AWC 殺人事件殺人事件 [1]  永山


        
#1888/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  14:54  (200)
殺人事件殺人事件 [1]  永山
★内容
 一.プロローグに代えての約束
 読者の皆様、私のような者の作品を読んでくださって、いや、読む気になっ
てくださってありがとうございます。
 そのお礼として、ちょっとしたトリックをこの作品の最後でお目にかけまし
ょう。
 トリックと言っても、実にくだらない、単純な物です。でも、独創性はあり
ます。何せ今まで、誰一人として考えつかなかったトリックの分野だからです。
 ひょっとしたら、パットマガーの真似じゃないか、と言われる向きがあるか
もしれませんが、私は明らかに別物だと考えていますので、承知しておいてく
ださい。
 それでは最後の章を楽しみに、読み始めてください。さあ……。

 二.問題
  1 「私」とその交友関係
 私はその日、雇い主である山口伸のところへ呼び出された。
 私の名前は本岡良一と言い、W大学学生である。現在24才の四回生。おわ
かりですね、この意味。
 それはともかく、山口伸という人のところへは、アルバイトとして行ってい
るのだ。何のアルバイトかと言う前に、山口さんのことを、少し知ってほしい。
年齢70才。一応、断っておくと男。かつてはその名を一部に知られた探偵で
あり、現在は老齢のために引退している。若き日に蓄えておいた財産を元手に、
株の売買を趣味とし、軽くパソコンを使いこなす。そんな今日でも、探偵業か
ら卒業出来ず、私を雇い、事件を依頼されれば、私が収拾してきた情報を元に
推理を働かせ、真相を暴く、といった感じの老いて益々盛んな安楽椅子探偵で
ある。
 何だか、文庫本のカバー折り返しにある登場人物紹介みたいで、すみません。
ま、これで何のアルバイトか、わかったでしょう。探偵助手、仲々いい響きだ
と思います。これが探偵手伝いなんかだと、いただけない。家事手伝いを連想
してしまう。
 この「物件」をアルバイト情報誌で見つけたとき、ちょっと変だなとは思い
ながらも、日給一万円というのにひかれ、山口伸の屋敷に来たのが、私を含め
て五十余人。採用試験があるとは記してあったが、その問題用紙を見て驚いた。
巻物のように長い上、何も書いていないのだ。真っ白けというヤツである。み
んながざわついていると、会場に設置してあったスピーカーから、老人の声が
流れてきた。
「よく来たな、諸君。わしが山口伸だ。白紙用紙が配られ、戸惑っているよう
だが、問題はちゃんとある。つまり、採用試験とは、その用紙に書いてある文
字を読み、さらにその書いてある問に答えることだ。もちろん、正確に、だぞ
よ。それでは、始めい!」
 この時点でばかばかしいと、あきれて出て行った人、四名。残った者は、色
色とやってみた。あぶりだしと考え、ライターで用紙をあぶろうとして、燃や
してしまった奴。水に漬けると見えるようになる特殊インクで書いてあると考
え、きたないことに、必死に唾をためて濡らす奴。表面に凸凹があって、鉛筆
をかけると文字が浮き出ると思い、用紙を真っ黒にしてしまう奴。自分で勝手
に、「問題 1+1=?」と書き、2と答えている奴。極小さな文字で書かれ
てあると考え、周りの者から眼鏡を集めて読もうとする奴。本当に色々とやっ
てみたが、何も文字は出てこなかった。
 私も悩んで、ヤケ気味に、紙を丸めて「忍法……」とでもやろうとしたとこ
ろ、その巻いた縁に文字が書いてあったのである!
 それは、「この紙に書いてある問題は何か」というものだった……。

