思っていたんだ!嬉しいぜ 安男君。」と無
理に笑顔を作って言った。でも実際は安子ちゃんとのサイクリングを楽しみにして
いたので残念な気持ちは少し残った。
春男は「今日はサイクリング日和に成って良かった」と言いながらも心の何処か
に残念な気持ちが残っているらしく時々に大きな不協和的な声を上げて「あわっは
は ひひふ へっぱ」などと独り言を言って体調を整えようとすることもあった。
春男には「大体さ!九頭竜川(くずりゅうがわ)の自転車道路を通って東古市近
くにある永平寺役場辺りで安男の自動車と待合せをすれば、ゆったりしたサイクリ
ングを出来る予定だったんだよなあ。それが何だよ このざまは・・・・・。」と
もう忘れなければ成らない考えが頭の中に発生したりしたけど、奇麗に忘れること
にした。
「安子ちゃん ひゃああああ 凄い! 沢山の人々があい釣りをしているざあ!
皆真剣な顔してじいっっっと釣竿を支えているなあ! 安子ちゃん あい料理好き
か?。」「勿論ですう わたし あい 大好きなのう!。」「今度安男君らとここ
ら辺りであい釣りをしたらさ!捕れたあいをすぐ焼いて食べるのさ! きっと頬っ
ぺたが落ちるぜ!。」「それじゃあ 楽しみにしてますまう! ここから見ている
と釣り人さん達 ほんとに真剣な顔つきで恐いみたいだわ!。」「ほんとはさ 女
性が釣りをしている所に来るとさ! 気が散るでしょ! だから釣り師には嫌われ
て居るのだとさ!。」「ところで春男ちゃん あい釣り上手なの?。」「 俺はさ
昔は釣ったことあるけど、最近は食べることだけなんだ。」「 簡単にあい釣り出
来るんでしょ!。」「それはさ!あい釣りの許可証が必要になるけどなあ 安男君
持ってないかなあ! 今度きいてみるわ。」「 そりゃあ 楽しみだね 春男ちゃ
ん!。」
「もっと近くに行って見ましょうよ!」と安子は言って自転車を自転車道の端に
止めて、川縁(かわぶち)の方に歩いて行った。そして「ひゃあああ うひゃああ
ひやひやひやあああ」とか歓声を上げながら釣り師の近くをキョロキョロと歩きま
わっている。釣りの合間に川端で休憩していた釣り師が安子に「何をうろうろして
居るんや あい見たいんかあ? 」と声をかけてきた。安子は頷いてにこにこして
居ると、釣り師は「ここのおと缶の中に居るから見いや」と応じてきた。安子はふ
ひふひと喜びながら水に中に入って行った。水深20センチ程の所におとり用のあ
いを泳がしてあるおと缶があった。丸いおと缶の上面は網状の巾着の紐で絞れるよ
うに成っている。安子は揺らぐ水面の中でオリーブ色のあいがぐるぐる泳ぎ回って
いるのを見て感動してしまった。「うひやああ おおううう 泳いでいる うわは
はは いやややあ 大きい 大きいよ!」などと言いながら、あいの数を数えてい
た。水面が揺らいで数えられそうに無い。それでも暫くは数えようと努力して眺め
ていた。暫くして諦めたのか戻ることにしたようだ。安子は少しうわずった様な
声で「ありがとう」と釣り師にお礼を言った。そして曲げていた腰を伸ばし歩こう
として向きを変え足を一歩前に踏み出した。
揺らいでいる水面をじっと見て居ると、平行感覚にも揺らぎのようなものが発生
し易いのである。安子が腰を伸ばし歩こうとすると体はふらふらっと傾いてしまっ
た。運の悪いことに川底の石は水垢で滑べり易く成っていた。
ひやあぁぁぁぁぁぁあっ ! ああっいてえぇぇぇぇぇぇぇえ !
「ねえちゃん! 川底は滑べり易いから気を付けねえ! あはははは はっ!」と
言う声を耳にした後、暫くして起き上がった。安子は腰を少し打ってしまったよう
である。尻を撫でながら顔を歪めて今度は慎重におそるおそる岸に向かった。丁度
川岸に到着してこの様子を見ていた春男も思わず「ははははは ははは」と笑って
しまった。暫く休んで春男と安子は再びサイクリング道路を松岡に向かって進んだ
。草村からは、ギギギギイッ ギッギッギッ カカカ ギギギギイッ ギッギッと
葦切りが鳴いている。川が瀬に成っている所では「シャアアアアア シャアアアア
シャワシャワシャワ」と音がしていてうるさいくらいであった。安子は「この辺り
でキャンプしたら夜やかましいでしょうねえ! 鳥達と川の流れの音がこんなに大
きいんですもの!」と言った。春男は「うん 結構やかましいなあ! でも鳥は夜
寝ているでしょう!心配要らないよ」と応えているうちに、向こうに鉄橋が見えて
きた。
二人が並んで大きな道路の橋桁の間を通るとき、安子は「ここらでキャンプする
のも楽しいんじゃない? 丁度橋が屋根の役目もしてくれるし・・・水は川から取
れるし!」と顔を輝かして言った。「それゃあ 好いよ ! でもここは特等席だら土曜日曜日は無理と違うか? 安子ちゃん昼間から席を取っておいてくれるか!
