#1923/3137 空中分解2
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問題小説:続・岩佐由美子、汚された白衣(ケジメ篇) 弾 正
★内容
予想外の天国夫婦の告訴によって窮地にたたされる岩佐由美子。
しかし、原告の天国昇が病院理事から特別背任で告訴され。・・・
6.女はなおも追いつめられる
しばらくして天国昇が特別背任で起訴され、事実上の破産状態となった天国鬼子も
岩佐由美子に対する告訴状を取り下げたため、彼女は晴れて無罪放免となった。
その日、彼女が帰ると一人の男が店の前に立っていた。しわくちゃのシャツに、薄
汚れたジャケット。折り目も何もないズボンという出で立ちの競輪・競艇場で見かけ
る『拾い屋』のようなカッコをしていた。
岩佐由美子は、不振に思いながらも、心当たりはまったくなかった。男の近くへよ
ると、ラジオの音声が聞こえてきた。どうやら競馬中継を聞いているようだ。
「最後の直線コース。さあ、マイネルヨース依然として先頭だ。2馬身ほど離れてホ
リノウイナー・トモエリージェントその差を詰めます。外側を上がってくるのがヤマ
ニンゼファーであります。差を詰めてヤマニンゼファーが追いかける! 続いてムー
ビースター・ダイタクヘリオスが上がってきた。大外からはカミノクレッセでありま
す。カミノクレッセ後方から一気に上がって参りました。さあ、先頭はヤマニンゼファ
ー、続いて追いすがるのがマイネルヨースとダイタクヘリオス。しかしヤマニンゼファ
ー依然として先頭! ヤマニンゼファー、2番手は大外から追いすがるカミノクレッ
セかムービースターか。ヤマニンゼファー、ゴールイン! 2着はちょっと微妙です。
わずかにカミノクレッセ優勢だったでしょうか」
「ちぇっ! このバカ野郎! 死ねえ! 死んで馬肉になってまえ!」
男は持っていた馬券をビリビリに破くとあたり一面にまき散らした。
「ち、ちょっとお店の前で何をするんですか? この店に何かご用ですか?」
競馬に熱中していたときに、突然美人のねえさんに声をかけられた男は、まじまじ
と岩佐由美子を見つめて、
「あ、あんた、ここの人か?」
「え、ええ。この店のものですけど。・・・何か?」
「・・・じゃあ、持ち主はあんたか?」
「そうですけど」
岩佐由美子が返事をするや否や男は突然大声で、
「返せ! この土地と店は俺のもんや。鍵ださんかい。はよ、出せ!」
「ち、ちょっと、なにするんですか。やめてください。きゃあ、ドロボー!!!」
男は彼女につかみかかってショルダーバックをひったくろうとしたが、岩佐由美子
が大声を張り上げたために少し後ずさった。
「ま、またんかい。もともと、これは俺の店なんや。ところが、店を貸してやってた
夫婦が一家心中をはかりやがったんや。そのときちょうど、俺もバブル崩壊のあおり
を受けて会社が窮地にたってたんや。そこでイカサマ不動産に売ることにしたんや。
イカサマ不動産は破格の4000万で買う言いよったんや。俺はとりあえずそのとき
入金せなあかんかった、1000万だけを現金で受け取って後は、2回に分けて15
00万づつ手形で受け取ることにしたんや。ところがや、イカサマ不動産は土地を転
売してドロンしよったんや。とりあえず1000万で急場はしのいだものの、後の3
000万をあてにしてた俺の会社は。・・・」
聞けば気の毒な話である。詐欺にあったのだ。
「そやから、この店と土地は俺のもんなんや。俺はだまされたんやから、この土地は
返してもらうで! なんやったら出るとこ出てもええんやで」
ああ、何ということだろう。やっと警察から解放されたと思ったのに、最後に残っ
たこの店さえ。・・・
「そんな。・・・私。・・・私。・・・」
岩佐由美子はその場に泣き崩れてしまったのである。
「あんた、泣き落としはたくさんや! はよ、鍵ださんかい!」
「いやぁっ!」
岩佐由美子は男の手を降り解いた。
「そうか、そんなら出るとこ出て決着つけるしかないな。覚えとれよ!」
捨てぜりふを残して男は去っていった。岩佐由美子はなおも泣き続ていた。・・・
「なんで。・・・なんで私だけが。・・・あんまりよ。私がなにしたのよ。・・・」
7.裁判にするまでもない
岩佐由美子は、もうどうにでもなれ、という心境で一日中家に閉じ込もって病人の
出る気力もない彼女は放っておいた。しかし、電話はなおもしつこく鳴り続けている。
彼女は、とうとう受話器をとった。
「はい。・・・」
「あっ、もしもし。大口警察署の家事相談部ですが」
ああ、とうとうくるべきものがきた、岩佐由美子はそう思って床に座り込んだ。
「もしもし、岩佐由美子さんのお宅ですよね?」
「はい。・・・」
「実は、如何様鴨之助氏が土地を返してほしいとあなたを訴えておられますので、事
情をうかがいたいのですが、今からお越し願えないでしょうか?」
「・・・」
「もし、ご都合が悪ければ。・・・」
「いえ。・・・行きます」
岩佐由美子は電話が切れた後もじっとしていた。
やがて、よろよろと立ち上がり、警察にいく準備を始めた。
警察に向かう彼女の足は重かった。彼女は夢遊病者のようにふらふらと歩いていた。
そのとき突然、一台の車が彼女の横からつっこんできた。
キキッー!
