AWC 小説:ある国での滞在日記から やまもも


        
#1924/3137 空中分解2
★タイトル (LYJ     )  92/ 7/ 4   2: 4  ( 48)
小説:ある国での滞在日記から やまもも
★内容

 天井のオンボロ扇風機がけたたましい音をたてながら部屋の蒸し暑い空気を
虚しく撹拌している。汗が全身からとめどもなく吹き出してくる。俺は汗の海
の中で溺れてしまいそうだ。あーあ、水槽の中で酸素が欠乏して苦しんでいる
魚のように、俺は狭い部屋の蒸し暑さにすっかりへたばってしまったよ。

 よりによってなんでこんな国のこんな町に派遣されたんだろう。こんなとこ
ろで暮らすぐらいなら、ブタになって故郷のブタ小屋で暮らす方がずっとまし
ってもんさ。でも、この国は冒険野郎にはとってはきっと魅力のあるところだ
ろうな。雨の日に街を歩けば、アマゾンの沼沢地の探検さ。舗装されてない道
路が多いから、靴もズボンもドロドロになる。風の日には砂煙が舞って、サハ
ラ砂漠に迷い込んだんじゃないかって錯覚するぜ。それに、街には異国情緒溢
れる香りが充満している。廃棄された野菜や果物の腐った臭い、それと道路の
両端に掘られた溝からの泥水の臭いがブレンドされて、この国独特の匂いとな
って街中に漂っているのさ。

 街を歩けば、インディアンたちの襲撃も覚悟しなければならない。たくさん
の子供たちがうるさく纏いついてくるのだ。街には、戦争で家を焼かれ親を失
った浮浪児たちが溢れている。今日も、外出したときに子供たちに包囲されて
しまった。俺は、いつものようにキャラメルやチューインガムを遠くにばらま
いて、連中がまるでパンくずに群がる鳩のように大騒ぎしている間にうまく逃
げ出すことができた。だが、その後で酷い目に遭ってしまった。公園を通った
とき、そこで遊んでいた一人の男の子が目にとまったのだ。故郷で待っている
幼い我が子になにか面影が似ているような気がしたので、俺は思わず手に持っ
ていた写真機でその男の子を撮ってしまった。

 そのとき、近くのベンチに座っていたみすぼらしい身なり爺さんが飛んで来
た。そして、俺に向かって大きな声でなにかを言った。俺が子供の写真を撮っ
た行為に問題があったのかもしれない。爺さんは何度も同じ言葉を繰り返すの
だが、俺にはさっぱり分からない。それに、あっという間に俺の周りは人だか
りが出来てしまったから、まさかこの爺さんをぶん殴って逃げ出すわけにもい
かない。俺はこの国の栄養失調のモンキー野郎どもに取り囲まれながら立往生
してしまった。

 このとき、人垣の中から一人の現地人の青年が出てきて、英語で「どうした
んですか」って俺に聞いてきたときには本当に嬉しかったね。俺はこの青年に
通訳を頼むことにした。青年は爺さんとなにか話し合った後、俺に向かってこ
う言ったものさ。「このお爺さんは、あなたが撮ったお孫さんの写真を後で送
って欲しいと言っています」。

 俺は青年に頼んでこの爺さんの名前と住所を聞くことができた。子供の写真
が現像できたら、すぐにこの写真を爺さんに送ってやるつもりだ。

 ああ、早くこんな日本のような貧しくて立ち後れた国からおさらばして、故
郷で待っている愛する妻や子供の顔を見たいもんだ。俺の息子は、別れたとき
はまだ3才だった。しかし今年は1949年、彼と別れてもう4年になる。彼
も随分大きくなっているだろう。ああ、早く帰国したいもんだ。





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