 このような老人とこのような経緯で知り合い、雇われることになった私の生
活は、前より少しは忙しくなったものの、それ程でもなく、それでいて月二十
万は下らないのだから、結構なものではあった。
 この就職難の世の中においては、今のアルバイトを続ける方がどんなに楽か
知れないが、そうもいかないだろう。来年卒業予定の私も、H出版会社を本命
に、就職活動をやっている。そのH出版には、先輩の川上佳子という人がいる
のだが、この人の紹介は後にしよう。そうこうしている内に、山口家に着いた。
 私は描写能力、特に建築物についてはさっぱり駄目なので、あえて山口屋敷
がどのような様子なのかは、記さない。
 ま、簡単に言えば、十字架のない教会を二回り程大きくしたようなものであ
る。
 ライオンの顔に牛の鼻輪を通したようなのが付いている門を抜け、私は玄関
先にたどり着き、インターホンを押した。
 山口伸さんの老人特有のしわがれ声で、
「どちらの方じゃ」
 と言ったので、
「本岡です」
 と、私はインターホンに向かって応えた。するとドアが開き、山口さんが杖
を左手でつきながら、顔を出された。別に足が悪い訳でもないのに杖をついて
いるのは、安楽椅子探偵をやってみたいからだと、この老人は語ってくれたこ
とがある。
 掃除以外は屋敷内のことは全て一人でやってしまう山口さんには、家族がな
い。はげ頭の際にある残りわずかの髪に白いものはなく、ふっくらとした頬、
細い目、大きな鼻とその下にある髭、さらにいつも笑っているように見える口
元と豊かな顎髭。容貌を見ただけだと、明るそうな山口老人だが、家族がいな
いのはやはり寂しい……等とは一言も言わない。この人が寂しがることと言え
ば、現実に起きる犯罪、特に殺人事件のつまらないことくらいである。
 新聞に殺人事件の記事が載るや、すぐに私を呼びつけ、情報を仕入れさせ、
犯人を推理しようとするが、そうする間もなく、じきに犯人が捕まってしまう
ので嘆いている、そんな山口さんが、もの凄くうれしそうな表情で言った。
「時間通りによく来たの。ま、入って来なさい」
 山口さんの書斎には一人の男が来ていた。片倉優右という、一課の刑事だ。
この人が警察内で、どの程度の位にあるのか、私には分からない。山口さんの
話によると、この片倉刑事が若かった頃、ある事件で知り合い、山口さんが知
恵を貸してやって、片倉刑事の手柄となった。それ以来、難事件にぶつかると、
知恵を借りにやって来るのだと言う。
 片倉刑事が来ていて、山口さんがうれしそうにしているとくれば、原因は一
つ、難事件を持ち込んで来たのだ、片倉刑事が。
 私は片倉刑事と軽く挨拶を交わすと、そこにあった椅子に腰掛けた。同時に、
山口さんがしゃべり始めた。
「さ、本岡君が来たんじゃから、事件の概要を手短に話してやってくれたまえ、
片倉君」
「はい」
 片倉刑事はそう返事をすると、一つ深呼吸してから、話をし始めた。