それなら話は楽だよう!あはははは ははは、それに 蚊や毒虫などが出てくると
さ! 絶対蚊取り線香は欠かせないと思うな!」。
鶴松橋の所で堤防に上がり、川沿いの小道を東古市に向かって進んだ。ここら辺
は古い家並が続いていて情緒があるんだが何処からか匂いの漂う箇所もあった。
春男は「臭いなあ あははは」と笑うと、安子は「くさい 臭い! タイムスリッ
プしたみたいで気が遠く成りそう!」とか「わたし喉が渇いたよ! 缶コーヒー飲
みたいよう。」と言って大通りにハンドルを向けた。道端に自転車を止めてコーヒ
ーを飲んだ。 通りには自動車がひっきり無しに通っていて自転車には少し危険
かも知れないなあと感じた。それで春男はこの大通りを避けて山沿いの小道を通り
安男君の待っている東古市に行こうと思い安子に提案した。安子は快く受け入れた
ので、今度は山側の小道に向かって自転車を進めることにした。道路の横には電車
の線路が通っていて、家の前などには洗濯物が干されてあった。
安子は、家の前で子供連れの親子が仲良く遊んでいるのを見て、にこにこしなが
ら時にはウインクをして通りすぎたようであった。
安男のお蔭で3日もかけて作った計画が水の泡に成ってしまった。
春男はしぶしぶと意を決したかのように安男に向かって「それじゃあ君達は自分の
伴走車だよ!それでもいいんか?」と念を押した。「勿論だよ!春男君を見守りな
がら、安子ちゃんとドライブするよ! なっ!安子ちゃん!」。安子は二人のやり
取りに笑いながら「ここから永平寺までは何キロメートル? 春男ちゃんさえ良
ければ永平寺門前で休憩にしても好いんでは無いかあと思うけどね? それに お
にぎりや奈良漬も有るしい! 今日のはとびっきり美味しいんだあ!」と応じた。
春男が「そりゃあ 永平寺近辺で休憩に異議ないさ!安男君! 確か永平寺まで
ここから15キロメートルくらいでしょ! サイクリングとしては丁度好い距離だ
ぜ! だけど東古市から上り坂に成るからなあ! あそこから苦しく成るわあ。」
と東古市からの上り坂に不安を感じながら言った。
「心配しなくて好いって! 春男君の様子を見て途中で休憩してもいいし、ある
いはレストランに入って蕎麦を食べても良いではないか! 全く心配要らないって
!」と安男は鷹揚に構えて喋った。
そろそろ10時近くに成って、春男は自転車に跨り、安男と安子は自動車に乗り
込み出発した。
春男は後ろにガード用の自動車が控えていることに気を良くし、ずんずんとスピ
ードを上げた。後の自動車を引き放そうと力一杯ペダルを回転させた。かなり速度
が速くなって来て、ペタル回転を止め後ろを振り返った。うおおおう安男の自動車
がぴったりと後ろに居た。気分が高揚して手を上げて、再びスピードを上げるため
にペダルを全力で回転させた。でも最高速度を維持できるのはせいぜい5秒位で後
は自転車の惰性に任せて鞍に乗って居るだけであった。惰性に任せていると、ぷっ
ぷっぷっと安男からのクラクションが鳴った。何の合図かなと思ったが構わずに乗
り続けた。今度は「ぷっぷっぷっぷっ」とクラクションが鳴った。うるさいなあと
思いながらもペダルを回し続けた。今度は「ぷっぷ ぷっぷ ぷう」と鳴った。ど
うも安男等は自転車に乗っている自分をからかって居るんは無いかという疑問も出
てきたがペダルを回し続けた。ペダルを回し続けているうちに疲れてきた。あああ
自動車はいいなあと言う考え思い浮かんだが、あの自動車の中の二人は何をして居
るのだろうという考えも沸き上がり、後ろを振り返って自動車の中を覗き込むこと
にした。
二人は何やら食べながら話しているようであった。一体何を話しているのだろう
! 何を食べているのだろう! もう一度後ろを振り返ってみた。今度は「ぷっぷ
ぷっぷっぷっ ぷううぷっ」と鳴った。春男はおかしさを感じてしまい後ろを笑い
ながら振り返った。安男と安子は窓から手を出して手を振っていた。春男は手を高
々と上げて応えた。
自転車に10分も乗り続けていると疲れてくる。割合ゆっくりとペダルを回転さ
せて体力回復に努めた。暫くして疲れが取れてくると再び片手を高々と上げスピー
ドを上げた。でも最初のようには速くペダルを回し切れなかった。
田舎の道は、日曜日であることも手伝って交通量は少ない。ちよっと暑いのは残
念だがサイクリングには最適であった。
東古市に近付くに従って自動車の通行量が増えてきた。安男君の自動車の後ろに
はすぐに自動車の列が出来てしまった。反対車線の自動車が無くなるのを待って後
続の自動車が爆音を轟かせて我々を追い越して行った。少し危ないかなあと思いな
がらも進むうちに、春男が休憩に良い所だと考えていた東古市近くにある役場はも
う近くになった。私達は後続の自動車のことを気にもせずにゆっくりと進んできた
けど、幾分後続の自動車に迷惑をかけているかなあとも思っていた時だった。安男
君の自動車が・・・あんなに約束していた安男の自動車が・・・あああああ何と言
うことだ!プアアア パアパア プアパア! と警笛を鳴らし追い越して行って
しまった。
東古市から約7キロメートルの道のりには30分かかり永平寺門前に到着した。
春男は安男君らは何処かなあと思いながら、観光客でごったかえしている道路上に
目をキョロキョロさせて見ていた。
それにしても涼しい好い風が吹いている。大きな杉並木とこの横にある小川、こ
こに居るだけで何とも形容できないような清々しい気分にさせられる。自転車を道
の端に置き、近くのベンチに腰を降ろした。観光客がぞろぞろと行きかっていた。
ベンチで休憩だなんて全く詰まらない。
春男はコーラを飲みながら休憩することにした。
心地よくちびりちびり飲んでいると、食堂の階段を降りてくる二人連れ・・・
あれれ! あっ ! あれっ! それは安男と安子だった。