危機一髪車は停車した。
「アホンダラ! 死にたいんか! はよ、どかんかい、じゃまや!」
倒れ込んだ彼女に浴びせられる罵声。いっそのこと死んだほうがよかったかも、と
彼女は心の中で思っていた。そのとき、
「大丈夫ですか。早くこっちへ」
倒れ込んでいた彼女を一人の若い男が助けあげた。そして先ほどの車が発車しよう
とするのを
「オイ! 女の人の持ち物がまだ散らばってるやろ、ちょっと待ったれよ!」
そう言うと男は岩佐由美子のショルダーバックから散乱したものをかき集めて、彼
女に手渡した。
「おケガはありませんか? しかし、いくら何でもムチャですよ。赤信号でろくろく
注意もせずに渡ろうなんて。・・・」
「すみません。・・・お手数をおかけして」
「いや、それよりも。・・・あれ? あなた、岩佐由美子っていうの? 住んでいる
ところは大阪?」
免許証を見て男は、突然口調を変えた。
「はい。・・・」
「もしかして、運命小学校4年2組の岩佐由美子さん?」
「・・・」
「い、いや。失礼、まちがいました。変なこといってすみませんでした」
「いえ、どうしてご存知なのかと思って。・・・」
「えっ? じゃあ、やっぱり?」
「ええ」
「いやぁ、なつかしいなぁ。どことなく面影があるし。・・・ほら、僕だよ。と、いっ
ても覚えてないか。・・・運命小学校4年2組の松永仁政」
「小学校の松永、・・・仁政君。・・・ああ、松永君ね!」
「覚えてくれていた?」
「ええ、だってずいぶんいじめられたもん」
「よくいうなぁ。かみつかれて、ひっかかれた俺のほうが、泣かされたよ。いやぁ、
なつかしいなぁ。そうだ、こんなところで話もなんだから、お茶でもどお?」
「え、ええ」
岩佐由美子と松永仁政は、近くに見える喫茶・ヒミツに入った。
「さっきは夢遊病者みたいに歩いてたけど、何かあった?」
「・・・」
「まあ、ほとんど初対面で話したくないかもしれへんけど、悩みによったら相談に乗
れるかも知れへんな」
「・・・」
「ああ、ゴメンゴメン。そんな話しするためにお茶に誘ったんやないから。・・・」
「いえ。・・・実は。・・・」
彼女は思いきって自分の今抱えている問題を松永仁政に話してみようと思った。無
駄だとわかっていても、このまま警察にいく気にはなれなかったのだ。
話しをすべて聞いていた松永仁政は、しばらく考えていたが、やがて、
「話しはよくわかった」
「今から警察にいって。・・・もう、何もかもおしまい。・・・」
松永仁政は、涙をそっと拭う岩佐由美子を見つめて、
「いや、そう考えるのはまだ早いで。君の話しを聞いてると、あくまでも悪いのは、
そのハッタリ不動産とかいう会社や。君は善意の第3者や。そうなると如何様鴨之助
は、君に対して何も要求する事はできないはずや」
「えっ? まさか? でも、詐欺にあった不動産は、取り替えすことができるんじゃ
なかった?」
「もちろん、だまし取られた物は返してもらえる。しかし、如何様鴨之が賠償を求め
られるのは、あくまでもハッタリ不動産だけや。君みたいに善意の第3者が土地の所
有になってると、もう、如何様鴨之は土地を返してくれなんて言われへんのや。まぁ、
如何様鴨之助いう奴が1000万やそこらの金と、あてにもできない手形なんかで登
記を移すのが悪かったんやな」
「で、でも。・・・さっき警察から呼び出しが。・・・」
「いや、それはたぶん事実関係を確認するだけの事情聴取やと思うわ。心配はないと
思うけどな。まぁ、その如何様鴨之言う奴が好き放題並び立ててるのかも知れへんけ
ど。・・・そや、なんやったら僕もついて行こか?」
こうして、岩佐由美子は松永仁政に付き添われて、警察に出頭した。
結果は松永仁政の言うとおり、事実関係の確認が終わると岩佐由美子は解放された。
結局は如何様鴨之の見当違いの訴えであった。
その帰り道。
「今日はほんとにありがとう。助かったわぁ」
「いやいや。警察に行けば何もかも解決することやったんや。ところで、これからど
うするの? せっかく買った店も曰くつきやったらやりにくいやろ」
「うん。でも抵当にしてお金も借りてるから。・・・」
「そうか。・・・それやったらもう一度出直すこっちゃな。看護婦の資格持ってるの
やろ。病院紹介しようか?」
「・・・いいえ。私の母がね、お医者さんがいない島で開業医してるんよ。何度も誘
われたんやけど、やっと決心がついたわ」
「ふうん、そうか。そうやな、お母さんのそばにいるゆうことは、親孝行も兼ねるい
うことやからな。それがええかもなぁ。・・・」
岩佐由美子の家の前までおくって、松永仁政はまた駅のほうへ歩いていく。井沢由
美子は去っていく松永仁政に後ろから、
「なんで、私が小学校で一緒の岩佐由美子とわかった?」
と、聞いてみた。
松永仁政はいったん立ち止まり、
「そうやなぁ。昔から男の子が女の子をいじめるんは、ほんまは好きやいう証拠やて
よくいうなぁ」
早口にそういうと、振り向かずに足早に去っていった。・・・
<了>
弾正(だんじょう)