  2 アリバイ
「これから話す事件は、今日から五日前に起こったものです。被害者は愛染近
子、25才。職業は作家で、最近売れ出したところだったようです。売れてい
なかった頃は、双子の姉で、モデルをやっている君子に養ってもらっていたら
しいですな。えっと、現場は被害者宅であるアパート<O旗荘>の一階2号室。
死因は鈍器による後頭部殴打で、凶器は食卓にあったと思われる花瓶。硬質ガ
ラスで出来ています。何故、食卓の上にあったと考えられるのかと言うと、花
瓶が倒れないようにするためか、瓶の底に両面テープが付いており、その糊の
跡が食卓上にあったからです。死亡推定時刻は五日前、つまり今月の二日です
な、その日の午前七時から九時の間だと思われます。第一発見者は、アパート
の管理人のおばさんで、その話によりますと、近子は普段なら昼頃に管理人室
に遊びに来るのに、その日に限って来なかった。不審に思って2号室に行って
みると、合鍵を使うまでもなく、ドアが開いていたので、室内の様子を伺った
ところ、血生臭い臭いがする。一層、不審に思い、上がり込んでみると、被害
者を発見したということです。物色された様子はないことから、恨みによる犯
行のセンで捜査をしてみたのですが……」
 ここで、片倉刑事は一息ついた。テーブル上にあったコップの中身を空ける
と、再びしゃべり始めた。
「が、うまくいっていないのです。だからこそ、こうして山口さんを訪ねさせ
てもらったんですが」
「有力な容疑者はいないんですか?」
 と、私は聞いた。
「いるにはいるんですがね、アリバイがあるんですよ」
「一応、言ってくださいよ。誰なんです?」
「双子の姉の、愛染君子ですよ」
「え? それで、動機は?」
「これは無理矢理考えたんですが、一流モデルの自分に、売れない作家の妹が
いるとなると、目障りというかスキャンダルになるというか……。あと、妹を
養うのが嫌になったとか」
「かなり強引なような気がしますが。近子は売れてきていたんでしょう?」
「そう言われても、他に容疑者がいないんです。それよりアリバイです、問題
は」
「どんなアリバイで?」
「モデル仲間の蜂八千鶴子という人が、当日の午前八時頃、君子の家に電話を
していて、話もしているんですよ。時間にして三十分くらいですが、君子の自
宅から近子のアパートまで、自転車で往復だから、午前七時から九時の間に犯
行があったということは、君子は犯人でないことになってしまう」
「今、自転車と言いましたが、愛染君子さんは自動車の運転は、出来ないんで
すか」
「そうです」
「タクシーに乗ったとは、考えられないんで?」
「絶対にない、とは言い切れませんが、まあ、ないでしょうな。朝も早くから
モデルのような人が乗って来れば、目立ってしょうがないでしょう。で、自転
車の時速を三十kmとして、往復三時間かかるなら、君子の家から近子のアパ
ートまでは約九十km。自動車は朝の渋滞を考えると、せいぜい時速六十km
でしょうから、九十を六十で割って、一時間半くらいかかってしまい、愛染君
子が蜂八千鶴子からの電話を受ける前であろうが後であろうが、彼女に犯行は
不可能ということになります」
「では、鉄道やバスの利用は……」
「それも駄目でした。結構、へんぴな所にあるんですよ、君子の家も近子のア
パートも。どう乗り継いだとしても、不可能だと思いますがね。駅までの距離
があるし」
 この点は、後で、私と山口さんとで確認をしたので、間違いない。
「それでは、まさか飛行機なんてことはあり得ないから……。そうだ! 死体
を移動した形跡はありませんでしたか?」
「ははは。さすが、山口さんの下で修行を積んだだけあって、なかなか鋭い所
を突いてきましたな。しかし、そんな形跡は、少しも認められませんでした。
言い忘れていましたが、明らかに、現場は被害者の部屋です。と言うのも、凶
器である花瓶のガラスの破片が、室内のカーペットの上に、細かく散らばって
いたからです。さらに、死体に細工をして、死亡推定時刻を惑わせようという
ことも、見当たらないと、検視官は言ってましたが」
「うーん」
 うなっている私の方を見た山口さんが、次のように提案した。
「とにかく、断定してもよいと思える点を、まとめてみようではないか」
 同意する私と片倉刑事。山口さんは、満足そうにうなずいて、続けた。
「さて、断定してもよいと思える点は、
 1.現場は被害者宅(O旗荘2号室)。
 2.死因は、ガラス製花瓶による、後頭部殴打。
 3.犯行時刻は、二日の午前七時から九時の間。
 4.死体移動等の細工は見られない。
 そして5として、愛染君子のアリバイは成立する、のかどうかじゃが……」
「これはゆっくり、検討する必要がありそうですな」
 と、片倉刑事。
「疑わしい点と言えば、どうしてそんな早朝から電話をしたのか、ということ
がありますね」
「当局としても、そこを一番に不審に思っていたのです。何でも、千鶴子の話
によると、君子の方から、二日の午前七時五十五分くらいに電話をかけてくる
ように、と言ってきたらしいんです。それも当日に限って」
「いかにも、アリバイを作ったという感じじゃな」
 山口さんが言うと、私も呼応して言う。
「君子さんと蜂八さんは、親しいのでしょう? 蜂八さんが嘘の証言をしてい
るということは……」
「それはない。親しいと言っても、この二人はライバルみたいなものだからな。
千鶴子が、君子にとって不利になる証言をしたのなら、まだ分かるのだが」
「それでは、君子が千鶴子の家に行き、家中の時計を早めるなり、遅めるなり
していたら……」
「それも駄目。千鶴子が受話器を通して聞いているんだ、午前八時だという証
拠を」
「何なんです、それは?」
「朝の番組で、<モーニングコール>というのがあるのは、知っていますかね」
「一応は」
「その番組の司会者が、毎朝午前八時の番組開始と同時に、大声で<19**年*
月*日午前八時、モーニングコール!>と叫ぶんだ。その声を聞いたと、蜂八
千鶴子は証言していますので、愛染君子のアリバイは、完全になります」
「そうですか」
「もう、諦めたんかいのう、本岡君」
 と、山口さんが聞いてきた。私は頭をかきながら答えた。
「残念ながら。山口さんは、何か思い付いたのですか?」
「うむ、だいたいはな。まだ、確証がないから、何とも言えんが、間違いない
と思っておる。そこでじゃ、本岡君。君に調べてもらいたいことが、いくつか
あるんじゃが」
「何でしょう?」

−続−




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